赤い剣
隣町について、メルロの館に向かう。
夜は、酒場が賑やかだ。
あちこちから、喧騒が聞こえる。
住宅街に入ると急に静かになる。館周辺もひっそりとしている。
正門から入っていく。
周囲の人間がオレを見ているが、昨日の今日でも、館の客人だと言う事が分かるらしい。
軽くお辞儀をされるので、挨拶をしながら館の奥へ進んでいく。
メルロはいなかった。
無駄足だったか。
しかたがない。
明け方には帰ってくるというので、客間で待たせてもらう。
一番最初に連れて来られた部屋だ。相変わらずゴージャスな内装だ。
案内されるままに、ゆっくりと腰を下ろすと、昨日今日の事を思い出す。今まで、事なかれ主義で平凡で平和な毎日をルーチンワークで過ごしてきたのとは、あまりにもギャップのある数日を送った。
どうなるかは、分からないし、こんな危険なところに来て、どうなってしまうのかも不安だが、それ以上に疲れた。
ぼんやりと考えを巡らせていると急速に眠気が襲ってきた。
「全面戦争だよ!準備しな!」
怒鳴り声で目が覚める。
しばらく立つとバンッとドアが押し開かれる。
血まみれのメルロがそこに立っていた。
治癒魔法で傷は塞がっているようだが、凄い形相だ。
「あんたかい、ちょうどいい所に来たね」
「何があったんでしょうか?」
「隣町のエテ公がちょっかいかけて来たんだよ。徹底的に思い知らせてやらないとね」
「戦争って聞こえましたが」
「そうだよ、戦争だ。先に手を出したのは、あいつらさ潰す口実が出来て好都合だよ」
「まだ、食客になると決めたわけではありませんが、お手伝い出来る事があれば、協力させていただきますよ」
「もちろん協力してもらうさ、ついてきな!」
メルロはニヤリと笑うと部屋を出て行った。オレも後からついていく。
二人で小部屋に入ると
「ウォーターボール」
いきなり水魔法で攻撃された。
と、思ったら、俺の頭上に発射された。
頭上に大きな壺が設置されていて、その中に天井に当たった水が落ち込む、すると、壺に開いた穴から、頭上より水が落ちてきた。良くできている。
メルロは水を浴びながら、装備を外していくと、アイテムボックスにどんどん入れていっている。
さっきまで小部屋に充満していた血なまぐさい臭いも消えていく。
「戦争が近い。お前はどうやら特異体質のようじゃな。私の魔力回復に一役かってもらおう」
「回復剤なら数個持ちあわせておりますが」
「うむ、そちらではない。分かりやすく言うと老化した体を全盛期まで回復したい。エテ公相手となれば、こちらも油断できん。赤子の頃より闘うことのみを教えこまれ、戦闘の英才教育された戦闘集団だからな」
「そんな教育機関があるとは知りませんでした」
「山の中にあるし、人数も多いわけではないしな、普通では知ることは無いだろう」
「で、老化の回復というとやっぱりアレですか?」
「うむ、今から木偶を集めたのでは、時間が足りんからな」
「木偶?」
「分からんなら良い。とにかく始めるぞ」
ムードもへったくれも無いな。まぁ、俺にはそんなものはいらない。とにかく面倒な交渉もなく、希望はかなった。願ったり叶ったりだ。
アラウンドフォーティの美熟女だったメルロも今は、アラサーぐらいになっている。
転生前の俺と同じ歳ぐらいだが、同窓会や、職場にもこんな美人なアラサーはいなかったな。
もちろん見た目もそうだが、声のイントネーションが凄く可愛い。
基本的に凄く偉そうな口調だけど、イントネーションが柔らかいので刺を感じない。
声音も特徴的なのかもしれない。
青白い肌は見た目通り、ひんやりと冷たく、つきたての餅のようにしっとりしている。
柑橘系の香りが鼻をくすぐる。
俺より小柄な体だから、父性愛みたいなものもムクムクと湧いてくる部分もある。
麻薬だとか、木偶だとか、不安は一気に頭の中から消えてしまった。
消えたと言うよりも、凶暴な真っ白な雪を踏みしめてしまいたいというような暴力的なまでの欲望が俺の頭を塗りつぶす。
前を歩いて寝室に向かう、後ろをついていくが、歩く度に、背中から生えた羽と羽の隙間に、プリップリと真っ白な小ぶりなプリンが動く。
寝室に着くと、メルロは振り返り、ニヤリと笑いながら挑戦的な目線、試すような目線をオレに向けると一言発した。
「好きなようにしてみろ」
挑戦的な言葉で、獣の鎖は解き放たれた。
乱暴とも思える獣の蹂躙。
真っ白な雪は、次第に桃色を帯びていく。
枯渇した。真っ白な灰になった。もう明け方だ。
結局、昨日は一日中耐久レースに挑戦してしまった。
食事と、酒、休憩をとりながら、無我夢中で欲望を叩きつけてしまった。
最終的に、マグマの出る感覚はあっても、マグマは出てこなくなった。吹き出す感覚のみだ。
そして、ついに先ほど、オレの活火山は完全に沈黙してしまった。
休火山になった。
もう、どんな手を使おうとも無理だった。
昼過ぎからは、火山活動を活発化するために、目隠し、縛り、コスプレと様々な活発化促進対策も試みた。
夜半を過ぎてからは、酒の力も借りた。
だが、火山はもう噴火しない。
もう、俺の人生に思い残すことはない。
気絶するように、ベットに倒れ込んだ。横には気絶してる人がもう一人。
ダブルノックアウトドロー。
ぐったりとした疲労感の中、目が覚める。
隣には、メルロがスヤスヤと寝ていない。
ハッとして、ベットから起き上がると、全身赤黒い鎧で武装した、一人の美少女が、真摯な眼差しでこちらを見つめていた。
オレと目が合うと、腰から日本刀のような真っ赤な剣を抜いてオレに向ける。
メルロだろう。黒い髪に、黒いタトゥーは、燃えるような赤い髪、肩から手首までの真っ赤なタトゥー、と変色してしまっているが、眼差しは変わらない。
これが全盛期の姿ってヤツなんだろう。小さな身体は、また一回り小さくなったようだが、全身から発せられる圧が全然違う。
「完全体になった、お前はもう不要だ。ご苦労だったな」
ザシュッ
唐突に袈裟斬りで左肩から切り下ろされる。
ベットに吹き出す自分の血を見ながら、浅はかかな考えで行動した事を後悔する。
剣を向けられた瞬間、そういう映像が頭を過ぎった。
確かに、完全体となったメルロに、もうオレは必要ないだろう、小出しにすれば良かった・・・
「この剣を捧げさせてくれ」
唐突な発言を、理解できない。
「へ?」
間抜けな返事となって帰っていく。
「私はもう、このまま老い、死を待つのみと思っていた。お前は命の恩人じゃ」
この時は、自分が国を巻き込むような大きな因縁に巻き込まれようとは、まだ考えてなかった。
ただ、ぼーっとした頭の中で、死なずに済んだ。と思っていた。




