調味料
冒険者ギルドに行ったが、ラグがいない。
昼時で中途半端な時間だからな。
もう冒険に出てしまったのだろう。
一応、ラグ一家の拠点は聞いていたので、一度そっちに行ってみる。
ラグは拠点の家にいた。
「よお!」
満面の笑みでオレに手を挙げて挨拶してきた。
「あの、冒険には出なくて良いのですか?返済に間に合わなくなるのでは?」
ラグは良い奴なのだか、なんでも楽観的だ。こっちが心配する立場でも無いんだけどな。つい余計なこと言いたくなる。
今日は、全員集合だ。
「昨日は、なんだかんだで3万ドランも稼いだからな。帰ってきてみんなで晩飯食ったら2万ドランに減ったけど、なんとかなりそうだ。」
「そのペースではもしかしたら足りないんじゃないんですか?」
「今日は、いい話があってな、本部に行くんだ。うまくいけば余裕で返せる」
うん。それは困る。
「えっと、そんなに良い話ってゴロゴロ転がってるものですかね?」
「昨日は、シャルとアースとセシルがいなかったろ?実は、3万ドランのうち、2万ドランはこいつらが本部の仕事で稼いできたんだ。今日は、本部でもっと人が必要になるっていうからよ。俺達にとっては渡りに船ってわけで、今日は本部の仕事に全員参加だ」
シャルとセシルって、シャルロットとセシリアの事だろう。略称で呼ぶとか、羨ましすぎる関係構築してる。
でも、イケメンじゃないからチョット許せる。
「それは、凄く良さそうな仕事ですね。どんな仕事なんですか?」
「ん?まぁ、本部の仕事なんで、オレの判断では、詳しくは言えないな。お前、どうせ本部に一緒に来るんだろ?親分に聞いてみろよ」
「分かりました。では、同行させていただきます」
一家の本部ってとこに移動する。
もちろん、オレはラグ一家の一番後ろをついていく。
ああああああ。
今日は5人の香りのコラボレーション。
ずっと、このまま歩いていたい。
最高です。
見て良し。匂って良し。最高の美女軍団だな、本当に。
本部っていうから、メルロの館みたいの想像していたけど、着いてみたら、普通の事務所だった。
なんなんだろうな。隣町とそんなに町の人口も規模も、経済的な面でも、大きな違いは無いのに、冒険者をまとめる組織の本部のこのギャップは。
事務所の奥にどんどんと入っていく。
最後にちょっと大きめな扉を開いて奥に入る。
そこにピンクのゴリラがいた。
「良く来たね」
ピンクのゴリラが喋った。
「親父。今日はちょっと、一人うちの客人がついて来てるんだ」
ラグがオレを紹介する。
親父って言ってるけど、この容貌はメスゴリラなんですが。
オレも挨拶しとく。
「はじめまして、冒険者ルーク・トラビックと申します」
「私はエイドリア・モリーヌだ。よろしくね。みんなは私を親父って呼ぶけど、女だよ。それであんたは、うちの組織に入りたいのかい?」
「まぁ、そんなところです」
「なるほどね。ラグが連れてきたなら信頼出来るね。まずは、どんな組織か知りたいってことだね」
「それは是非知りたいです」
そもそも、変装までして、ラグに近づいた目的も、ラグ一家の事や、その周辺情報を探るのが第一の目的だったからな。それにしても、ラグは信頼されてるんだなぁ。人徳凄いな。
「よし、分かった。じゃぁ、せっかくだから、今日のラグ達の仕事の内容も聞かせてあげるよ。参加するしないは自分で決めな」
「ありがとうございます」
ピンクのゴリラもなかなか懐が深い人物だな。
「まずは、昨日はご苦労だったね。シャルロット。セシリア。アース。あんた達のお陰で、第一波は大成功といって言いだろう」
「「「ありがとうございます」」」
3人は深々と頭を下げる。
「そこで、今日は第二派だ。今日は護衛も付くだろう。何処かに監視もいるはずだ。相手を殲滅する事は無理でも、必ずブツは手に入れてきなよ。こちらの事がバレてしまうのは、この段階にきたら仕方ないね」
「親父、俺は人殺しに関しちゃなんとも思っちゃいないが、こっちの身元がバレたら戦争になるんじゃないんですか?」
「まぁ、そうなるかもしれないねぇ」
「鮮血の女王と本格的にやるんですね」
「そうだね。この仕事には国からの支援もあるからね。徹底的にやっちまおうや」
「国ですか?そういう仕事は騎士や領主の仕事では?」
「まだ、確証の無い段階で、領主や騎士が動くのはまずい。それにその他の事情もいろいろとあってね」
「そうですが、親父がやれと言うならやるまでです」
「そうかい、あんたらは、何か聞きたいことは無いかい?なんでも良いよ」
なんとなく、察しはつくが、一応確認だ。
「新参者ながら、質問することをお許しいただけますか?」
「ん?そうだね。あんたは何言ってるか分からなかったか」
「申し訳ありません」
「まぁ、戦争になれば全部分かることだし、これからは、この情報を流布する仕事も増えるからね。別に秘密でもなんでもないから、いいよ」
「ずいぶんと大きな話ですね」
「そうだね。どこから話そうかね。あんた「ミロネーダ」は知ってるよね」
もちろん知っている。この地方で5年前から爆発的に流行りだした新しい調味料だ。こいつの登場でこの地方の食文化も大きく変わることになった。
「有名な調味料ですよね」
「そうだね。まぁ、知らないヤツはいないよね。じゃぁ、「バイオトランス」は知ってるかい?」
「聞いたことも無いです。それも、調味料なんですか?」
「いや、ミロネーダの原材料だよ、ミロネーダの20%はバイオトランスで出来てる」
「バイオトランスなんて聞いたこともないです」
「そうだろうね。国の方でも、その存在を知ったのはつい最近だからね。知ってる奴はこの国でもごく一部だよ。問題はこのバイオトランスさ」
「どういった問題があるんでしょうか?」
「まず、バイオトランスは麻薬だよ。中毒性はかなり低いけど、常用していれば、普通では、まず止められなくなる。ミロネーダが爆発的に売れてるってことは、国の知らない間にかなり中毒者が増えてしまった。とりあえず、今の段階では、国はルートを探ってる。元締めをね。扱ってる、商人や仲介業者は、そんなものだとは知らないで流通させてるだろうからね。本当の黒幕が誰かは探らなきゃならない。そこで今回の仕事さ」
「ブツと言うのはミロネーゼなんですね」
「いや、バイオトランスさ、通常はミロネーゼに加工されるはずの、バイオトランスが、どうやらこの地方に原料のまま流されてきてる。それを掠め取るのが今回の国からの依頼だよ。国も必死さ、麻薬は国力を疲弊させるからね」
「そこから戦争にまでなるかもしれないんですね」
「そうだね、どうやら、そのバイオトランスの受け取り窓口は、隣町の青白い蝿女らしいんだよ。あんたも冒険者ならメルロって女の話は聞いたことあるだろ?」
冒険者じゃねぇし、だけど凄く良く知ってます。
「はい。確かに力のある人ですものね」
「あの女の力というよりも、あの「ブラッティーバタフライ」って組織の構成員がヤバイね。命知らず過ぎる。どんな無謀無茶な作戦でも平然と突っ込んでいく。命の駆け引きが無いぶん強さは尋常じゃない」
思い当たる節ありすぎるね。あのドラゴン戦は確かに異常だ。
「ここからは、私の推測だけど、ブラディーの奴らは、組織から支給される食事にバイオトランス混ぜられてるんだと思う。本人たちに自覚は無いけど、どんどんと組織から離れられない、組織のために動く、身体に改造されてってるんだろうさ。組織から離れても、支給される食事欲しさに、帰ってくる、組織に歯向かえば、食事抜きの禁錮刑。出てきた時は、従順に言うことを聞く兵隊の出来上がりさ」
食客即答しなくて良かったー!やっぱり、ヒモニートなんてありえないですよね。
あんな好条件あるわけないですよね。
あるわけないと思っても、煮え湯を何杯も飲まされないと、分からないもんだよ。
疑り深いオレ万歳!
ヘタレなオレ万歳!
「とんでもない話ですね」
「そうだね。あのメルロって女、顔からは想像出来ない恐ろしい部分がたくさんある女だよ。あいつの色香に酔った何人もの男が、一晩でエネルギー全部吸い取られて、枯れ木のように骨だけになって、屋敷から打ち捨てられてるって話は有名からね。魔物より悪質だよ」
生きてます。オレ生きてます。ああああああ。
生きてるって素晴らしい!
神様ありがとう。
私をお守りくださった魔族交流ありがとう!
ま・ぞ・く・こ・う・りゅ・うっぅっぅぅぅぅぅぅうラブだよ!ラブ!
「どうしたい?顔色が悪いよ?無理して今回の作戦は参加しなくてもいいんだよ。ミロネーゼとバイオトランスの話を流布するっていうのも、大事な仕事だからね。報酬は出ないけど、正式に組織に加盟してるわけじゃないし、そっちを良かったら手伝ってくれよ」
もう、この作戦内容からすると、メルロ側の監視を取り逃したら、エイドリア側にオレがいた事バレることになって、俺の立場が本当に大変な事になるだろう。絶対に参加出来ないと思ってたから、この提案は助かった。どうやら、メルロ側の人間は相当数殺すことになるみたいだし。調味料を盗まれたってのは、殺して奪い取るって事だったんだな。やっぱりオレはあまちゃんだ。盗む為に殺ささなきゃいけないってのも、アイテムボックスの弊害っちゃ弊害だろう。とにかく、戦争が起きるかもしれないというのは良い事を聞いた。準備をすることが、いろいろある。
「ありがとうございます。では、今回の作戦は遠慮させていただきます」
「いいんだよ。ラグ、じゃぁ頼んだよ」
「親父。任せてくれ」
ラグ一家と組織の本部を出ると、俺はラグ一家と別れた。
そして、ドラゴンのいた洞窟へと向かった。




