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どうも、バッドエンド確定の聖なる乙女一行です!  作者: 諏訪ぺこ


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8.東北東の湖

 


 広い、広い湖は一面どす黒い色に変わっていた。

 魔力過多の土地は急に現れる。今回はこの湖だったのだろう。そしてこの広い湖が魔力過多の土地になったことで、大量の魔物が発生している。遠目からでも湖からの瘴気が凄まじいことがわかる。


魔物暴走(スタンピード)一歩手前ってところね。侯爵領で足止めを食らわなくて本当によかったわ」

「そうですね。この瘴気の量は尋常じゃない……」

「ティア、魔術師たちの見解だと湖はもっと先になる。ここから浄化は……?」

「さすがに全部やるにはもう少し近づきたいわ。大型の魔物が多いもの。近い方が力の影響を受けやすい」

「そうなると、ここのルートを通る方が良いですかね」


 この湖の討伐のために、新たに二部隊合流した。オリバーの隊はそのまま総隊長直属の隊になり、そこから指令を他の隊に出す形になっている。

 みんなでどのルートから湖に近づくか、と検討をしていると近くの村から村長が尋ねてきた。


「聖なる乙女様、なにとぞ、何卒お願いでございます。我が村をお助けください」

「最善は尽くします。この湖は魔物暴走一歩手前の状態だもの。直ぐに対処しなければいけないわ」

「いえ、それだけではないのです……」

「どういうこと?」

「村では奇病が流行っております。そちらも見ていただきたいのです」

「奇病……?」

「黒い痣が体中に現れ、衰弱して死んでいくのです……」

「それはいつから?」

「湖の水が、おかしくなってからです」


 それならきっと魔力過多の土地に魔物が入り込んだことによる汚染だろう。村の中に井戸もあるそうだが、基本的にこれだけ大きな湖があると言うことは地下で繋がっている可能性がある。


 汚染された水を飲み続けていれば、病も広がるはず。しかも水は使えず、食べるものも殆どない状態だ。侯爵領で食料を入手していなければ、ここでの現地調達は難しかったと思う。


「優先順位としては湖なの。そこが終わってからでもいいかしら?」

「そんな……!」

「魔物暴走が起これば、せっかく治ってもみんな死ぬわ。あの広大な湖から魔物が止めどなく溢れでてくるのよ?」

「それは、それは……ですが……!!」

「村長、我々は魔物を討伐する部隊です。聖なる乙女、ファルティシーア様は魔物を討伐するためにこの場にいます。優先すべきは、魔物なのです」

「それは承知しております!! ですが!!」

「では王命に逆らい、奇病を治すのを優先し、その上で魔物暴走が起こった場合……貴方はどうなさるのです?」


 オリバーの言葉に村長は項垂れる。ほんの少しぐらい、誰でも思うことだ。ほんの少し、自分たちのために力を使ってくれないか? そのために大勢を犠牲にするわけにはいかない。

 私たちは魔物討伐が最優先事項なのだから。


「魔物討伐が終わったあとでなら、見させていただきます。ですが最優先は魔物討伐なのです。どうぞ理解してください」

「……もし、もしも娘が死んだら貴女様を恨みます!」

「どうぞ。恨んでください。それでも私は多くの方々の命を救うためにこの力を使います」


 そう告げると、オリバーが私の前に立った。そして村長に告げる。


「貴方が恨みをぶつける相手はファルティシーア様ではない。戦うべきときに戦えない自分ではないのか?」

「わ、我々は……ただの農民です……」

「だが武器をもって戦うことはできる。こんなにも酷くなる前に、対策はとれたはずだ」

「それは……ですが私たちにも生活があります。領主様だって何もしてくださらないじゃないですか!」

「私たちは、多くの人を助けねばなりません。だからといって貴方の娘さんを犠牲にしたいとも思ってはいない。助けられるなら、助けたいと思っています。だからこそ、今ここで私たちの足止めをする貴方は、なんの権限があってそれをしているのです?」


 畳み掛けるように告げれば、村長は力なく地面に座り込んだ。私たちを足止めするより、早く討伐に向かわせた方がずっといい。その分、討伐は早く終わるのだから。

 私はオリバーに目配せをする。オリバーは号令をかけて、直ぐに出立するようにみんなに告げた。


 東北東の湖は想像よりもかなり酷い状態だった。湖からゾロリ、ゾロリ、と魔物が這い出てきている。魔物暴走はもうすぐそこまで迫っていた。


 オリバーの声を合図に、魔術師たちが炎を放つ。そして騎士たちが駆けだした。

 私は騎士たちの負担を軽減するための術を発動する。誰も死なせないために。みんなが無事に大事な人の元へ帰れるように。


 そしてなるべく湖の近くへと寄る。


 大きな湖。その中心に魔物を生み出す核があるからだ。

 魔力が溜まった湖に余程強い魔物が入り込んだのだろう。そのまま魔力を取り込もうとして、逆に取り込まれたに違いない。


「ティア! あまり近づきすぎると危険だ!!」

「そうはいっても、ギリギリまで近づきたいのよ!」


 戦いのさなか、大きな声で言い合う。ただどう足掻いても私たちの意見が合わさることはないのだ。残念ながらね。これは聖属性持ちとして生まれた、私の仕事。

 私が、自由に生きるためにやるべき仕事なのだから。


 タイミングを計り、聖属性の力を解き放つ。白い花を湖に沢山広げ、この湖を浄化しきらなければいけない。こんなに大きな湖だとどうしても時間が掛かるのだ。

 早く、早く……もっと、ずっと広く、早く。


 祈るように、魔力を押し広げていく。ある意味、私の魔力量と湖に溜まった魔力量とのぶつかり合いだ。一応、魔物を生み出している分、湖の方が分が悪い……といいのだけど。


「ああ、もう……本当に……いい加減にしてっっ!!」


 八つ当たりするかのように力を湖に叩きつけていく。魔物の数は徐々に減っている。だけど核にはまだ届かない。湖は一部元の色を取り戻しているのに……! あともう一手、もう一手欲しい。そう考えていると、オリバーが槍を受け取り核に向かって投げた。


「え?」


 どう考えても届くわけない。なにせ岸から湖の真ん中までかなり距離がある。それなのに槍はぐんぐんと伸びて、核に刺さったのだ。

 驚いてポカンと口を開けていると、オリバーが振り向き私を見て微笑んだ。私はその顔を見て、すぐさま核に向かって直接力を叩きつける。


 パリン―――― と、ガラスが割れるような音がした。


 核が砕ければ、あとは聖属性の力が勝る。術式はしっかりと広がり、湖は元の美しい湖に戻った。あとはまだ残っている魔物を討伐するのみ。

 私たちは全ての魔物を討伐すべく、力を振るうのだった。


 そして、湖の近くにある村に寄る。そこでは魔物討伐の話を聞いていた村民たちが、私たちの帰還を心待ちにしていた。なにせ村人の多くは病に冒されている。さきほどの村長の娘だけではないのだ。


 私は一軒一軒回るよりも、その場で聖属性の力を発動する。こうすれば人だけでなく、汚染された土地も浄化されるからだ。それに一軒一軒回るのって大変なのよ。優先順位とか、そんなの私には関係ない。等しく救うにはこれが一番なのだ。


 村長は何か言いたそうな表情をしていたけれど、知ったことではない。

 私が手厚く一人一人見て回ると思っていたのかもしれないが。そんなことをしていては、他の人たちが助けられないではないか。


 そうして、東北東の湖に近い村から順番に回っていく。最後の村にたどり着いたときには、キラキラとした朝日が山間から顔を出していた。


「もーむり。もーやだ」

「お疲れ。ティア」

「ほんともーむり」

「俺も手伝えれば良かったんだけど……」

「十分手伝ってくれてるわよ?」

「でも、病を癒やすのも土地を浄化するのもティアに押しつけている」

「だって私しか出来ないんだから仕方ないじゃない?」

「それは、でも……押しつけていいわけじゃない」

「あのね、オル。私は……結構ワガママなのよ」


 そういってオリバーに抱きつく。体幹のしっかりした彼は私に抱きつかれたところで揺らぐことはない。安心安全の抱きつき心地だ。この安心安全な彼の腕の中で、安心していられるようになるには魔物討伐は欠かせない。瘴気が濃すぎるせいでどうしたって魔物が多いのだから。


「私、この腕の中で安心しているために魔物討伐をしたいのよ」

「……安心しているなら、逆じゃないのか?」

「そんなことないわ。だってオルの腕の中だからいいのよ。安全な場所にいたいわけじゃないの。貴方の腕の中だからいいの。そのために魔物討伐が必要ならするだけよ?」

「俺の好きになった人は、肝が据わりすぎてる……」

「でも好きでしょう?」


 私の言葉にオリバーは苦笑いを浮かべると、そっと私の頬にキスを落とした。



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