表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうも、バッドエンド確定の聖なる乙女一行です!  作者: 諏訪ぺこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/10

7.旅立ち


 東の森を浄化した翌日、他の場所に移動することになった。魔物の被害はここだけではない。他の地域でも困っている人々はたくさんいる。そういった地域の人たちが、オリバーたち魔物討伐部隊を必要としているのだ。


 ただ優先順位を考えると、そう簡単な問題ではない。

 なぜならどこも必要としているから。なるべく酷い場所から巡るのが理想的だ。東の森からだと、次は東北東にある湖だろうか。あの周辺も大型の魔物が出没している。


 湖は近くの村や町の水源となっていて、大型の魔物が出没するようになってからは生活がままならなくなっていると聞く。井戸もあるが、水路に流れる水が少なくなれば田畑に回す水が少なくなる。結果として作物は取れず、生活は困窮するのだ。


「難しいわね。東北東にある湖に一番に行きたいけど、その二つ手前の領は侯爵領だわ」

「侯爵領はそこまで魔物の被害が多くないですよね。領の騎士たちで対処できるはずですが……」

「本職から見て、そう思うのなら……そうなのでしょうけどね。でも侯爵はそう思わないのよ。なるべく長く、私を領に留めておきたい。王家から婚約破棄されてるなら、自分のところで取り込みたい。そう考えてるのよ」

「そんな……」


 私の言葉にオリバーの副官は眉を顰める。 

 いくら私が社交界が好きでなくても、それぐらいのことは知識として持っているのだ。いや、性格には王太子に叩き込まれたというか……これぐらい覚えておけ! と割とわかりやすい資料を用意してくれていた。


 まめな男なのだ。あの王太子は。

 しかし―――― こうなってくると、王太子の力を借りた方が良いのではなかろうか? 気を回して何か指令書でも送ってきてくれないかなぁ。ついついそんなことを思ってしまう。


「……でてくるときに指令書を先に作らせておけばよかった」

「ティア……そんな無茶振りを王太子殿下にするものじゃないよ」

「いいのよ。私が本来の仕事をできるようになったことで、王太子殿下の株が上がったのだから。むしろ感謝して欲しいわね。直ぐにでも即位できるわよ」

「ティア……」


 オリバーはふう、と吐息をつき「俺たちは王命で動いてるからね」といった。それはそうなのだけど、でもあの夜会を見ていれば、周りから退位を迫られるのは必至。

 それぐらい情けない姿を露呈しているのだから、今後は療養と称して離宮にでも隔離されるだろう。王妃様の性格なら、優しく語りかけながら真綿で首を絞めるように王位を譲渡するように迫るかもしれない。


 王家への求心力を考えるなら、今すぐにでも王太子に王位を継がせた方が良いのだから。

 そして私を含めた魔物討伐部隊を各地に討伐に向かわせる。そうすることで王家は民を見捨てていない、とアピールできるのだ。そんなことを考えていると、東の森を抜けた場所に設けていた野営所に早馬が駆け込んできた。


「伝令! こちらに魔物討伐部隊、第一部隊隊長殿はいらっしゃるか!!」

「俺がそうだ!」

「こちらは王太子殿下からのご下命です。『第一部隊隊長を魔物討伐部隊の総隊長に任命。聖なる乙女、ファルティシーアを連れ各地の魔物を討伐されたし! 貴殿らの行動を妨げる貴族が出た場合、王命を邪魔する場合は処罰対象であると伝えられよ!! これは国難であり、最優先事項は魔物討伐である!!』以上、お伝えいたしました」

「王太子殿下のご配慮、心より感謝いたします。我が国全土の魔物討伐と聖なる乙女ファルティシーア様の安全を我が剣に誓います!」


 オリバーは王太子からの命を受け、魔物討伐部隊の総隊長となった。

 伝令役は命令書をオリバーに渡すと、そのまま王城へと引き返していく。オリバーが総隊長になったことを他の部隊にも知らせに行くのだろう。


 危険な役目を押しつけて! と思うけれど、私を連れて歩くのであればそれぐらいの地位が必要と判断したに違いない。誰もがオリバーに好意的ではないしね。


 オリバーの家もそこまで家格が高いわけではないが、今から向かおうとしている場所も侯爵家の領が途中にある。私を私欲で使おうとする者が出てくる可能性を考えれば、総隊長という立場と王命であるという命令書はとても大事なものなのだ。


 それにたとえどんなに危険な場所でも、総隊長であれば私とセットで動かしやすい。沢山の思惑を王太子はコロコロと丸め込んで今の状態にしたというわけだ。


 一筆書いて持たせるあたりも、権威の使い道という意味ではよくわかっている。

 さっそく東北東にある湖へ私たちは歩みを進めた。これで途中にある侯爵領で足止めをくらうことはない。


「仕事はできるのよね。仕事は」

「ティア?」

「王太子殿下よ。あの人、仕事はできるのよね。性格は壊滅的にあわないのだけど!」

「……まあ、その。王太子殿下も悪い方ではないよ?」

「悪気はなくとも、こっちのイヤなことするから性格が悪いのよ」

「一応、不敬だからね?」

「大丈夫。ここに居るのは私とオルだけだし」


 気を利かせてくれているのか、毎回私とオリバーは同じテントや宿の部屋となっている。

 私たちが常に一緒に行動しているのもあるけれど。こうね、溢れでる幸せオーラがあるのかもしれないわね。とはいえ、討伐は危険な仕事だ。討伐に向かうときはちゃんと真面目に仕事をしている。当たり前だけど。


「……ティア、部屋は別々じゃなくて良いの?」

「男所帯だもの。一緒の方が安全でしょう?」

「それは、そうだけど……ティアだってお嫁入り前なんだからね?」

「お嫁入りする先は貴方なんだから、問題ないでしょう?」


 毎回のやり取りではあるが、一緒の部屋で眠るときは聞いてくる。諦めて腹をくくってしまえばいいのに。こういうのって女の方が肝が据わってるのかしら? でもオリバーの性格を考えれば、慎重なのも納得はする。


 私はクン、と服の裾を掴み反対側を向いていたオリバーをこちらに向かせた。


「オル、私は貴方が良いの。それじゃダメなの?」

「いや、だって……ほら、俺も男なんですが!?」

「貴方が女の子だったことある?」

「そういう意味ではなくて……」

「わかってるわよ。それぐらい。私は王家に子供を産むことだけを求められて婚約者をやらされてたのよ? 閨の知識ぐらいあるわよ」

「そういう! そういうことを言ってはいけません!!」

「私よりオルの方が乙女よね……」


 オリバーは耳まで真っ赤にして両手で顔を覆う。私は別にいつでもいいのだけど、オリバーは落ち着くまではそういったことはしたくない。と言う考えなのだろう。もちろんオリバーの考えは尊重する。


 だが別に性交渉をしたからといって聖属性の力が失われることはない。この力はただの属性であって、他の属性持ちと全く変わらないのだ。ただ遺伝するかはわからない、というだけで。


「ティア……俺はね、ティアを大事にしたいんだ」

「もうすでに大事にされてるわよ?」

「もっと大事にしたいんだよ」

「すーっごく大事にされてるけど?」


 この辺になってくると、お互い平行線だ。

 大事にしたいというオリバーとすでに大事にされていると思っている私。だって一緒にいるだけで満たされるもの。これは他の誰にもできないことだ。

 オリバーだけが、私の不安も性格の悪い部分も何もかもを包んで満たしてくれる。私が私でいて良いのだと、肯定してくれる。


 深い、慈愛。

 もうオリバーが聖なる乙女で良いのではなかろうか? 聖属性は持ってないけど。


「本当は、討伐に連れて歩くなんてしたくないんだ。俺以上に幸せにしてくれる人がいるんじゃないかって、そう思わずにはいられない。でも俺以上に君を愛せる人がいるとも思えない」

「オリバー以上に私を幸せにしてくれる人はいない。愛してくれる人も、今後現れることはないわ。だって私が欲しいのはオリバーの愛だけだもの」

「うん……」

「だから、部屋はこのまま続行です」

「……うん」


 オリバーは私を利用しない。ただただ私だけを見て、愛してくれる。私を幸福な気持ちにさせてくれる。それだけで十分なのだ。


 一緒の部屋で眠ることに同意したオリバーに抱きつくと、背伸びをして頬にキスを贈る。


「さ、明日は討伐よ。ゆっくり休みましょう?」

「ティアもね」

「もちろんよ!」


 まだまだ二人っきりで過ごす時間は短いけれど、それでも神殿で祈るよりずっといい。

 私たちの旅は始まったばかりなのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ