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どうも、バッドエンド確定の聖なる乙女一行です!  作者: 諏訪ぺこ


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5.東の森 1


 夜明け前に王都を出られた。荷物の中に、王太子の玉印が押された通行書があったから……というのもあるが、関門の出入りをチェックしているのは屈強な騎士たち。

 彼らの中に私を覚えている者がいた。


「……ファルティシーア様?」

「あら、貴方……前に治療に来た方ね? 今はここで働いているの??」

「ええ。おかげさまで……あの、ファルティシーア様はなぜ?」

「これから東の森に向かうの」

「東の森へ……?」

「王太子殿下に婚約破棄されたから、東の森にいる討伐部隊を助けられるわ」

「こ、婚約破棄!?」

「大丈夫、合意の上だから」

「いや、ですが……」


 婚約破棄された、というととてもインパクトがあるけれどね。合意の上だから王太子を責めないでね? と伝えておく。そうすれば私がどこに行っても許されるでしょう? と。


「それは、あのですが神殿は……」

「神殿には他の神官たちがいるから大丈夫。そもそも一番怪我をするのは貴方たち騎士よ?」

「そ、れは。はい。ですが、危険ですよ?」

「もちろんわかっているわ。でも行きたいの。もう閉じこもって、待ってるだけなんてうんざりよ」


 私がそう告げれば、騎士たちは一瞬だけ微妙な表情を浮かべた。だが直ぐに私に最上礼を取ってくれる。そこまでされる覚えはないのだけど。


「ファルティシーア様のご厚情、我々は一生忘れません」

「いやね。いいのよ。忘れて。私は私の意思で行くだけだから」


 そう。私は私の意思で行く。愛する人を護るために。側にいたいから行くのだ。


「いいえ。それでも感謝してもしきれません。名誉の地へ渡った仲間は多いのです」

「そうね……もっと、早く一緒に行けたらよかったのだけど」

「それでもこれからの者たちは、生きて戻ることができるでしょう」

「そうできるように最善を尽くします」


 助けられるなら、みんな助けたいもの。オリバーだけでなく、帰りを待っている人たちのために。愛する人を理不尽に失わないために。


 東の森に行くには馬で二日かかる。

 道中何かあっては、と関門の騎士の一部が私を東の森まで送り届けたいと申し出てくれた。私はその申し出をありがたく受けることにする。


 自分のことは自分でできるけれど、野営となれば話は別だし……それに、魔物ならなんとかなるけれど夜盗はなんともできない。東の森にたどり着く前に襲われたら意味がないからだ。


「ごめんなさいね。迷惑をかけて」

「いいえ。ですが我々も、東の森の中まではいけません。今の装備では心許ないので」

「それは大丈夫よ。さすがに魔物が蔓延る東の森には夜盗も出ないでしょうし」

「そうだといいのですが……」

「まあ、一番怖いのは人間だものね」

「魔物の脅威をのぞけば、そうかもしれませんね」


 騎士たちは苦笑いを浮かべる。なにか身につまされる思い出でもあるのかもしれない。

 私は彼らに心からの礼を言い、東の森の中へ足を踏み入れた。



 ***



 森の中は暗い。

 訓練を受けている馬ですら、恐る恐る、といった風に歩いている。馬は賢い。何かあれば直ぐに気がつく、そう教わっているけれど……この濃い瘴気の中で気がついてもらえるだろうか?


「こんな酷い場所で戦っていたのね……」


 あの愚かな国王のせいで。どれだけの騎士が名誉の地へ渡っただろう。

 聖属性の力なんて前戦で使ってこそだ。オリバーが私を前戦に出したくないのは、私のみを案じているからだけど国王は違う。聖属性を自分の側に置いておきたい。


 なにか恐ろしいことがあったら、直ぐに護ってもらえるように。


「バッカみたい。民がいなくなったら、国王なんて名ばかりじゃない!」


 ブチブチと文句を言いながら、私はオリバーたちがいそうな方向。つまり瘴気の濃い場所を目指す。馬にはとても可哀想なことをしているのだけど、私といるから悪い影響はない。


 馬に謝りつつ、先を急げばゾワリと背筋が粟立つ。

 ザカ、ガサ、と直ぐ近くで重たい音がする。


 ――――大きい。


 瞬時に判断すると、私は馬の脇腹を蹴った。

 馬は即座に反応してスピードを上げる。だが重たい足音は後ろからついてきていた。しかもこちらがスピードを上げたのに、向こうの動く音はあまり変わらない。


「やだ。だいぶ大きいってこと!?」


 内心で仕打ちをする。馬が恐怖に怯えないことだけが救いだ。力を使いたくても、馬に乗って走っているときにするのはちょっと所でなく危ない。

 かといって止まるわけにもいかないのだ。いや、今の時点で馬が止まってくれるとは思わないのだけど。ひとまずオリバーたちと合流しなければ。合流できれば、馬も落ち着いてくれるかもしれない。どうせやるならひとまとめに、一気にカタをつけた方がいい。


 心臓が、早鐘を打つようだ。


 恐ろしいモノを引き連れているという恐怖。オリバーたちに合流できなかったら……腹をくくらねばならない。


 巨大な魔物を後ろに引き連れて、馬は走り続ける。

 走って、走って、走って―――― 


「見つけたっ!!」


 キンッ……と攻撃魔法を使うとき特有の音がした。

 それと共に、何かを切り捨てる剣の音。私は馬を音のする方向へ走らせる。


「頑張って、もうちょっとよ!」


 そして少し開けた場所にたどり着く。森、というよりは沼地だ。


 騎士たちが足を取られながら魔物と対峙している。そこに馬に乗った私が現れ、ほんの少しだけ間が開いた。だがそれよりも、私に付いてきた魔物が木々を押しのけて現れたのだ。


 馬に乗っているのが私だと気がついたオリバーが、私の元へ駆け寄ってくる。沼地なのによくできるものだと感心してしまった。


「ファルティシーアっっ!!」

「オリバー、受け止めて!!」


 オリバーが私の名を叫ぶと同時に、私は馬から飛び降りる。そして力を解放した。

 白い、真っ白な花が散る。私とオリバーを中心に溢れかえった。浄化の力が徐々に広がっていく。


 ギャッと大きな悲鳴が聞こえた。魔物は聖属性の浄化の力に触れると、そのまま消えてしまうのだ。小型なものなど、一瞬で消し飛んでしまう。私の力に後押しされるように、騎士たちも力を盛り返していく。


 沼地にいた魔物たちのほとんどは、浄化の力で消し飛んでいった。

 素材を回収したいときには使えない力ではあるが、この沼地から生み出された魔物だし……別に構わないだろう。


 ただただ、遠くへ。遠く、全てを包み込むように。

 私の力を解き放つ。


 瘴気の沼が消え、暗かった森の中に光が降りそそいできた。ああ、でもまだ。まだだ。

 あの大きな魔物はまだその姿を保っている。騎士たちは、浄化されて消えた魔物からまだ姿を残している魔物へと標的を変えた。彼らを支えるために、私はありったけの魔力を解放する。


「――――っき・え・ろっー!!」


 騎士たちは私の声を合図にするように、大型の魔物へ一斉攻撃を仕掛けた。


 その攻防は数分か、それとも数十分か。


 騎士たちは大型の魔物を倒し、そして東の森がただの森へと変貌を遂げたことに歓喜の声を上げた。私は彼らの姿を見ながら、ほっと息を吐く。


「あー久しぶりにだいぶ魔力を使ったわね……」

「ファルティシーア、どうしてここに……君は王都にいるはずじゃ?」

「あーそれね。うん。私、婚約破棄されて追放されたのよ」

「は?」

「だから婚約破棄されたの」

「こ、婚約破棄? 誰が、誰と!?」

「私が、王太子殿下と婚約破棄したの。まあ追放は、ついでにって感じだけど」

「つ、いで……?」


 あからさまに困惑の表情を浮かべたオリバーだったが、言葉の意味を理解したのか徐々に怒りが彼を支配し始める。普段怒ることすらないオリバーの、そんな姿に私は慌てた。

 いや、これまずいな!? うっかり弑逆とかしたらまずいな!?!?


 私はオリバーの頭に抱きつく。そして彼の耳元に小さく囁いた。


「合意の上での婚約破棄だから」

「合意の上?」

「そう。だから、もうちょっと私に会えたことを喜んでよ?」


 周りの騎士たちみたいに、と呟けばオリバーは泣き笑いのような微妙な表情をして見せる。

 何事か言いたいことはあるのだろう。まあ、事前に知らせていたわけでもないし。急に婚約破棄されたなんて言われたら、驚くのも無理ないわね。


 もう婚約者も何もいないのだから、誰憚ることはない。私はオリバーの頬にキスをして、「瑕疵のついた女はお嫌い?」と告げるのだった。


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愛する人を理不尽に…辛い… 帝国が憎い
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