34.勇者一行との決戦
「フェリス様、今度こそ覚悟を」
聖剣の切先をフェリスに向け、リオンが宣言する。その瞳は、燃え立つ正義感で輝いている。
「おおおお姉さま、あああのあの、やっつけに来た……っ」
「ま、そういうことだ」
肩をすくめたガルドも剣を抜き、ミリアの前に出た。
「やられるなんてごめんよ。わたしからなにもかも奪ってこの上……もうたくさん」
「ごたくはいい。闇は葬るまでだ」
吐き捨てるように言ったリオンをマオが睨み付けた。その瞳が、凶悪に輝く。
「あのさ、前も言ったけどフェリスは僕の推しなんだよね。推しって全てなんだ」
「なんの話だ」
「お前らにはフェリスは渡さないってこと」
マオの身体から闇が立ち昇り、次の瞬間跳躍した。聖剣を構えたリオンと闇を纏った手で切り結ぶ。
後ろに飛びすさったミリアが杖をにぎりしめた。その口が動く。
フェリスに向かって剣をふり上げ走り込んで来るのはガルド。
「悪く思うなよ!」
「悪く思うに決まってるでしょ! 闇よ左手へ!」
目前に迫る剣。そこから目を離さずに、左手ににぎったペンライトのスイッチを押した。昼間でも明るく輝くペンライトに、闇を集めて行く。
ガルドの剣をフェリスは防ぐことが出来ない。でも怖くはない。信じているから。
「その力を獰猛な牙とし顕現させ……」
フェリスを袈裟斬りにしようとしたガルドの剣。その前に、闇があふれた。黒々とした障壁に剣が弾かれ、ガルドに向けて爆発した。
後ろに飛び退いて爆発を避けたガルドの目の前に、マオが飛び出す。リオンをいなして爆発を弾幕にし、接近していたのだ。
そのままガルドと切り結んだ。
視線を動かす。金の輝きがフェリスに迫って来た。リオンだ。
(リオン。リオンを壊したらマオくんはきっと褒めてくれる)
背筋をぞくぞくする感覚が走った。高揚し、知らず口角が上がる。
リオンへペンライトを伸ばした。
「我の手となり敵を引き裂け——狼牙急襲!」
ペンライトの光が闇に染まり、点滅をくり返した。荒れ狂った闇が吹き出し、それが巨大な狼の頭を形作る。いつだかに失敗して出した小動物ではない。
闇の中から、その四肢を引き抜き、狼が吠える。それに怯むことなく、リオンは聖剣を繰り出して来た。
鋭い牙がリオンの聖剣を弾き、その衝撃を逃すためにリオンは後ろへと飛ぶ。
同時に、ミリアが打ち上げた光の矢が、フェリスめがけて急下降して来た。
慌てて頭を押さえてかがむと、闇の狼が盾になり立ち塞がった。盾となりフェリスを守り、光の矢を受ける。
血のように飛び散った闇に、フェリスの中のなにかが歓喜している。もっと、もっと、こんな風に飛び散る血が見たい。
光の矢が消えると、闇の狼はリオンへと向き直った。
リオンもまた、狼を睨みつけて視線を外さない。そのまま、リオンは再び聖剣をふりかざした。
聖剣と狼の爪が切り結ぶ。狼の胸を聖剣が薙ぎ払った。苦痛の声を上げる狼に、また歓喜が込み上げた。
(この苦痛の声がリオンだったならもっと……)
戦況は、わずかに狼が劣っているように見える。勇者の名は伊達ではないらしい。
離れてはまた切り結び、切り結んではお互いの隙を狙い攻撃をしかける。
フェリスが聖力を込めた聖剣は、確実に狼にダメージを与えていた。大打撃とはならないものの、ダメージが蓄積されて行っている。
(だめ、リオンを壊さなきゃ)
このままでは押し負けてしまう。
視界の端でガルドが弾き飛ばされたのが見えた。ガルドだって、リオンには及ばずとも国内随一の剣の使い手だ。
そのガルドでさえ、マオの手にかかれば足が地面から離れる。
自分がマオの足を引っ張るわけには行かない。
「リオン、僕が相手をするよ!」
狼を盾にあっという間に距離を詰めたマオが、リオンに殴りかかって行く。身体が小さい分、リオンの視界から出やすい。狼の影にすっぽり隠れることも可能だ。
歯を食いしばったリオンが、マオと再び切り結んだ。その横から襲いかかる狼も、リオンは華麗とも言える剣技と身のこなしで躱している。
とはいえ、さすがのリオンも二対一では分が悪いようだ。狼を押していた勢いは削がれている。
ガルドが立ち上がったのが見えた。その後方で、ミリアが再びなにかを唱え出している。
「闇よ左手に!」
胸の中心から闇があふれ、左手のペンライトへ流れる。
ミリアが杖の頭で円を描いた。魔法を放つ瞬間にする彼女の癖だ。
来る!
(魔法の後にきっとガルドが来るわ)
空中に次々と炎が浮かび、それが真っ直ぐにフェリスに跳んだ!
同時に左手を出し、闇を自分の前に展開させる。そこに炎が激突し、熱風が吹き抜けた。
炎が次々とフェリスを襲う。
(耐えて……!)
ぐっと左手に力を込め、闇を送り込み続ける。なぜか胸の鼓動が乱れ、酷く痛んだ。それでも、やめるわけにはいかない。
ペンライトが激しく点滅している。
闇の障壁に力を注ぎつつ、ゆっくりと後ずさる。フェリスの姿は、炎に隠されて見えないはずだ。
フェリスからもガルドは見えないが、炎があるうちは大丈夫だろう。
「闇よ、我が声に応えよ——」
ガルドが来るなら、それを迎え撃つ。そして壊す。
ガルドが地面に倒れ伏す様子を思い描き、気力を高揚させる。見たい、血を流して倒れるガルドが。
「その悪しき姿をあらわし、肉を断て!」
炎が尽きた。闇の障壁の向こうに、剣の切先をこちらに向けたガルドの姿。
「蛇蝎顕現!」
叫んだと同時に、障壁の内側から牙を持つ巨大なあごが現れた。大蛇だ。
ぬっと顕現したそれに、ガルドは怯まなかった。身体を低くして、威嚇のために開いた口を下から突き刺したのだ。
「——おらァ‼︎」
粗野な声を上げ、蛇の上あごに剣をめり込ませていく。それは、上あごを下から貫いた。
ざっと引き抜いた剣を、今度は蛇の頭部にふり降ろす。
闇が飛び散った。蛇の姿が崩れて行く。その壊れ行く様に、また背筋が歓喜で震えた。
「まだよ!」
崩れた闇が再び集まり、ガルドの前に立ち塞がる。それは、巨大なさそりの姿。
巨大なハサミと、ガルドの顔ほどもある毒針をふりかざし向かって行く。
顔をしかめたガルドが応戦する。その右手では、リオンとマオがやり合っていた。
ミリアはさらに後方に控えている。また杖をにぎり締めて口を動かし始めたのは、詠唱だろう。
(ミリアをなんとかしなきゃ)
ミリアの魔法の射程はかなり広い。その上威力も強いから厄介だ。今は防げているが、長引けばわからない。
ガルドがさそりに気を取られている隙に、彼女を地面に転がしてしまおう。そうすればきっと、リオンもガルドも自分がやられるよりもショックを受けるはず。
その絶望の中で壊すのは、さぞ美しいだろう。
「闇よ集え! 暴虐散鳥!」
ぼっ、ぼっと音を立ててフェリスの周りに闇の炎が無数に現れた。ガルドの向こう、ミリアへ向けて腕をふると、闇の炎が尾を引いて矢のように真っ直ぐ宙を切り裂いた。
ミリアから氷の矢が放たれる。闇の炎を次々に撃ち落として行くその正確さとパワーは、さすが勇者一行だ。
(そうよミリア、こっちに集中するのよ)
次々と闇の炎を撃ちながら息を詰める。ぼっ、ぼっとフェリスの周囲にわき出す闇の炎は、視線の高さから地面すれすれの場所まで無数にあらわれている。そのうち低い場所にあらわれたものが、すっと地面へ消えて行くのをしっかりと確認した。
闇の炎を撃ち落とすミリアの視線は上を見ている。
(ミリア。愉しませてね。さようなら)
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