受験者ルイクシン
同時刻、エンシン街道にて。
「疲れたな」
帯剣した黒髪の青年ルイクシンが額の汗を拭きながらそう呟く。
「あそこで昼飯にするか?」
後ろ髪を束ねた同い年のチュウユウが街道沿いの店を指さしながら彼に昼休憩を提案する。
「そうしよう」
二人で駆け足、のれんをくぐって入店する。
「いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞ」
愛想のよい看板娘に促されるまま、空いている席を適当に選んで座る。
「…緊張してきたな」
食事を進めながら、チュウユウがポツリとつぶやく。
「まあ、三年に一度だからな。
ここを落とせばまた勉強漬けの毎日だ」
今日に至るまでの日々を思い返してげんなりするルイクシン。
倍率が三千を超える中央政府の官僚の登用試験に向けた勉強は常軌を逸しており、まずは詩経と呼ばれるおよそ三百編になる古典文学を母親が胎内にいる赤子に読み聞かせ、叡智を養う。
生まれた後は、真国の始祖の短い英雄譚をベースに習字をさせ、それで下地を作ったあとで専門の学校に向かわせる。
学校では厳格な教師の下、学問はもちろん宮中において無礼を働かないために礼儀作法を徹底して叩き込まれる。
鉄拳制裁等も辞さないあまりにも過酷な教育環境に命を落とすものが多い中、何とか卒業できたとしても幾度にわたる予備試験でふるい落とされる。
「よくここまでこれたよな…」
幼馴染たちが次々と脱落する中、残った二人。
ここまで来れた時点で県令庁に高待遇で勤められるのだが、それでもなお二人は上を目指す。
「俺は何としてでも官僚になってやる。
知ったんだ、この国がいかに時代遅れなのかを」
交易商の息子であるルイクシン。
受験勉強の傍ら、仕事の手伝いで蘭国に行った際に祖国との違いを知った。
皇帝による独裁体制の真国と違い、蘭国は選挙によって国民から国家元首が選ばれる。
また、蘭国は外大陸とも積極な交易や技術開発も行っており、それに伴って生活水準や社会基盤も優れる。
特に驚いたのが夜でも街が明るい事であり、父曰く、電気と呼ばれるものが街を輝かせているのだという。
「聞けば蘭国は兵器の質も真をはるかに上回っているらしい、もし戦争になればどうなるかは明らかだ」
「蘭国との戦争…さすがに考えすぎじゃないか?」
力説するルイクシンに対し、チュウユウは食事を進めながら淡々と返す。
蘭国が真国に攻め込むには天険の天貫山を越えるか海路を使って攻めるしかなく、前者は滑落や落石、遭難の可能性のある危険な山道を進むことになり、後者も真国の誇る精強な海軍と真正面からぶつかり合うことになる。
「御馳走さま。行くぞ、クシン」
「あ、ああ」
代金を支払い、後を追うルイクシン。
視界の彼方には帝都を守る玉門台が映る。




