占星術
夜、宮中の庭にクリカラはいた。
従者を後ろに、清澄な小川の音を聞きながら空を見上げる。
天上に輝く、無数の綺羅星。
その中でひときわ輝く南極老人星と呼ばれる恒星とそれを取り囲む星に注目する。
皇帝を示す南極老人星を中心とする白狼座と、その隣にある蘭国を暗喩する鯨座。
皇帝と大陸に覇権を持つ国を示す二つの星座を占うのが、彼女の一日の終わりの仕事である。
「…赤い」
南極老人星の隣の一星が赤色に輝いていることに、一抹の不安を覚える。
天貫山に暮らす師より教わった占星術によれば、皇帝の身に火による災いが近づいている暗示。
「凶兆なり」
駆け足で庭を出ると、皇帝を中心とした宮中の警備を担う専属の部署に向かう。
皇宮警備部と書かれた部署の扉を開き、警備部長を呼び出す。
「これはクリカラ様、もしかして陛下の身に危機が?」
「急ぎ防火対策に力を入れるようにしてください。
陛下の近くに火相が出ています。
それと、刺客に対する警戒を強めるように。
火災に乗じて暗殺を狙ってくる可能性もあります」
「は、直ちに!」
クリカラの指示を承諾すると、夜勤の警備兵をすぐに集めて防火対策と刺客への警戒指示を出す。
「…登用試験にの警備をさらに強化する必要がありますね」
部外者が城内に殺到する試験において、刺客を紛れ込ませるにこれ以上の機会はない。
それに受験者は十代の若者から老人までやってくる。
徹底した身体検査があるとはいえ、すり抜ける方法はいくらでも考えられる。
武器を分解して複数人で持ち込む、試験日の前に事前に宮中に仕込む、もしくは竜騎兵による空からの急襲…
「軍務省に高射砲の配備を要請しますか」
ほぼありえないと思いながらも、万が一に備えて軍務省に高射砲の配備を要請しに行く。




