省内会議
「登用試験への今日からの予定ですが―――」
試験に向けた文部省内の会議。
透かし彫りの窓から差す昼光に照らされながら、官僚たちが四角い大机を囲む。
「まず、受験生の数は前回と同じ規模の人数であり、警備体制も前回と同様に敷きます」
会議用にまとめた竹簡の資料を手に持ち、終始起立しながら説明するクリカラ。
一方で他の官僚たちは椅子に座りながら落ち着いて話を聞いている。
「また、試験官も軍の士官を中心に配備、不正行為が発覚次第に有無を言わせずに叩き出します。
そして―――」
「(なあ、昨日から大臣の様子がおかしくないか?やたらお尻を気にしてるぜ?)」
淡々と説明する中、若い官僚の一人が隣の同僚に小声で話しかける。
「(噂では皇帝陛下に無礼を働いてケツを叩かれたらしいぞ)」
「(まじか…)」
「そこ!何をコソコソ話ている!?」
クリカラの隣に座る副大臣が二人を叱責。
白いあごひげが特徴の老人。
「な、何でもありません!」
「…続けます」
コホンと咳払いし、叩かれた尻の痛みを何とかこらえながら話を続けるクリカラ。
「次に、道中の安全確保について。
主要な道路であるエンシン街道に毒猪の群れが確認されました。
幸い、目撃された群れは狩猟済みですが、他の超生物の出没の可能性があるため、エイテイ将軍を通して軍務省に街道の警護の要請を行いました。
また、霊県の県令庁に対して生態調査を要請しました」
「相変わらず仕事が早いですな」
相槌を打つ副大臣。
「次に、試験についてですが、この度は陛下御自ら巡回に訪れるとのこと」
「なんと…」
どよめく室内。
吹き込んだ風に蠟燭の炎がにわかに揺れる。
「なんでも、受験生たちを直接激励したいとのこと。
くれぐれも無礼、危険のないようにお願いいたします」
「承知いたしました」
「それと、筆跡による個人特定を防ぐため、慣例通り答案用紙を複写したうえで採点します。
今回は専任の担当官を三千名用意いたしました」
「三千名ですか、すごい人数ですね」
「昨今の情勢の変化を受け、前回よりも出題範囲を増やしました。
主に外交や外国の情勢を追加しました」
「確かに、隣国の蘭国の発展、特に軍事技術の進歩は著しいですからな。
玉門台に配備された大砲もそうですし、噂では飛行する軍艦を作っているとか」
「空飛ぶ軍艦…想像がつかないですね」
「対応する手段も必要になるのでは?
空から一方的に攻撃されたら手が出せないぞ…」
「それに関しては軍務省の仕事です、続けます」
不安に駆られる部下を言葉で制し、話を続ける。
「つぎに死人が出た場合の対応についてです。
これに関しては今までは城外に放り出すだけでしたが、冒涜的との意見を受け、専用の安置所を設け、そこに収容します。
それと安全祈願ですが―――」
そこからも淡々と進む会議。
気がつけばすでに昼になり、いったん休憩に入る。
「そろそろ、受験生たちがこちらに着き始める頃でしょうか?」
食堂へ向かう道中、隣の副大臣がそう話しかける。
「軍の配備は既に完了しているはず。受験生をはじめ、街道の人々が危険にさらされる心配はないでしょう」
食堂の扉を開き、空いている席に向かう。
副大臣が「よっこらしょ」といって座り、一方でクリカラは立ったまま注文を終わらせる。
「まだ、痛みますか?」
「少し…」
千回お尻を叩かれた時と比べるとまだマシと言えど、痛いものは痛い。
「齢六十でも未だに陛下は鍛えられておりますからな、まだまだご壮健なのは何よりです。
しかし、いくつになってもお仕置きは受けるものなのですね。
私もうっかりの粗相には気をつけねば、ホホホ」
「ある意味、安心しました」
杖刑を六十回も執行できる膂力がある皇帝の壮健さと、いい歳して尻叩きに遭った上司に「ホホホ」と笑う副大臣。
クリカラは頬を赤らめた。




