狩猟
「以上の理由から、狩猟の許可をいただきたく存じます」
玉門台より戻ってすぐ、残った仕事を片付けたクリカラは毒猪の狩猟の許可を得るべく皇帝の許可を求める。
「いつまでに戻る?」
「三日以内には必ず」
「許可する」
「感謝申し上げます」
多忙な二人の最低限の会話。
皇帝に対してうやうやしく謝意を述べて自室に戻る。
大臣の立場にふさわしい大きな敷地。
庭には橋のかかった池があり、黄金鯉とよばれる高級な鑑賞魚が優雅に泳ぐ。
使用人に挨拶を交わし、自室に戻る。
頑丈な鉄製の箱を開け、装備を取り出す。
双剣と機動性を重視した防具。
双剣の剣身はそれぞれが赤と青色に染まり、昼光に煌めく。
自室を出て外に出ると、立派な衣服をまとった茶髪の童子が同年代の供を連れてやってくる。
「これはセイリュウ殿下、いかがされましたか?」
皇帝の孫の一人であるセイリュウ。
九歳であるにもかかわらず、その姿は毅然としている。
「近くに立ち寄ったゆえ、大臣に挨拶に参りました」
堂々と要件を述べるセイリュウ。
「そうでしたか、御足労、痛み入ります」
少年とはいえ、大人相手と同様に丁寧に接する。
「見たところ、狩猟に向かうようであるが、何を狩るつもりか?」
「エンシン街道に現れた毒猪を狩るつもりです」
「そうか、武運を祈る」
皇孫の激励を受けながら愛馬に騎乗、街道へと駆ける。
峻険な山と城壁で守られた帝都を駆け、玉門台の門をくぐる。
眼前に広がる広大な大地。
空は青く、白雲が北へ向かって動く。
建国より三百年の歴史を持つ真国において、外国からの戦災に見舞われたことのないこの地は国内において最も人口が多く、商業も盛んである。
帝都を出て一日、ようやくエンシン街道へとたどり着く。
道は荒れ、街路樹はいつ倒れてもおかしくない程に根元が削られている。
「ブッブッ」
遠くから聞こえる、毒猪の鳴き声。
目視できる数は三頭で、毒キノコを探し回っている様子。
馬から降りて静かに双剣を抜く。
巨岩ほどの体躯を持つ、統率者らしいもっとも大きな個体を狙って奇襲を仕掛ける。
逆手に持ち替えて跳躍し、頭上から一気に突き立てる。
「ブブゥゥ…」
響く悲鳴。
しかし、剣を根元まで刺しても分厚い筋肉を切り裂くのがやっと。
引き抜くと同時に後方宙返りで着地、すぐに距離を取る。
「ブヒャァアアアアア!!!」
響く毒猪の怒声。
すると、どこからともなく二体の毒猪が現れ、数は五体になる。
そのすべてが猛毒を含有する鋭い牙を向ける。
「・・・・・」
剣を順手に持ち直し、相手の動きを注意深く観察。
攻撃した個体は出血量が多く、動きが鈍っている。
子供の小さな個体に狙いを定め、隙を伺う。
幸い、相手は単調な突進攻撃を多用するので対処は簡単。
次々と迫りくる攻撃を躱しつつ、双剣で確実に攻撃する。
もっとも危険な牙を一撃で確実に切り落としつつ、毒猪の脅威度を落とす。
全ての牙を切り落としさえすれば、後はこちらのもの。
いかに筋肉で守られた体とはいえ、出血を抑えることができなければ、いずれは力尽きる。
落陽の大地に、毒猪の断末魔が響く。




