懸念
「ソウゲン様、こちらです」
竜車から降りた後、クリカラに手を引かれる形で用意された部屋に入る。
賓客用の豪奢な部屋で、客人に不自由がないように専属の使用人が五人用意されている。
「何かご用件があれば遠慮なく」
そう言って下がろうとする彼女を、ソウゲンは呼び止める。
「少し、外してくれるか?
二人で話がしたい」
「は!」
ソウゲンに言われて下がる使用人たち。
部屋の戸が閉ざされ、完全に二人きりになる。
「真国を取り巻く昨今の情勢、どう見る?」
椅子に座って顔の布を取り、クリカラにそう問いかける。
白濁した瞳には何も見えておらず、気配だけでその場のすべてを把握している。
「まずは内部事情ですが、政治体制をはじめ、従来のままで大きな変化はありません。
一方で外国ですが、大陸南部の諸国は海外との交易を盛んに行っており、外大陸の文化や技術を取り込んでいます」
「蘭国はどうだ?」
ソウゲンの問いに、途端に表情を曇らせる。
「正直、不穏な気配があります。
特に軍事技術の躍進がすさまじく、噂では飛行兵器の開発を行っているとも」
「飛行兵器か、それが実現したとなれば厄介だな」
真国と蘭国の間にそびえる天貫山。
雲を越える標高に達するこの山脈は両国の侵攻を阻む天然の障壁であり、霊峰としても名高い。
「この国は変わらなけらばならない、変わらなければいづれ滅ぶ。お前もそう思っているはずだ。
なにせ、その眼で幾度も国が滅ぶ様を見届けてきたはずなのだからな」
「……」
ソウゲンから放たれた、現体制への批判ともいえる言葉にクリカラは沈黙する。
「ソウゲン様、誰が聞き耳を立てているかわかりません、お言葉にはお気を付けを…」
問いかけには答えず、あくまでも皇帝の直臣としてソウゲンをたしなめる。
「…まあ良い。そのころにはワシはもう居ないだろうからな。
茶を持ってきてくれぬか?」
「直ちに」
近くにあった急須を取り、茶を湯飲みに淹れる。
「どうぞ」
渡された湯飲みを受け取り、一気に口に注ぐ。
「ところで、昨日の星はどう見えた?」
「南極老人星の隣が、赤く輝いていました」
「凶兆か、それも火にまつわる」
ポツリとつぶやく。
「火災への備えならば、すでに。
皇宮警備部および軍務省に警戒の強化要請も済ませております。
万一に備え、高射砲も龍郭を中心に配備させました」
「だからといって安心はできぬ。
災いは常に想定を超えて起きるものだ。
ゆめゆめ、油断はするな。
もう一杯、持ってきてくれ」
「はい」
再び茶を注ぎ、ソウゲンに手渡す。
「しばし寝る。機が来たら起こすように」
飲み干した後、天蓋のついた寝台に横になると、ソウゲンは静かに寝息を立てた。




