賭け
満月の昇る夜の帝都。
騒がしかった街は静寂に包まれ、各所で焚かれていた篝火はほとんどが鎮火している。
「いいのか、本当にこんなことして…」
酒場の前、営業時間の終わったころにチュウユウを連れてルイクシンはやってくる。
目的は単純、馬車で会った女性に宿泊をお願いすることである。
常識のない行為ではあるが、帝都で野宿すれば衛兵に処罰されるか、または金品を狙った強盗に遭う確率が非常に高い。
「背に腹は代えられん、恥よりも命だ」
「だけどよ…」
ルイクシンの常識のない行動に困惑するチュウユウ。
しかし他に手がなく、しぶしぶ従う。
寒さに震えること一時間、店の従業員が姿を現してくる。
提灯に照らされる従業員の顔を一人ずつしっかりと観察、目標が出てくるのを今か今かと待つ。
「来ないな…」
一人また一人と出てゆく中、ポツリとつぶやく。
十人ほどが退勤した後、中から店長らしき立派な格好の男が現れ、のれんを落として提灯の火を消す。
「嘘だろ…」
当てが外れたことに愕然とするルイクシン。
完全に沈黙した酒場の前に立ち、途方に暮れる。
「おい、そこで何をしている!?」
後ろから放たれる怒声。
振り返ると、三人組の衛兵が提灯を片手に立っている。
「まさか、盗みを働くつもりか!?」
「いえ、ちがうんです!私たち受験生でして…」
慌てて受験票を提示しながら、潔白を証明する。
「宿泊する場所がなくて、途方に暮れていまして…」
「またか…」
二人の応答に対してうんざりした表情の衛兵。
「こっちにこい」
衛兵に挟まれる形で詰め所に向かう二人。
簡素な建物で、夜番の衛兵が十人ほどいる。
「また受験生か?」
「ああ、酒場の前で保護した」
上官らしき男の事の次第を報告する衛兵。
「これで何人目だ?」
「ここだけで二十人くらいですね、もう少し宿を増やしてほしいところです」
愚痴を耳にしながら、案内される形で石造りの建物に向かう。
そこは簡素な牢であり、老若男女がそれぞれの牢に収容されている
「一晩だけ泊めてやるから、明日にはちゃんと宿を探すように。
明日も同じ事したら帝都から叩き出すからな?」
空いていた部屋に入れられた二人。
布団と簡素な食事を与えられると、牢の扉がガシャンと音を当てて閉じられる。
読んでくれてありがとうございます。
他にも、追放された王様の物語や女帝と呼ばれた海軍大将の戦記などのいろいろな作品を書いているのでよろしければ見ていただけると幸いです。




