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その7・超科学を研究する研究所員が、なんでこんな簡単な算数ができないの⁉︎

 疑惑のデパートではないけれど。

 「ナツ原研究所ラボ」の真面目な研究員なのか、高額グッズを売りつけるインチキビラ配りスタッフなのか?

 真っ赤な髪の野ヂ朗に質問したいことは山盛りあった、私には。

 だけど、


「質問していいですか?」


 嵐が丘の上空に向けて、まっすぐ制服の腕を差し上げた現役中学生に負けた。


「ええ、もちろんですよ。お名前をお聞きして良いでしょうか?」

 野ヂ朗はソフトに微笑み、角度90度のお辞儀を決めた。初対面の女子にひゃくてん満点の対応である。

「え、あ……あたしは琴原アイ音といいます……美タカ市立第3中学の2年生で……」

 アイ音ちゃんはにかみつつ自己紹介した。

「野ヂ朗さんですよね? ど、どうしても聞きたい……確認したいことがあ……」

 ここでアイ音ちゃんは、はあっとせつなげな息を吐いて言葉に詰まった。それわかる。一気に言いたいことを全力で言おうとすると息が上がってしまうのだ。

 がんばれ、アイ音ちゃん。ファイト!

 私は無言のエール、拳だけガッと握りしめる。うっすら脳内に流れる中島みゆき。


 その時だ。

「わん!」

 ヨッシーだった。私の中の中島みゆきの歌声へ合いの手のように、黒柴ヨッシーが鳴いたのだ。

 犬に負けていられない、私は拳を突き上げるラオウポーズをとり、

「ファイト!」

 するとナリーンさんもつられたように「ファイトォ」ちょっと発音がいい。

 さらにニャムさんもファイトファイトと小声で連呼するものだから、私は。

「アイ音ちゃん、いっちゃって! 心にあること、願いをはっきり言葉に」

 アイ音ちゃんは、嵐が丘に集まった、私以外ほぼ赤の他人の応援を背に受けてすうっと深呼吸した。

 ま、まるでそれは、私の愛する東海ワイバーンズにドラフト一位で入団した荒尾選手がマウンドでやるルーティンだ。京阪ピュマーズの無敵の左バッター里モイを9回裏満塁ツーアウトで迎え、見事フライアウトで仕留めた時の。

 アラ尾くーんじゃない、アイ音ちゃんがんばれがんばれ!


「あ……あ、あたし、どうしても知りたくって! 夢みたことをナツ原ラボのAIなら夢がさめたこっちの世界に出力できるのか、本当なんですよね、嘘や詐欺なんかじゃなくって?」


 あうっ純真無垢の中学生すごい。ズバッと言う。言いづらいことを。

 オレオレ詐欺から電話がかかってきても、日本人って「あなた詐欺師ですよね? じゃきゃ怖い団体に雇われたバイトでやばいこと手伝わされてるとか」なんて聞けない。 私は二度訊いてしまったけど、つい好奇心から。すぐに電話は切れた……。


 爽やかイケメンの野ヂ朗は、明るいが胡散臭くない真面目な顔つきで、アイ音ちゃんをじっと見つめた。25秒くらい、じっと。アイ音ちゃんがちょっと引いて、頬を赤くしたくらい、生真面目でまっすぐな眼差しで。

 そして25秒後にはっきり言ったのだ。


「もちろんです。真実で、現実で、再現性のある実験の最終モニターをお願いするんです。ナツ原ラボの研究の成果、人の脳が夢見たことをAIに直接分析させ、それを世界にひとつだけのフィギュアとして出力します。これでうちの博士は絶対にノーベル賞を授与されます。希望でなく、確信です、来年号外になること間違いなしのこれは確定した未来なのですから」

 野ヂ朗は言い切った。一言一句ゆらがずに。予感が確信になった、ジャングルにゃいオンズの剛腕ピッチャー楠木くんよりきっぱりと、希望的観測ではなく「未来だ」と言い切った。


「や、やったー」

 アイ音ちゃんはその場で、通学用ローファーで15センチくらい垂直飛びして、小さく(奥ゆかしく)ガッツポを決めた。


 野ヂ朗はにこにこ顔でそれを見守ってから、おもむろに言った。


「それではちょうど定員お集まりいただいたので、ここで締め切らせて頂き、平イド町のみなさん全員ラボにお入りください」

 とうやうやしく、執事カフェの執事のように手のひらを上にした手を差し伸ばし、少しだけ腰をかがめていったのだ。


 はっ?


 このままだと私たち全員ラボに入って、チラシにあるモニターに参加する流れ?

 でもそれっておかしくない?

 おかしいでしょ?

 チラシに七人、七人って書いてあったのに……定員に達したっておかしいよ。野ヂ朗!

 

 私とアイ音ちゃん。

 マラソンマンおじいさんのタツ沖さん。

 インド人(数学が出来るに違いない)留学生兼駅前のカレー屋アルバイト・ナリーンさん。

 彼と同棲中スーパーのパン屋さんで技能実習生として働いているベトナム人のニャムさん。

 タツ沖さんは散歩させようとしたヨッシーに引きずられて来ただけ。

 ニャムさんなんて「あやしいからやめるべきネ」と恋人のナリーンさんを引き止めにきたのだ。モニターに参加する意思なんてない。ないはず。

 だいいち強引に全員を頭数に入れても、五人にしかならない。 


 人間の見る夢をAIによって出力する、しかも3Dプリンターで形あるものにする。そんな……超科学を研究する研究所員が、なんでこんな簡単な算数ができないの⁉︎ 

 私は叫び出しそうになった。

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