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私の能力は『以心伝心』全部丸聞こえですわ。【第1章100話完結済】  作者: 黒砂 無糖
初めての学園生活

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家族とその想い 


 ヘルグ兄様と妹のディアの婚約に驚いたけど「正式な婚約者がいる」という事実の効果は絶大だった。


「あれからヘルグ兄様は、静かな毎日を過ごせるようになったわね……」


 婚約の事実が知らされるまでは、囲まれることになるだろうと予測していたのにな。


 翌朝、馬車で登校した際、集まって黄色い声を上げていた令嬢たちに、


「申し訳ないが、僕は彼女の妹、フリーディア・シュピネル嬢と正式に婚約をしているので、あまり騒がないでいただきたい」


 と、遠くまで聞こえるように宣言した。


「婚約者の姉の前で不誠実な行いをして、不信感を持たせるわけにはいかない。君たちもシュピネル家の不興を買いたくはないだろう?」


 ヘルグ兄様は笑顔で、私を盾に使った。


 間違ってはいないけど、二人をシュピネル家が独占してしまったので、令嬢たちの私を見る突き刺すような嫉妬の目が怖いわ……。



(何とか排除できないかしら?)

(どうして彼女ばかり)

(いつか横に並びますわ……)


 などと、いまだに心の声は響いてくる。


 いい加減あきらめてほしいけど、思う気持ちはままならないから仕方がないか……



 ***



 学年末テストが終わった翌週は学園のパーティーがある。


「楽しいことの前には、やるべきことを済ませておかなければならないのよね」


 授業が終わった後、アズ兄様とヘルグ兄様とサロンでテスト勉強をしていた時、


「なあ、ふと思ったんだけどさ、俺がディアと結婚したら、立場的にティトのことはお義姉さんって呼ぶのか?」


 などと、バカげたことを言ってきたので、


「そうなると、ヘルグ兄様はアズ兄様のことも、お義兄さんて呼ぶ事になるわよ?これから先はそう呼ぶつもりなの?」


 と言ってみたら、


「うわっ、やめてくれないか?考えただけで鳥肌が立つ」


 呼ぶ側ではなくて、呼ばれる側からクレームが来た。


「なんだよ、失礼だな。でも、確かにアズールをお義兄さんとは呼びたくないな。ティトは平気なのになんでだ?」


 ヘルグ兄様は違いに首をかしげているけど、


 ——当然だと思う。


「それは、私の中身に大人の精神が入っているからじゃないかしら?それより、みんな家族になるのよね?なんかすごいわね」


 美茶は26歳で亡くなった。


 こちらは出産年齢が若いし、今の私たちの年齢からすると、親に近い年齢よね?


「あー、そのせいか。なんか納得できたわ」


 ヘルグ兄様は納得してすっきりしたのか、勉強に集中し始めた。


「確かにティトは大人だよな。みんな家族ってなんだかそれ、嬉しいな」


 アズ兄様もそう思ってくれるんだ?


「まあ、大人になったら、周りに人がいなければ、それぞれ呼び捨てでもいいんじゃないか?はい、次はこの問題をやってみて」


 アズ兄様は、私に解かせるための問題を片手間に作りながら、呼び方の結論をまとめると、出来上がった問題を渡してきた。


「ありがとう。こっちは今できたわ。確認してくれる?」


 私は回答し終えた問題を、アズ兄様にチェックしてもらうために交換で渡した。


 先日、私は王太子の側近入りを果たしたので、主席は当然として


 ——『全教科満点』を目指している。


「うん、完璧。この項目はもう良さそうだね」


 アズ兄様に修了を伝えられ、ほっとした。


 今後のことを考え、私の肩書は実力をもって得たものだと納得させるために、今回から試験には全力で挑むの。


 ……でなければアズ兄様のファンが、暴動を起こしかねない。



(…………)


 サロンの中にいるのに、私の存在を見越しているかのように思念を飛ばしている人がいる。


 最近能力の底上げがされて、声がうるさくて聞きたくない時は、強制的にブロックできるようになったけど……


 ——それを乗り越えてきたわ。


 聞こえはしないけど、無言のプレッシャーを日々感じている。


 ——やっぱり誰かに見られている?


 少し気にはなっているけど、今は勉強に集中することにした。



 ***



 明日開催される学園パーティーでの振る舞いで注意することを、お母様とお父様から教えてもらうため、お父様の執務室で話をした。


「ティトは王太子の側近になたし、能力のこともある。あまり交友を広げすぎない方がいい。アズール君の傍から離れてはいけないよ」


 お父様からは、念押しをされた。


「ティトは、王太子に能力のことを話すつもりはあるの?」


 お母様にも心配そうに尋ねられた。


 ——そろそろちゃんと話すべきね。


「今のところは話すつもりはありませんわ。アズール様とヘルグラウ様は、実はずっと前から私の能力のことを知ってました」


 お父様とお母様は怒るかしら?


「今まで彼らは私と連携して、能力を一緒に隠してくださいました」


 今まで黙っていて、ごめんなさい……


「やっぱりそうか。ティトが心から信頼してそうだったから、実は、前からそんな気はしていたんだ」


 お父様は、ほっとしたような顔をした。


「……隠していたこと、怒らないのですか?」


 私の隠している事は、シュピネル家の王国への忠誠に対して、信用問題に発展するかなり危険な賭けだったのに……


「いや、ティトが悲しい思いをしなかったなら、それでよかったよ。そうか、あの二人には、いくら感謝しても足りないな」


「何か礼をしなきゃな?」なんて、お父様とお母様は相談を始めた。


 あまりにも娘を信用しすぎではないの?と思い、私はこの際だから、もう一つの秘密を明かすことにした。


「お父様、お母様、実はもう一つ隠していたことがあったの……」


 二人は、私の声のトーンに何かを感じ取ったのか、姿勢を正し座りなおした。


「実は、私、勇者パーティーの賢者だったの」


 二人とも固まったわ。


 ——当然よね?


 先日『魔王が討伐された』と各国に報じられたばかりなのだから。


「しかも……前世の異母姉が勇者だったの」


 お父様とお母様は顔を見合わせている。


「ティトは、その勇者とは会ったことがあるのかい?」


 お父様は緊張した面持ちで質問してきた。


「ええ、勇者資料館で偶然出会いました。話をしたら、前世の異母姉だと知りましたわ」


 ——本当、偶然ってすごいわよね?


「魔王討伐は……していないわよね?」


 お母様は顔を青くしている。


 魔王討伐なんて物騒なものに、娘が巻き込まれたんもの。心配するのも当然よね?


「はい、調べ物をお願いされただけで、私は直接は関係しておりません。討伐は、勇者である義姉と特殊部隊で終わらせたはずですわ」


 国家間の問題だから、詳しい話は町中にはまだ流れていないはずだ。


「そのことを知っているとは……本当にティトは関係者だったのだな」


 お父様はふーっと長い溜息を吐いた。


 ——さすがに怒っているのかな?


 私がお父様とお母様に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていたのに……


「旦那様、勇者様がティトのお義姉様なら、うちの娘も同然ですわね?」


 ——驚きましたわ。


 お母様ったら、全く動じていないのね?


「こちらに来た際は我が家に滞在していただきませんこと? ティト、あなたのお義姉様として、私たちにも紹介してね?」


 それどころか、ウキウキしながらチャコ姉達を招く予定をし始めたわ……


「ああ、それがいいだろう。ただ、賢者だということは世間には黙っておこう。こんなところで外交の仕事が役に立つとはな?」


 お父様も、私を責めるどころか、チャコお姉様をうちに迎える気満々だ。


「あの……私が黙っていたのに、なぜ二人とも怒らないのですか?」


 私は思わず、尋ねてしまった。


「怒る必要などないだろう?ティトが今までは黙っていた方がいいと判断したんだろう?」


 それは……そうだけど……


「話せるようになったから、ティトは自ら話してくれたんだ。それだけで十分だよ」


 お父様とお母様の温かい眼差しに、私は涙があふれてきてしまった。


 その時、私の心の空間に、見たくなくて放置して置き去りにしていた、壊れてひしゃげた記憶の書籍が片隅からぽろぽろと崩れ出し……


 光となって消えていったのを感じていた。


 ——浄化されたのかしら?


 だから、私はあの記憶がどんなものだったのかは、結局分からないままだった。

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