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私の能力は『以心伝心』全部丸聞こえですわ。【第1章100話完結済】  作者: 黒砂 無糖
初めての学園生活

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初恋の相手って……



「絶対に、ヘルグ兄様から話を聞かなくちゃ」



 私は令嬢として恥ずかしくない、ぎりぎりの速さを維持しながら、早歩きで3年生の教室まで向かった。


 私がたどり着いたのはちょうど、王太子と、アズ兄様、ヘルグ兄様が教室から出てきたところだった。


「おや? ティト、側近として早速僕を見送りに来てくれたのか?」


 王太子は分かっているはずなのに、わざと側近であることを強調して言ってくる。


「ええ、本日は早く終わりましたので、せっかくなので皆様と一緒に王太子のお見送りをしようかと思い……はせ参じましたわ」


 にっこり笑顔に圧を込めて微笑んでおいた。


「あ、ああ、ありがとう。では参ろうか」


 王太子は笑顔をひきつらせて、先頭を歩いていく。途中リリお姉様と合流し、車寄せまでは揃って進んでいく。


 ——ものすごく見られているわ。


 視線の中には、突き刺さるような強いものも混じっている。


 嫉妬かしら?気持ちが悪いわね……


 ——そのうち慣れるのかしら?


 なんて考えながら、王太子とリリお姉様を見送った。


「アズール、ティト、走るぞ!!」


 見送りが終わった瞬間、ヘルグ兄様に号令をかけられ、一台先に止まっている自分達が乗る馬車まで、一気に走らされた。


「は、はい!」


 ヘルグ兄様とアズ兄様に手を引かれ、走っているのか、浮いているのか分からないまま、私は馬車に詰め込まれた。


「すぐに馬車を出してくれ!」


 アズ兄様の声掛けで、馬車はゆっくり進みだした。


「ちょっと、二人して令嬢に対する扱いが乱暴ですわよ?」


 私が息を切らしたまま、思わず二人にクレームを入れるも、


「でも、楽しかっただろ?」


 アズ兄様は笑っているし、


「外見てみろよ」


 ヘルグ兄様は、いい笑顔で親指で窓の外を指さしている。



 そっと、馬車の窓の外をうかがってみると


 ぞろぞろと集っていた令嬢達が、馬車を指さして悔しがっている。


「怖っ!!」


 どこから湧いてきたのか、学年を超えて次々と集まっていた。


「お前、俺が言うのもなんだけど……今後、口にする物には気をつけろよ?」


 アズ兄様が言いたいのは、媚薬などを盛られる可能性のことよね?


 正式な婚約でなければどうとでもなると、ハニトラを仕掛ける令嬢もいるらしいし……


 ——噂程度には、私も聞いたことがあるけど


「アズ兄様も盛られたの?」


 私は素直に聞いただけなのに、アズ兄様に微妙な顔をされてしまった。


「アズールは大丈夫だよ。あ、ティト、今夜はアズールも一緒にシュピネル家で夕食を食べていくことになってるから、よろしく」


 ヘルグ兄様はなぜか、私のうちでの食事を予定していた。


 いつものことだけど、どうして毎回、私だけ知らないのよ?


「ヘルグ兄様が言うってことは、もう連絡済なのよね?」


 実は、前にもこのようなことがあったの。


 いつの間にかアズ兄様とヘルグ兄様で勝手に家に来る約束をして、私が何も知らずに庭へ出て、びっくりしたこともあったわ。


「ん?もちろん決まってるよ」


 ヘルグ兄様に至っては、何というか、もう少し令嬢として扱ってくれてもいいような気もするのよね?


 でも、このままでもいいような、何とも言い難い気分だわ……


 私が複雑な思いをしながら、二人を連れて玄関を入ったら



「「お姉様!おかえりなさい!」」


 珍しく弟と妹が出迎えてくれた。



「ディア、シャル、ただいま戻りました。お出迎えありがとう」


 二人は私を見てそろって笑顔になり、


「「アズ兄様、ヘルグ兄様もお帰りなさい」」


 と、二人にも可愛い笑顔で挨拶をしていた。


「あら?アズ兄様とヘルグ兄様も『お帰りなさい』なの?」


『ようこそお越しくださいました』ではないのかしら?


 ——二人が間違えるなんて珍しいわ。



「ティト、お客様をいつまでも玄関に留めておくものではありませんよ」


 奥から声を聞きつけたお母様が出てきて、さっそく私が怒られてしまった。


「はい、申し訳ありませんでした。では、リビングに参りましょうか」


 私が中に進むと、母に弟に、妹はヘルグ兄様に、私はアズ兄様にそれぞれエスコートされた状態でリビングに向かった。



「ようやく来たか」


 リビングには既にお父様が帰宅していて、私たちの帰りを待っていた。


「お父様、珍しいですわね?こんなに早くにどうなさったのですか?」


 家族の予定を私だけ知らなかったのか……


 ——ちょっと反省しよう。


「今日は特別な日なんだ。なあ、ヘルグラウ」


 お父様は、なぜかヘルグ兄様に声をかけた。


「はい、よろしくお願いいたします」


 ヘルグ兄様は、お父様に声をかけた後、背を伸ばし、騎士の礼をとると……



「フリーディア、少し早すぎるかもしれませんが、僕と婚約してくれませんか?」



 ヘルグ兄様が、いきなり9歳の妹に婚約の打診をしたわ?!

 

 ——ちょっと待って?! どういうこと?


 私は、混乱しているというのに……



「はい!ヘルグ兄様のお嫁さんにしてください!!!」


 ディアは満面の笑みで婚約の返事を返すと、ヘルグ兄様に「キャー」とはしゃいで抱き着いていた……


「え……ディア?」


 あっさりディアを抱きとめたヘルグ兄様は、そのままディアを腕に乗せて、


「こういう結果になったから、よろしくな」


 と、こっちを向いて、にかっと笑った。


「いやぁ、これでやっとヘルグラウ君を息子と呼べる!いやーめでたい」


 お父様は、ウキウキしながらディアを腕に乗せたヘルグラウと一緒に、食堂へ向かってしまった。


「お、お母様?」


 私はいまだに混乱していて、思わずお母様を頼ってしまった。


「お父様、ヘルグラウ君を気に入っていたでしょう?グランディエラ家との縁がなかった時は、彼を息子にするんだと息巻いていたのよ」


 それは……知っていたわ。


 アズ兄様もそのことは分かっていたので、気まずそうだわ。


「ティトとアズール君の婚約が決まって、とてもうれしかったのだけど、あの人、ヘルグラウ君のことをあきらめきれなかったの」


 だからって……


「でも……ディアはまだ9歳よ?」


 早すぎるんじゃないかしら?


「あら、ティトがヘルグラウ君に初めて会ったのは8歳のときよ? アズール君に会ったのは10歳の時よね?」



 言われてみれば……


 ——私、いまだ11歳だったわ!


 ダメね、すぐに忘れてしまうわ



「確かにそうでした。ディアは、その……大丈夫なのでしょうか?」


 ヘルグ兄様はかなりいいと思うけど、ディア的には『あり』なのかしら?


「さっきの姿を見てのとおりよ。あれはディアの我儘だったの。ヘルグラウ君に皆の前で求婚をしてほしかったのですって」


 お母様はくすくすと笑っている。


「ティト、ヘルグラウ君はね、ディアの初恋の相手なのよ。それを知ったお父様が、ヘルグラウ君を離すと思う?」


 そうだった、我が家は愛が重いタイプと現実的なタイプ、両極端だった……


 お父様と、お兄様に、ディア……


 そっか……ディアはそっち側だったのね。


 私は、そっとヘルグ兄様に対して手を合わせてしまった。

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