次なるターゲットは?
一部最終話まで後4話
翌日、学園に行くと、教室では当然のようにユング王太子の戴冠の儀式と、リリお姉様との婚約の噂で持ちきりだった。
「ティト様、おはようございます。昨日はお疲れさまでした」
ダリエが、小さな声でそっとねぎらいの言葉をかけてくれた。
「ありがとう。昨日のこと、よく知っているわね?」
私も小さな声で話をした。防音結界を張るほどの話は出ないだろうから、こそこそしながら話をする。
「うふふ、ダリエも、私も、ティト様のお噂はどこからでも入るのですよ」
ロアが笑いながら口にした言葉に少し狂気を感じたけれど、この二人が私に牙をむくことはまずないので、そっとしておいた。
「もちろん、ティト様は、グランディエラ様の正式な婚約者として、公の場で発表されたのですよね?」
ダリエは、キラキラした期待のこもった眼差しを向けている。
女の子は恋愛ネタが好きよね……
「ええ、ちゃんと正式なパートナーとして、会場ではアズール様とはずっと一緒にいましたわ」
サービスは、このくらいでいいだろうか?
「くうぅっ!いいですわね。ああ、手を取り合うお二人を目に焼き付けたかったですわ」
ダリエは頬に手を当て、くねくねと体を揺らしている。喜んで頂けて何よりよ。
「……あの、お父様から、今朝聞いたのですけれど、王太子の婚約披露パーティーの前に、学年末に開催する学園でのパーティーで、子供たちには色々とまとめて通達されると聞いたのですが、本当でしょうか?」
ロアがかなり声を小さくして、パーティーの話を口にした。
この機会に子供同士で社交の練習をさせるのね?
実際にはそれは口実で、子供から得た情報を、大人たちが聞き出して利用する気満々なのでしょうね。
その後、大人たちはその情報を元に、社交界で情報交換をするのだろう。
「私も今朝、お父様から軽く聞きました。王太子の婚約披露パーティーには、国外の要人も集まるので、外交関係には先に話が回ってきたのでしょうね」
うちの場合は、式典には誰が列席していたかを、お父様に散々聞かれたわ。
——普通なら逆よね?
「そういえば、グランディエラ様がティト様と婚約されたので、諦めた令嬢たちが最近になって、一斉にフェルトシュパート様に鞍替えしているらしいと、ダリエと一緒に噂を聞きましたわ」
そうなの? ヘルグ兄様、そんなこと一言も言ってなかったわ。
「本当ですか?その、アズール様の時ほど、令嬢たちが目立った行動をしているようには思えないのですが……」
アズ兄様の時は、見ていて可哀想になるくらい、かなり酷かったわよ?
「それは、フェルトシュパート様は、常に王太子と一緒に行動されているからだと思いますわ」
ロアが真剣な顔で断言した。
「今日の終わりに、先生が学園パーティーの話をすると思います。フェルトシュパート様は複数から狙われているので、決して一人にならないようにとお伝えください」
あまりのロアの重圧に、私は思わず首を縦に振っていた。
お昼にアズ兄様が迎えに来て、一緒にサロンに向かうと、いつもは静かなサロンの前に令嬢が何人かたむろしている。
「どうかしたのでしょうか?」
まさか……と思い、よくよく見てみると——
「あー、ついにヘルグも囲まれたか……」
アズ兄様は、身に覚えがありすぎて、同情のこもった目でヘルグ兄様を見ている。
「なんだって、あんなにいきなり……」
先週までは、こんなに酷くなかったはずだ。
「当然だろうな。昨日正式な発表があったんだ。関係者の子供なら、ヘルグに目をつけるだろうな」
確かに、アズ兄様はさっさと私と婚約をした。それに引き換え、ヘルグ兄様は今のところフリーだ。
「今度からは、一人で歩かないように注意するようにと、お友達に言われたばかりですわ」
どうします? とアズ兄様を見上げると——
「ヘルグのことだから、予測していただろうから、既に手を打っていると思うよ?」
ニヤリと笑って、呑気にヘルグ兄様に近寄っていく。
近くまで行くと、令嬢たちがやいのやいのと、ヘルグ兄様を取り囲み押し問答を繰り広げている。
「だから、貴女ではヘルグラウ様の家格には釣り合わないわよ!」
「何よ、確かに家格だけだとあなたよりは低いけど、お父様の立場は貴女の親より上よ!」
「あら、下品だこと。騎士の妻となるなら、もっと知的でないとフェルトシュパート家を守れませんわよ?」
「いくら知的でもその貧相な体じゃ、殿方を癒すには難しいのではなくて?」
「令嬢とは皆こうなのでしょうか……?」
——聞いてあきれるわ。
「親から言われているのもあるのだろうね。今時どうかとは思うよ」
アズ兄様も気分が悪そうだ。きっと以前を思い出したのだろう。
「盛り上がっているところを申し訳ないんだが、僕にはすでに決まった相手がいるので、勝手に取り合うのはやめてくれないか?」
ヘルグ兄様の言葉に、令嬢たちは一気に静かになった。
——ヘルグ兄様?! いつの間に?
私とアズ兄様は思わず顔を見合わせて、速足で令嬢をかき分けてヘルグ兄様の元へ向かい、彼の腕を掴むとサロンの中に押し込んだ。
急いで防音結界を張って
「「だれだ(よ)」」
私とアズ兄様があまりに必死な形相だったからか、ヘルグ兄様はきょとんとした後、お腹を押さえて笑い出した。
「まあ、帰りにでも話すよ。ほら、早くしないと王太子が来るよ」
ヘルグ兄様はそう言って扉に手をかけた。
扉が開かれると、当然のようにそこにはユング王太子とリリお姉様がいた。
皆で食事をしている最中、何度もヘルグ兄様に尋ねてみたけど
(だから、帰りに教えるから後でね)
とかわされてしまい、お話にならなかった。それどころか
「そうだ、ティト、初めて参加した公式行事、婚約式はどうだった?」
などと話を振られてしまい、まんまと逃げられた。
「……大人の方たちは、初めてお会いする方ばかりで……あ、リリお姉様のお父様ってものすごくカッコいいですね? 思わず見惚れてしまいました」
大人たちの事情はさておき、ナトゥーアの王……あの人は色々と溢れ出ていた。
「あら、そんなに褒めて貰ったら、お父様喜ぶわ。でも、ティトは近寄らない方がいいわよ。あの人見境ないから」
……娘に言われるなんて、よっぽどなのだろう。
ナトゥーアは巨大ハーレムがあると言っていたし、まあ、そうなんだろうな。
「今日、この後フェルゼンへ立つらしいから、今日は見送りなんだ。ティトも一緒に見送りに行くか?」
王太子に誘われ、一瞬もう一度あの綺麗な顔を見てもいいかな?と思ったのに
「ティトは可愛いから駄目よ!お父様の毒牙に掛かったら、英才教育されちゃうわ!アズール!笑ってないで止めなさい!」
リリお姉様が涙目で必死に反対をしたので、見送りはあきらめることにした。




