賢者の協力
チャコ姉からの連絡がきて通信対応していたため、私の食事の開始が遅れてしまった。
——急いで食べなきゃ。
ただでさえ私は食べる速度が、皆よりも遅いので慌てながら、マナーギリギリに頑張って食べていた。
(ティト、大丈夫だったか?)
私の食べ終わりが近づいた頃を見計らって、アズ兄様が声を投げてきた。
(ちょっとチャコ姉から連絡が来て…‥二人に手伝ってほしいの)
私は、アズ兄様とヘルグ兄様に、食べながら念話を繋いだ。
(どうした?チャコさんに何か言われたか?)
(ティト?急にどうした?)
二人は、お茶を飲みながら意識だけはこちらに向けている。
(チャコ姉が『魔族の国の魔王は最低だけど、殺すのは忍びない。命を取らず、魔王の支配から外すことができないか調べて』と言ってたの)
チャコ姉は、中々難しいことを言ってる。
(一人じゃ大変だから、二人も一緒に調べてくれないかな?)
(いいよ、ヘルグ。いつがいい?)
(あー、今日は城まで見送る日だから、先に行っててくれるなら、今日でもいいよ)
(だって、ティト、どうする?)
(一人では、さすがに大変だし。どのくらいかかるか分からないから、早く行けるならその分助かるわ)
(じゃあ、俺とティトで先に向かって、ヘルグは後から来いよ)
(分かった。できるだけ急ぐよ)
(2人とも、よろしくね)
食事を食べ終わると同時に、私は念話の接続も外した。
黙ったまま黙々と食事をしていたら、リリお姉様の視線を感じて目を向けると、
「ティト、なんだか忙しそうだったけど、大丈夫だったのかしら?」
リリお姉様はサロンに入った際に、私が挨拶すらせずに、長いこと通信していたことを気にしていたようだ。
どう誤魔化そうかな……
「ティトもしかして、先日話していたドレスのことで、何かあったのか?」
アズ兄様が、咄嗟に助け船を出してくれた。相変わらず機転が利く優秀な人だ。
「ええ、アズール様と正式に婚約をしたので、ドレスに色々と変更が入ったのです。お母様から、自分でも考えるように言われて……」
これは嘘ではない。実際に言われているわ。
朝、アズ兄様とヘルグ兄様に散々愚痴ったのが、こんなところで役に立つとわね。
「まあ!急な変更だと慌ただしくなりますわね?私達の婚約式のために、忙しくさせてしまってごめんなさい」
リリお姉様に謝られてしまったわ。
嘘をついているのではこちらなので、申し訳ない気持ちになるな。
「リリお姉様、お気になさらず。慣れないことではありますが、これも自分のためなので、いい経験ですわ」
誤魔化すように、にっこり笑って、リリお姉様に心配しなくていいと伝えていたら
「ティトは、なんでもテキパキとこなしそうだよな?成績もかなりいいし、アズールと渡り合えるほどだ。将来、女官を目指すのか?」
ユング王子から、将来の話を振られた。
「いずれは……興味があるのですが、こればかりは私1人の一存では決めかねますので、もう少し先の話になりますわ」
婚約してしまったから、アズ兄様と結婚しなきゃならないし……
——貴族女性が働くのは中々難しいのよね。
「アズール、お前の嫁になるんだろ?なら問題ないよな。信用できて、仕事ができる人材の確保は早い方がいい」
ユング王子は、人材欲しさから、私からアズ兄様に話の標的を変えてきた。
王子は、女性が侍従のお仕事以外で働く事に寛大なのね?
——ありがたいけど、今は無理だわ。
「ユング王子、気持ちはわかりますが、一旦持ち帰りますよ。ティトに仕事を振るのはまだ早すぎます」
アズ兄様が、はっきり断ってくれたので、回答に困っていた私はほっとした。
——ユング王子、非常に残念そうね。
いずれ、私の執務能力が追い付いたら、その時は高く買ってくださいませ。
「ユング王子、そろそろお時間ですよ」
ヘルグ兄様も、王子が余計なことを口走らないよう、間髪入れずに王子に声を掛け、リリお姉様と王子を部屋から連れ出していった。
「……アズ兄様、ありがとうございます」
サロンから王子達を見送った後、私はアズ兄様にお礼を言った。
「ティトは、まだ暫くは自由にすればいい。協力したくなったらいつでも歓迎するよ。ヘルグも同じ気持ちだと思う」
アズ兄様もヘルグ兄様も、私を評価した上で、権力者に振り回されたくないと言った過去の言葉を、尊重したままでいてくれた。
——いずれちゃんと、見極めなきゃな。
***
その日の授業が終わると、私とアズ兄様は一緒に勇者資料館に向かい、チャコ姉に頼まれた魔族のことを調べることにしたけれど……
「正直、お願いされたことは簡単ではないわ」
アズ兄様と一緒に、片っ端からめぼしい資料を見ていく。
「アズ兄様が『絶対記憶』の能力者で良かったわ。一度目を通した資料は、避けて見ることができるし無駄がないわ」
物凄い集中力とスピードで資料に目を通しているから、アズ兄様の返事はない。
私は横でピックアップして貰った箇所を、メモに書き写しまとめていく。
「これが済んだら、資料をインストールしたアズ兄様に、後から質問し放題ね……」
2人で集中して黙々とまとめていたら
「お待たせ、俺は何をすればいい?」
ヘルグ兄様が、資料を片手に遅れて会議室にやって来た。
「ヘルグ、ティトから話を聞いてどの資料が有効か探してくれ」
アズ兄様は、ヘルグ兄様の能力『野生の勘』を使って、効率化を図るつもりで待っていた。
私はヘルグ兄様にも、チャコ姉からお願いされた話を詳しく伝えた。
「ふーん、ティトは賢者だから知恵を使って魔王討伐に協力する感じなんだね。やっぱり勇者パーティーなんだな」
ヘルグ兄様は、少年のようにワクワクした顔で話を聞いている。
——パーティーメンバーではあるわね。
「何もしないのは申し訳ない気分だったから、少しくらい協力しなきゃなって思ったんだ」
勝手に定められたとはいえ、討伐はお任せするのだから、それくらいはやらなきゃね。
「そうだなぁ……資料はこれとこれ、あと、多分まだ持ってきてないのもあるな。ちょっと取ってくるよ」
ヘルグ兄様はサクサクと厳選すると、手に持っていた資料を置き、部屋の外の書棚へ他の資料も取りに行った。
「まとめていた資料が選ばれて良かった……」
アズ兄様は笑いながら、資料を読み始めた。
確かに、せっかくまとめても、役に立たなかったら悲しいわよね。
「お待たせ、あとはこの2冊だよ。こっちの資料と、今、アズールが調べているやつが一番重要だと思うよ」
ヘルグ兄様は紙を千切って作ったしおりを、資料の重要部分に次々と挟んでいる。
ヘルグ兄様の能力って……
——思った以上にめちゃくちゃ便利だわ。
「ヘルグ兄様、ありがとう。急いでまとめるから待っててね」
私も指定された資料を手に取ると、暗記するつもりでまとめはじめた。
その間に、書棚から引っ張り出して、山積みになっていた不用になった資料を、ヘルグ兄様が全て片付けてくれていたのを知ったのは……
全ての資料をまとめた後のことだった。




