3人よれば、なんとやら
三人で、役割分担してまとめた資料を見ながら『魔王の命を刈り取らずに制圧する方法』を模索していた。
「ティト、今持っているその資料と、この資料の、ここ見比べてみて」
ヘルグ兄様が、ヒントになりそうな記述に当たりをつけ、私が考察して、アズ兄様が足りない部分を補足する。
——三人寄れば文殊の知恵ってやつね。
「これ……そうか、魔族の成り立ちって、そうだったのね。これなら、チャコ姉の要望に答えられるわね」
アズ兄様とヘルグ兄様の協力のおかげで、チャコ姉からの依頼に目処がついた。
「でもまさかだな。人間と魔族が元は同じだなんて……しかも、強引に戦いに参加していたなんて、信じられないよ」
ヘルグ兄様は、表情に陰りが現れた。
彼騎士だから、敵対する魔族は排除対象として認識していたのだろう。
「……ヘルグ兄様、今は魔族が活発化しているのだから仕方がないですわ」
魔王が好戦的だと、魔族は命令に背けない。
相対する兵士が、攻撃してくる魔族に反撃するのは当然だわ。
「チャコ姉……勇者は、魔族ごと救おうとしているんですから、きっとうまくいくわ」
本来の魔族は力は強いけど、心穏やかな性格らしい。
——いつか会ってみたいわね
「ティト、今まとめた話を資料にしたから、チャコさんに通信魔法で送るといい。口頭だけだと、聞き漏らすかもしれないよ」
アズ兄様が、私たちが調べてたどり着いた結論を、資料にして渡してくれた。
「ありがとう。ねえ、この通信機、書面も送れるとか凄すぎない?」
一体どんな仕組みなのかしら?
「凄いよな、さすがアウスヴェーク様だよ。いつか、魔法理論を授業以外でゆっくり聞いてみたいよ」
アズ兄様は、うっとりしながら思いにふけっている。
「特殊部隊の人たちが、2年生になると授業を教えてくれる日もあるよね?」
もしかしたら、チャコ姉も来るのかな?
——逢えたらいいな
「ティトは、魔法学科を受けるなら、特殊部隊が先生の授業だよ。アウスヴェーク様含むトップ陣営はたまにしか来ないから、貴重なんだ」
そうなんだ、そんなにすごい人がこのバングルを作ってくれたんだな。
——それなら国宝級にもなるわよね。
「そろそろ、資料館が閉まるから帰ろう」
ヘルグ兄様は、使わなくなった資料はその都度さっさと片付けてくれていたので、それぞれ自分の荷物を持って足早に馬車に向かった。
「……はぁ、調べるほど、アウスリーベン先生の凄さがわかるよ」
「ヘルグ、アウスヴェーク様も同じだぞ?彼の方の魔法陣なんて、覚えても普通は使えない」
帰りの馬車の中で、ヘルグ兄様とアズ兄様から特殊部隊に対する憧れを散々聞かされて、私も少し詳しくなってしまったわ。
聞き流したいけど、遅くまで付き合って貰ったので、甘んじて受け止めましょう。
「そうだ、ティト、これ、うちの父からの手紙なんだ。シュピネル様に渡してくれる?」
帰りがけにヘルグ兄様から、少し分厚い封書に入った書類を渡された。
——お仕事の依頼かしら?
「わかったわ。お父様に渡しておくわ。二人ともありがとう。おかげで思った以上に早く済んだわ。後でチャコ姉に連絡してみる」
アズ兄様とヘルグ兄様に見送られ、私は急いで帰宅した。
***
お父様に預かった手紙を渡し、家族との食事も済ませると、宿題をするからとソフィアを排して、防音魔法を発動。
アズ兄様がまとめてくれた資料片手に、チャコ姉に連絡をした。
「チャコ姉?遅くにごめんね。今大丈夫?」
こんなに早く連絡をすることになるとは思わなかったので、ちょっと可笑しい。
『大丈夫だよ。連絡ありがとう。何か見つかった?』
チャコ姉はすぐに通信に反応した。
——どうやら大丈夫そうね。
「とりあえず先に説明するわね。後から書面にした物が届くはずだから、待ってて」
資料は、通信が終わり次第早急に送ろう。
「結論として、チャコ姉の言っていた魔族を支配下に置く装置はあった。後で書類を見てね」
まさか、装置だとは思わなかったわ……
「後、魔石のことだけど、種類や人によるみたい。人によっては抜いても問題ないけど、中には命を落とすこともあるようよ」
こちらの世界にも、色々な研究をしている人がいるようね?
「聖女が立ち会ったら、即座に癒せば可能みたいね。詳しくは書類に書いたわ」
フェルゼンに聖女がいるなら、きっと魔族の人間化も可能なのだろうな。
『随分と早いけど、よくこんな短時間で調べられたわね?』
それは、誰よりも私がそう思ったわ。
「あー、助っ人が優秀だったの。賢者の私より頭脳明晰な子と、勘がやたら鋭い子。私の仲良しだから、いつかチャコ姉にも紹介するね」
アズ兄様とヘルグ兄様のことを、チャコ姉に本当に紹介できたらいいな……
『ありがとう。助かったわ!お友達にもお礼を言って頂戴?』
そうだ!今度会う時は先生達も一緒に来てもらえたら……
アズ兄様とヘルグ兄様は憧れの人に会えるし、きっと喜ぶわよね?
——サプライズで、会えたらいいな。
「チャコ姉は、聖女には会えたんだよね、どんな人だった?」
聖女って、どんな人なのかしら?
「聖女がこのままこっちに残るなら、私も会えるけど、そうじゃなかったら会えないじゃない?」
せっかくだから会ってみたいのよね。
『何となくだけど、残るんじゃないかな。既にこちらで食堂というか、喫茶店のお店を開いてるし』
喫茶店?え、羨ましい……
私の頭の中に、前世の自分の店がフッとよぎった。
「えー、行きたいなぁ。私がフェルゼンに行く日まで残っていて欲しいなぁ」
なんなら、お店の経営のこととか、がっつりお話してみたいわ。
今は亡きお店だけど、前世の私が好きだった世界にもう一度触れたいと思った。
『ちなみに今、ソージュのお土産で私、クリームソーダ飲んだわよ?』
——ちょっと待って!?
……なんでそんな物があるのよ?そもそも、炭酸なんてこの世界にあるの?
「うそ、そんなのもあるの?んー、なんとかできないかしら?」
是非、お目にかかりたいし、この世界での作り方が知りたいわ!
炭酸なんて、絶対にみんな喜ぶじゃない!
『聖女が帰るにしても帰らないにしても、今度そちらに行く時に、今日のお礼にお土産にして持って行くわね』
——チャコ姉は女神かしら?
現物が見られるなら、自分でもなんとかなりそうよね?
——いつか炭酸にも出会えるんだわ。
めちゃくちゃ楽しみだわ!
「本当?やった!我儘言っていい?できたら5個ずつ欲しい!私と、手伝ってくれた2人と、喧しい王子とその婚約者の分お願い!」
もし気に入ったら、私が作り方をシェフに教えてあげればいいわよね?
一応令嬢だし、厨房には入れないわよね……
『分かった。私はこのままこちらに残ることにしたから、報告も色々したいし楽しみにしていてね。ティトも何かあったら教えてね?』
え?チャコ姉、こっちに残る事決めたんだ!
どうしよう……すごく嬉しいわ。
その時、部屋の外でカタカタとワゴンを押す音が聞こえてきた。ソフィアがお茶を持って来たのだろう。
——まずいわ。早く通信を終わらせなきゃ。
「チャコ姉本当?残ってくれるの?嬉しい!また、必ず会いに来てね!」
私は畳み掛けるように、一方的に話した。
「お土産楽しみにしてるね!後、魔族も解放してあげてね!じゃ、お休みなさい!」
慌てて通信を終わらせると、防音を解除して、宿題をするふりをしながら、資料をチャコ姉に送信した。
資料がふわりと浮き、フッと消えた時、
コンコン
「ティトお嬢様、お茶をお持ちしました。入ってもよろしいでしょうか?」
ギリギリ間に合たタイミングで、ソフィアが声を掛けてきた。
「ありがとう、ソフィア。入っても構わないわ」
私は、何事もなかったかのように、ソフィアを部屋に招き入れた。
秘密の行動にちょっとだけ、私の胸がドキドキしていた。




