無知な娘の受難
——フルオリート家の一室
一人娘のオランジュは、不貞腐れていた。
外出する事を禁止されたので、学園にも行けなくて、今日は一日部屋で過ごしていたわ。
「なんで私が、自宅謹慎なんかしなければならないの?」
お父様ったら、昨日は、帰宅するなり怒鳴り散らして……
私の話すら、聞いて下さらなかったわ……
「お嬢様、それはカフェでの失態を反省するためと、旦那様が言っておりましたよね?まさかご理解されていなかったのですか?」
侍女は、冷たい目で私を見ている。
「確かに私は……ちょっとだけ失礼な事をしたわ。でも、あんなに怒る事かしら?」
高位貴族だけど、たかが、子供同士の集まりじゃない。
「機密事項があるわけでもないのに……」
なんで、私が悪者にされなきゃならないの?
「だいたい、全部あの娘がいけないのよ。あの娘が学園にきてから、アズール様がおかしくなったのよ!」
——私は何も悪くないわ。
「……お嬢様、本当に、グランディエラ家のご子息様とは、良い仲だったのですか?」
侍女は、私とアズール様の仲を疑ってくる。
「何を言っているのよ?以前からずっと、アズール様とは、お互いに目と目で通じ合っていると言っていたじゃない」
だっていつも、私と目が合っていたわ。
「彼は、恥ずかしがり屋さんだから、表立って行動しないだけよ……それに最近は、お話する時に、優しく微笑んでくれるもの」
あれは、私とお話しているからだわ。
「……目が合うのは、単にお嬢様が見つめているからです。笑顔は社交辞令ではないですか?通じ合っているのは、気のせいだと思います」
侍女は、私が苛立って暴れた部屋の後片付けをしながら、冷たい事を言ってくる。
「あなた、さっきから失礼よ! もう顔も見たくないわ。部屋から出て行って!! この事はお父様に言いつけてやるんだから!」
ドサッバサバサ、ガチャン!パリン
私は悔しくて、近くに置いてある本や、花瓶を投げつけ、侍女に八つ当たりをした。
「……旦那様への言いつけなどは、お嬢様のお好きにしてください。私は本日限りで、お嬢様の専属を辞退させて頂きます」
侍女は、淡々と頭を下げ、さっさと部屋を出て行った。
「ちょっと!なによ!なんで出ていくのよ! 侍女なら部屋を片付けなさいよ!!」
出て行けと言ったけど、本当に出ていかなくてもいいじゃない!
イライラするわ。
「それもこれも、全部アズール様との仲を邪魔した、あの娘のせいだわ」
少しすると、廊下をバタバタと走る、複数の足音が聞こえてきた。
「誰よ?廊下を走るなんて、品がないわね」
私は子供だし、走っても許されるけど……
「お父様に見つかって、叱られればいいわ」
そんな風に思っていたら
ガチャ、バン!!
部屋のドアが、ノックも無く乱暴に開いた。
びっくりして振り返ると、お父様が、顔を真っ赤にして怒っていた。
「オランジュ、お前、本当に大丈夫か?」
——あの侍女、お父様に何か言ったのね?
お父様は、私の心配をしてるんだわ。
「お父様、あの侍女はクビにしてください。私を馬鹿にした挙句、部屋の片付けすらせずに、出ていきましたわ」
私は早速、お父様に告げ口をした。
「……オランジュ以前からお前は、グランディエラ家のご子息とは、特別に仲が良いと言っていたが、今も本気でそう思っているのか?」
お父様が、真剣な顔で尋ねてきた。
これは、もしかしたら、前からお願いしていた婚約の打診をしてくれるつもりかしら?
「お父様アズール様とは、その……お互いに思い合っていると思いますわ。ただ、アズール様は誠実な方だから、積極的でないだけですわ」
恥ずかしいけど、ここは、何としても、お父様に動いていただかなければ。
「……グランディエラ家のご子息は、シュピネル家の令嬢と共に登下校していると聞いたが、それはなぜだ?」
——本当にあの娘は邪魔だわ。
「学園の噂で、初日から、2人はかなり親密だと聞いたが……お前は知っているか?」
お父様ったら険しい顔だわ。
私のことを心配してくださったのかしら?
「お父様、あの娘は、私とアズール様の仲を邪魔するんです。ヘルグラウ様と仲睦まじくしながら、アズール様まで振り回すのよ」
アズール様は困っているはずだわ。
「アズール様は、妹としか思ってないのに、いつまでも我儘で振り回して、可哀想ですわ」
だから、あの娘のことは、お父様に言えば、なんとかしてくれるわよね?
「……そうか、私は間違っていたのだな」
ふーとため息を吐き、怒りを収めた様に見えるお父様は、小さな声でポツリと呟いた。
——でも、私には聞こえなかった。
「お父様?聞こえませんわ。それより、シュピネル家の娘、あの娘は邪魔なので、お父様の力で、どうにかしてくださ……」
そう言った瞬間、私の身体は床に倒れた。
「え……?お父様……」
訳がわからず、お父様を見た。
振り抜かれたお父様の手と、熱をった頬に、私は自分が、頬を打たれたのだと気付いた。
「……こんなにも、頭の不出来な娘だとは思わなかった。お前は一体、今まで娘に何を学ばせてきたんだ!」
いつのまにか、お父様の後から、お母様も入って来ていたようで、お父様はお母様をキツく叱責している。
「旦那様、本当に申し訳ありませんでした。今後、この様な世迷言を言わないように、しっかりと教育しなおしますから!」
お母様は、床に膝をついて、お父様に縋りつき謝っている。
「……お母様?」
打たれた頬が痛くて、私はお母様に手を伸ばしたけれど、
「あなたは! 自分のした事を考えなさい!」
と言って、取り合ってくれなかった。
初めてお父様とお母様に拒否され、どうしたらいいかわからず、専属侍女を見たけど、
「旦那様、今日をもちまして、お嬢様の専属を 辞めさせて頂きます」
侍女すら、私の心配をしてくれない……
それからの毎日は、学園には行かず、ひたすら家庭教師について、勉強の毎日だったわ。
私は、後から知ったの。
私の家より、あの娘の家の方が家格が上だと
私は、間違っていたの。
お父様とお母様が、いつだって、私は世界一の姫だって言うから……
——だから、ずっと
私が1番だって、思っていたのよ。




