私の婚約よね?
ヘルグ兄様の質問に対して、アズ兄様は、淡々と説明をしていく。
「勇者資料館に行った日に、ティトのご両親から確認されたろ?あの日の夜、シュピネル卿から父に連絡があったんだ」
お父様は、私に話をした後すぐに、グランディエラ家に連絡をしたようだ。
「だからティトとの婚約は、週末にまとまる。
登下校を共にするほど仲が良いならと、親が先走り、以前シュピネル家に打診したからね」
アズ兄様が、ちょっと困った顔をしている。
どうやら、親が勝手に打診したようだ。
「なんだ、アズールから親にお願いしたんじゃないのか?」
ヘルグ兄様は、意外だと目を見開いた。
私も、アズ兄様が言い出したと思ったわ……
「違うよ、俺は婚約するならティトが良いけど、できるなら、ゆっくり決めたかったんだ。ただ……」
アズ兄様も、私と同じように考えたのかもしれない。
「ただ?何があるのか」
ヘルグ兄様は、アズ兄様の歯切れの悪さに、気に留めている。
「親に、カフェでのことを報告したら……
『お前は、早急に婚約した方がいいだろう』と
既に打診もしたと、その時言われたんだよ」
アズ兄様は、力なく笑った。
「なんか、両家ともずいぶん急いでないか?」
ヘルグ兄様は、私も気になっていることをアズ兄様に尋ねていた。
「まあ、カフェでのこともあったし、普段から令嬢に囲まれてうんざりしていたから……
家の両親は、気にしていたみたいなんだ。
俺が、女性が苦手なことも知ってる。
ティトは特別だから、俺の気が変わらないうちに、さっさと決めたかったみたいだよ」
アズ兄様のご両親は、即断即決するくらいには、相当気を揉んでいたようね……
「昨日のことが引き金だったのか……まあ、アズールは、昔から令嬢に囲まれていたし、ご両親も相当心配していたんだな」
ヘルグ兄様は納得していたけれど、やっぱり、なんとなく腑に落ちないわね。
先程から、私の婚約の話をしているけど……
なぜ、基本的に、私以外の人達だけで話が進んでいくのかしら?
貴族の結婚は、家同士の契約みたいな物。
でも……
もう少し嫁ぐ側の、私の意見を聞いてくれても良いのではないかしら?
「婚約するのは、私とアズ兄様なのに、親が勝手に話を進めるのは……どうかと思うわ」
私は、なんだかモヤモヤしていたので、つい本音を言ってしまった。
「なんだ?ティトは、婚約に反対なのか?」
ヘルグ兄様はびっくりしているし、アズ兄様はショックを受けている。
「だって、私の場合、まるで決定事項のように言われたわよ?週末のことも、何も聞いてなかったわ」
アズ兄様は、ちゃんと知っていたのに……
「……ティトは……俺が相手だと、嫌?」
アズ兄様が、恐る恐る確認してくる。
「嫌ではないわ?ヘルグ兄様を除くと、選択肢に上がったのはユング王子よ?
さすがに私、王妃にはなりたくないわ」
アズ兄様も、ヘルグ兄様も、私の婚約に選択肢が少ないことは、わかっていたみたいだ。
2人そろって、同情の目を向けてきた。
「……今は、ユングよりはマシってこと?
俺、もう少し頑張らなきゃな」
アズ兄様は、苦笑いをしていた。
「ティト、せめて言い方を……まあ、ティトだしな……」
ヘルグ兄様は、がっくり項垂れて、アズ兄様の肩をぽんと叩いた。
「なによ、婚約するなら、アズ兄様が一番マシだってことは、本当でしょう?」
なんで2人とも、私をそんなに残念な子を見るような目で見るのよ……
「ティトが嫌じゃないなら、それでいいよ。どんな形であれ、ティトの一番になれたんだ。今はそれで満足するよ」
アズ兄様は、ひとりで納得している。
「ご両親が、婚約のことをティトに細かく言わなかったのは、すでにアズールと仲が良いのを知っていたからだろう?
ティトの気持ちを、蔑ろにされたわけじゃないと思うよ」
ヘルグ兄様にフォローされ、ちょっと気持ちが落ち着いた。
「私の婚約は、アズ兄様なら大丈夫です。
……別に、相手に文句はないのです。
何も知らなかったのが、嫌なだけですわ」
自分のことは、自分で決めたかっただけよ。
「ご両親は、貴族の結婚をまだ理解していないと考えて、年齢的にもティトに決断させるには早いと考えたんじゃないか?」
アズ兄様にも、ヘルグ兄様と似たようなことを言われ、ハタと気付いた。
「……よく考えてみたら、私、まだ10歳だったわね」
子供に、人生の決断は任せられないわよね。
「とりあえず、2人が合意してるんなら、それで良くないか?俺の勘だと、2人はそのままうまくいくよ」
ヘルグ兄様にそう言われたら、納得するしかないわ。
「うまくいくならいいわ。それより、カフェで会った令嬢は、どうなったのかしら?」
今日は、朝お見かけしなかったし、気になっていたのよね。
「彼女は、自宅謹慎してるんじゃないかな?思い込みが激しそうだし、逆恨みされても困るから、今回は大事にはしなかったよ」
アズ兄様的に、自宅謹慎だけでも、我儘な令嬢にはつらく感じるだろうと言っていた。
「それでも、プライドの高い令嬢には、温情ある対応でも、厳しいと感じるだろうね」
ヘルグ兄様から、今後彼女には警戒した方がいいと言われた。
「学年が違うし、大丈夫じゃないかしら?」
たかが恋愛脳な令嬢くらい、どうにでもなるのでは?と、私は考えていたけど……
「いや、あのタイプは、プライドが傷つけられると、罪を認めたくないと、他害に走るから、厄介になりやすいんだ……」
アズ兄様は、対応には慣れているのか、先を思ってうんざりしていた。
「あの令嬢に、ティトが逆恨みされるか、よくわからないイチャモンで、俺に責任が来る可能性があるから……婚約を急ぐことになったんだよ」
早急に、希望を打ち砕くべきだ、ということらしい。
「なんか、面倒ね?」
私は素直に、面倒くさいと思った。
「すごく……煩わしいよ」
アズ兄様は、目に見えて疲れ果てていた。
「2人が婚約してしまえば、あの令嬢がいくら騒いだところで、誰も耳を傾けないだろうね」
正式な肩書きがなければ、余計な噂が広がりやすい。だからこそ、先手を打つそうだ。
私の人生を、親から勝手に進められることになったし、まったく、迷惑な話だわ。
「我が家は、訳あって、とりあえず正式に決まるまでは、従者にも秘密です。ソフィアだけには伝えましたが、口止めしてますわ」
シュト兄様に、バレなければいい。
「あー、ティトのお兄様か……バレたら邪魔するよなぁ……」
ヘルグ兄様は犠牲者だからか、よくわかっている。
「ま、今週末のことだから、大丈夫だろう」
アズ兄様は、気楽に考えているが……
「アズ兄様、シュト兄様は、いろいろ、かなりヤバいので、気をつけてくださいね?
何があったら、すぐに私に教えてください」
私は、いずれ会うことになるシュト兄様に気をつけるよう、アズ兄様に伝えた。




