婚約と言われても
アズ兄様により、私は何も知らされていない週末の予定を聞かされた。
「今週末、両親と共にシュピネル家に赴くことが決まりました」
——思った以上に早いわね
私は、行動の早さに驚いてはいたけれど、婚約は知っていたので、特別思うことはない。
お腹がいっぱいになっていたので、私はぼんやりしながらお茶を飲んでいた。
「ティト、貴女は嬉しくないの?」
リリお姉様から急に尋ねられ、私は何のことを言われたのかわからず
「え?何がですか?」
と、リリお姉様に聞き返してしまった。
「ティト、あなた、自分の婚約の話なのに、随分興味がないのね……もしかして、アズールが相手なのが嫌なの?」
リリお姉様は、アズ兄様を見ながらそう尋ねてきた。
——ちょっと、何でそうなるのよ
アズ兄様は、リリお姉様の言葉にショックを受けたような表情をしている。
「リリお姉様!アズ兄様が嫌だなんて、そんなことあるわけないですわ。ご心配なく」
私は自分の話には、あまり興味が持てないだけだ。
「でも……普通ならもう少し、感激とか喜びとか、色々あるでしょう?」
リリお姉様は、なおも食い下がってくる。
「リリ様、ティトはまだ幼いですし、実感が湧かないのだと思いますよ。あまり周りが騒がない方がいい」
ヘルグ兄様が助け船を出してくれた。
——さすがヘルグ兄様、助かるわ。
「リリ様、仲良くなったとはいえ、何でも自分と一緒だと思わない方がいい。ティトと俺は今のまま仲良くやれたらそれでいいんだ」
アズ兄様、よく私のことを理解してるわ。
「でも、ティトが嫌がって見えたなら、今後気を付けなければならないな」
私が嫌がっているように見えたなら、気をつけなきゃダメね……
確かに、関係が良好に見えなかったら、余計な横槍が入りかねないわ。
「リリお姉様、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。先日、父から聞いたばかりなので、まだ実感が湧かないのだと思います」
「アズール様、大変失礼しましたわ。決してアズール様に不満なわけではありませんのでご心配なく。今後、態度に気をつけますわ」
ヘルグ兄様から始まり、私とアズ兄様双方から、意見を言われたリリお姉様は、顔の前で手を振りながら
「私ったら、余計なことを言ってしまってごめんなさい!決してふたりのことを否定したり、疑ったわけではないのよ」
リリお姉様は、慌てながら言葉を続けた。
「……私、婚約に浮かれているから。ティトもそうだったらいいなって思ったの。でも、あまりに平然としていたからつい」
リリお姉様は、自分の発言が恥ずかしいのか顔を赤くして、ユング王子をチラチラ見ながら素直な気持ちを語ってくれた。
「リリお姉様は、ユング王子のことが、昔からずっと大好きだったのだから、浮かれるのは当たり前だと思いますよ?」
私は、あえてリリお姉様が王子を好きだったことを強調してみた。
「ティト!そ、そんなこと……」
(やめて!ユングが聞いてるわ!!)
リリお姉様は、真っ赤になって否定しようとしていたけれど、
「リリ!君は、前から僕のことを?そうだったのか……あぁ、もっと早くに気付いていれば、リリとの時間をもっと作れたのに」
——ユング王子に火がついてしまったわ
王子はリリお姉様の肩を掴むと、周りを全く気にせず、二人で向き合うと話し始めた。
「……お邪魔ですよね?」
(今のうちに、私は逃げちゃダメかな?)
私は即座に、アズ兄様とヘルグ兄様に念話をつないだ。
「ここは、ふたりにした方がいいね」
(待て、俺も行く。ヘルグ、お前は?)
「ユング王子、我々は先に出ています。部屋を出る前にご連絡ください」
(こんなところに置いていくなよ。俺も行くに決まってるだろ!)
私達は、3人でそっと部屋を出て、サロン近くの中庭に向かった。
歩いている最中に、アズ兄様が魔力のペンの防音魔法を発動させていた。
「……びっくりしました。まさか、あんなに素直になるなんて思いませんでしたわ」
3人で中庭にあるガーデンテーブルを囲む椅子に座り、話を再開した。
「ユング王子も、今日は朝から、今までではあり得ないくらいしっかりしていたよ?」
ヘルグ兄様も、今までの状況に色々思うことがあったのだろう。
「ユングは基本的に、リリのことがなければ優秀だからな。リリの好意がユングにあるなら、もうバカなことをする必要がなくなったんだ」
アズ兄様は、優しい顔でユング王子のフォローをしている。
「それにしても、ユング王子、リリ様を意識して、かなりかっこつけてるよな?」
ヘルグ兄様がクスッと笑いながら言う。
「バカ、そんなこと考えていたら後で笑うぞ!ヘルグは後ろだからバレないけど、俺は隣だから、笑いを堪えるのが大変なんだ!」
普段の立ち位置では、ヘルグ兄様は護衛なので、基本的にユング王子の後ろにいるわね。
アズ兄様達、いつも笑いを堪えているの?
「ねえ、普段は、笑っちゃダメなの?」
私は、たとえ王子相手でも、確実に笑っているだろう2人を見る。
「学園内で、ユングの立場は下げれないからな。周りに人がいなければ笑うけど、頑張って王子を気取るなら、俺達は耐えるしかない」
アズ兄様とヘルグ兄様の立場は、友人とはいえなかなか複雑みたいね。
「ところで、アズールとティトの婚約は、今週末には正式に決まるのか?」
ヘルグ兄様によって、急に話が私の婚約の話題にシフトした。
私は自分の事だけど、いまいち状況が掴めていなかったので、アズ兄様の方を見た。




