軽量化した気持ち
私はソフィアに、アズ兄様ヘルグ兄様、両親にすら話さなかった、心の内まで全て話した。
今日、勇者資料館で勇者に出会ったこと、
私が勇者パーティーの賢者であること、
——転生者で能力が2つあること。
「……あと、いろいろ話した結果チャコ姉が、前世の異母姉だと知ったのよね」
偶然って凄いわよね。
「こちらの世界では、異母兄弟や姉妹なんて当たり前のことだけど、前世は違ったの……昔はちょっと複雑な気持ちだったのよ」
私は、合間を入れることなく、ソフィアに向かって一気に話をした。
「昔は、ということは、今は違うのですか?」
話を聞くために、向かいのソファーに座っていたソフィアは、私に静かに尋ねてきた。
「今は違うわ。会えてよかったし。でも、生きているうちに会いに行けばよかったかなって、ちょっと思っちゃった……」
後悔まではいかないけど、少し残念かな。
前世は姉妹でも、今は血のつながりもない
ただの他人なんだよね……
彼女に何かあっても、今後かかわることは
難しいだろうな。
「今後、その方にお会いになるつもりはないのですか?」
ソフィアは、意思を確認するようにまっすぐ私の目を見ている。
「そうね……もう一度くらいゆっくり会えればいいけど。魔王討伐後に、元の世界に帰ってしまうなら……もう会えないわね」
残ってほしいとは言ったけど、私に彼女を留めるだけの力はないの。
——彼女には帰る世界がある。
でも、特殊部隊の皆さんとの関係次第かな?
「ティトお嬢様、もし会いに行きたいのであれば、旦那様に相談しましょう。きっと、お嬢様の望みに応えてくれます」
(絶対、どんな手を使ってもティトお嬢様の望みは叶えてみせますわ)
ソフィアは、そう言ってにこりと笑った。
「……ありがとうソフィア。でも、今はちょっと心が迷っているから、このままでいいわ」
私が笑顔を向けると、反転するかのように、ソフィアはスッと真顔になった。
「お嬢様、周りに迷惑がかかるからとか、相手に不都合だから、などという理由でお嬢様のお気持ちを蔑ろにしてはなりませんよ」
——珍しい。
ソフィアに怒られてしまったわ
「せっかく出会えたのですから、そのこと自体を大事にしてくださいね」
専属侍女というのは、こんなにも私のことを理解しているものかしら……?
ソフィアだからかな?と思ったら、なんだか嬉しくなってしまった。
「ソフィアありがとう。気持ちがまとまったら、協力してね?」
私は、スッキリした気持ちでソフィアに笑いかけた。
「さあ、お嬢様、明日は学園です。そろそろ就寝の支度をいたしましょう。ご入浴の準備をさせて頂いても、よろしいですか?」
ソフィアは私が頷くと、音もなく席を立ち、部屋の奥にある浴室に消えていった。
その後、ソフィアによって丁寧に磨かれ、
ベッドに入ると、
「お嬢様、ゆっくりとお休みくださいませ。くれぐれも、今日の出来事を思い悩んで、夜更かしなどいたしませんように」
やだ、行動がバレてるわ。
「……安眠の魔法をおかけしますね」
ソフィアは、私に安眠の魔法をかけて部屋を退出した。
ソフィアの魔法のおかげなのか、私は一瞬で夢の中だった……
***
「ここは……?」
私はどうやら、自分の頭の中に来たみたいだ
「この空間って、相変わらず2つの箪笥が並んで置かれているのね」
片方は新しいけど、もう一方は改めて見るとなんていうか、あちこち傷だらけだ。
「きっとここに来たということは、チャコ姉と会ったことで、何かの記憶を修復できるってことだよね……」
私は、壊れている記憶の塊を見渡す。
「どれを直せばいいのかしら?」
私は一番近くにあった、ボロボロになっている記憶の書籍を持ち上げようとした。
「え……重い」
さほど大きなものではないのに、その本は持ち上げられないほど、えらく重たい。
「きっとこれは、まだ早いってことかしら?」
私はあきらめて、また周りにある他の本を見まわした。
すると、なんとなく1冊の書籍が存在感を放っているように思えた。
「きっとこれね?」
私が本を拾うと、案の定、軽く持ち上げることができた。
「えっと、どうやるんだっけ?」
以前も修復したはずなのに、やり方を忘れている……
「あの時は、記憶が一斉に入ってきた後だったから、いろいろ覚えていないわ……」
とりあえず、疲れるから座りたいなと思っていたら、目の前に机と椅子が出てきた。
「あ、そうだった。ここでは、考えたら出てくるんだったわね」
私は椅子に座り、卓上に記憶の本を置いた。
「直すのに必要な物は……」
そう口に出すと、手元にリペアキットとクロスが出てきた。
「そうそう、これだったわ」
私は、リペアキットを手にしたまま、書籍を手元に引き寄せた。
すると、勝手にページがペラペラと捲れて、記憶が勝手に流れ込んできた。
「あ、この記憶……」
それは、かつて母がよく私に向かって、話をしていた時の記憶だった。
***
「美茶は本来なら、由緒正しい弓の道場の孫だったのよ。お母さん、お父さんにいい様に騙されちゃったけどね」
あ、この記憶は……
「それにあんたには、ひとつ上のお姉さんがいるのよ」
私には異母姉がいると、母から聞いてショックを受けていたときのものだわ。
でも、何度も呪詛のように聞かされるうちに「また言ってる」としか思わなくなったな。
「お母さんって、酔っては同じ話を何度もループするように繰り返していたわよね……」
——いつだって悲劇のヒロインだったわ。
時間が進むごとに、母の愛は恨みに変わり、最終的には、乾いたものになっていたのだと、記憶を見て、今知ったわ。
「お母さんは、最初はただ悲しかったみたいね。あんな人でも最初は愛があったのね」
なんだか意外だったわ。
「お姉さんから父親を奪っていたんだと思っていたけど、実際にチャコ姉に会って、あんな父親はいらなかったと知れて良かったわ」
——おかげで胸の支えが取れたわ
お母さんも、お父さんのことなんか忘れて、前を向けば良かったんだけどな……
そう思った時、さっき持ち上げられなかった重たい記憶の存在を感じた。
きっと、あれはあの記憶だろうな……
——今の私でも、あれの修復は無理だわ。
私は手元の記憶が修復されているのを確認して、美茶の箪笥に丁寧にしまった。




