能力は『暗躍』
私は自室に戻ってから、ソフィアに報告をすることにした。
「ソフィア、私アズ兄様と婚約する事になるわ」
ソフィアは、お父様とお話ししている間は、部屋の外に出ていた。
婚約の話を、聞いてはいなかったので、一番に報告することにした。
「まあ!おめでとうございます。グランディエラ家との婚約だなんて、素晴らしいではありませんか!」
(さすがお嬢様ですわ。アズール様とお並びになった姿は、これ以上ないほどお似合いでしたもの!)
ソフィアは、お茶の準備をしながら話をしているが、毎度ながらに心が貫通している。
本人は気にしていないようなので、笑ってやり過ごすことにした。
「そうね、でもまだ決まったわけではないからここだけの話にしてね」
私がそう釘を刺すと、ソフィアは私の前に、丁寧な所作で温かいお茶を差し出した。
「そうですね、どこからシュヴェルト様の耳に入るかわかりませんので、お許しが出るまでは、この部屋を出たら一切口にいたしません」
(私がお嬢様をお守りしなければ!)
ソフィアの目が、仕事人のように鋭くなったが、シュト兄様は敵ではない。
でも用心するに越したことはないので、そのままそっとしておくことにした。
「……私、今、お嬢様専属でよかったと、しみじみ思っております」
ソフィアが小さな声でつぶやいた。
心の声も一緒だったのか、小さな声でもはっきり聞こえた。
「ソフィア……どうしてそう思ったの?」
彼女にそう尋ねてみると
「専属侍女であれば、嫁ぎ先までご一緒できますので、ここに置いては行かれませんので」
(シュピネル家は働きやすいし最高の職場ですが、お嬢様がいないなんて耐えられません)
——そうだったわ
結婚したら、私この家を出ていくのよね?
当たり前のことだけど、前世は結婚もしていないし……
——全く想像がつかないわね。
「ソフィアがいるなら、私も心強いわね」
私は心からそう思った。
——知らない環境に嫁いでいくのよね
心の底から信用できる存在は、かなりありがたいことになるんだろうな。
「お嬢様……私が、いかなる時もお嬢様をお守りいたしますからご安心ください」
(グランディエラ家、隅々までしっかり調べなくては……手強い相手ね)
ソフィアは、一体何を調べるつもりかしら?
「ソフィア、敵陣に行くわけではないわよ?」
私は不思議に感じたので、思わず声をかけてしまった。
「はっ!失礼いたしました。ですがお嬢様、相手は公爵家です。お嬢様に、無理難題などを言ってくることがあるかもしれません」
ソフィアは至って真面目に言っているけど、
——ちょっと考えすぎじゃないかな?
「その時に、弱みの一つでも握っておけば、交渉がしやすくなるかと……」
——弱みを握るって……なんのこと?
ソフィアの情報収集は優秀だけど、そもそも彼女の能力って何なのかしら?
「ねえ、ソフィア。言いたくなければ、言わなくていいのだけれど……」
——本来、能力の開示はするものじゃない。
私が尋ねると、強要になってしまうかもしれないわ。聞いてみたいけど……
私が言葉をいい淀んでいたら
「お嬢様、以前から、能力をお伝えするタイミングがなく、言えずにおりましたので、聞いていただきたいのですが……」
ソフィアは、空気を読んだのか、自ら話してくれようとしている。
真剣な顔のソフィアは、少しだけ緊張しているのか、自分の手を握りしめている。
「私の能力は『暗躍』です。このような物騒な能力の私ですが、今後、お嬢様に同行してもよろしいでしょうか?」
(この能力は、お嬢様を怖がらせてしまうかもしれない。でも、この能力はお嬢様をお守りできる。どうか、理解していただきたい)
——あー、そうだったのね?
私はソフィアの能力を聞いて、驚くよりも、納得してしまった。
「ソフィア『暗躍』なんて、私にもってこいの素敵な能力だわ。の専属侍女がソフィアで、本当によかった」
私が心からそう伝えると
「ティトお嬢様……」
(なんてありがたいお言葉!)
ソフィアは感無量とばかりに、目を潤ませているけれど……暴走させてはいけない。
「これ以上ないくらい、ぴったりの能力で私は嬉しいけど、危ないことはしてほしくないわ。ソフィアが傷ついたら……私泣くわよ?」
私が泣くことに、心を痛めるソフィアだから、抑止になることを願うわ。
ソフィアがグッと息を殺したのがわかったので、言い返される前に、私は話を続けた。
「婚約の話もだけれど、今日の勇者資料館での話を聞いて?まだ、誰にも話してないから。私から聞いたこと、ソフィアは秘密にできる?」
私はソフィアには、すべて話してもいいと思っている。能力を得てから、彼女は何度もその気持ちを貫通してくれていた。
——正直、家族よりも信用ができる。
「私でよければ、何でもお伺いいたします。秘密とおっしゃるなら、たとえ死んでも誰にも教えません」
(もったいなくて教えたくないですよ)
——心底、ソフィアはありがたい存在だわ、
「ソフィア、自分を蔑ろにしないでちょうだい。命まではかけなくていいわよ」
私がそう言ったところで、無意味なことなのは重々承知だ。
でも、言わないわけにはいかないのよ。
「何をおっしゃいますか。ティトお嬢様のことに命を懸けず、いつこの私の命を懸けろと言うのですか?」
ソフィアはこのように、いつだって私の事にまっすぐ過ぎるから、
「ソフィア、まずは、命を懸けること前提で考えることを止めましょうね?」
私の言葉に、ソフィアは衝撃を受けたような顔をするけど……
私の考え、間違っていないわよね?




