私の暮らす国
ようやく情報から解放されて、やっと静かに考えることができる。
シャボン玉のように弾け飛んだ後、本来の体に意識が戻ったけど、まだ馴染めていないのか瞼一つ動かない。
まだ、目覚めるには時間がかかりそうね。
今のうちに自分の能力を理解しなきゃ。
『能力診断』の時、何故か一瞬で理解した能力がある。通常は一人につき一つだけど、多分、これは前世の魂の分だと思う。
なぜか、能力が二つ来た。
もしかしたら、あの箪笥に対して、おまけで付いてくるのかもしれない。
箪笥の持ち主の性質によって、能力が決まるのだろうか?
そもそも能力は、どんなものがあるのかしら?
まだ何となく、私と前世の記憶がごちゃついているから、一旦私のおさらいをしよう。
大人の思考の方が理解が深まる気がする。
この国はゴルドファルベン王国。
国はアレクサンディー山脈とシュタインザルツ海に接している。
標高が高めに位置する王宮の『式典用広場』のバルコニーからは、左右にその雄大な姿が見えるとお母様が教えてくれた。
そのうち見るだろうから、楽しみだ。
標高の高い山脈には、常に雪が積もり、雪解けの水が湧水となり、大きな川へ成長して国内を潤している。
豊富な鉱物資源と水に恵まれた豊かな国だ。
隣接する国は一国だけ。
ただ、山脈に隣接する国は連なって5国あり、婚姻や資源の供給に始まり、人材の派遣や教育を通じて、次世代交友を結んでいる。
長きに渡り良好な関係を維持しているみたい。
山脈に連なる国以外の他の国は、国土基本的に船での往来だが、まだ造船と海運の技術がさほど高くないのか、決して多くはない。
王国はアレク教の霊山があるお陰か、他国に比べ高い能力を授かる者が多い。
決して大きな国ではないが、他国を圧倒できるほど様々な分野において、能力が高い者が存在すると教本にも書かれていた。
そのため、技術指導や物資の運搬など、惜しみなく隣国との関係に利用している。
豊かだからこそできる余裕かもしれない
欲に目が眩み、力任せで自国だけに抱え込まない辺り、王族や官僚たちはかなり賢い様だ。
今のところ、国外・国内では取り立てて大きな争いはないが、国同士の小さな諍いや、国内では派閥争いなどはある。
稀に馬鹿な者が、王子に暗殺者を投げかけてくると、お父様が言っていた。
王族はフレンドリーなため、必要以上に謙った対応を好まないが、正式な場ではある程度のマナーが求められる。
貴族ならマナーは必須。
知らないのは家の恥である。
立場を利用した高圧的な対応は、基本的に能力不足な人がやることで、スマートではないと賢い人ほど感じている。
王族は、市民の努力を無碍にはしない。
国の思想は、市民が豊かで市政が安定していれば、さらに国は栄えると考えている。
高位貴族は、あくまで取りまとめに過ぎないと学問でも教えている。
おかげでとても暮らしやすい。
国の宗教としてはアレク教がある。
『能力診断』を行った神殿もそうだ。
正式にはアレクサンドル教で、三柱の女神を祀る。教祖はアレクサンドル大王だ。
初代王初めの頃、アレクサンディー山脈一帯の五つの国を収めていた。三つ子の王子とその後二人の王子が産まれた。
王子が成長した暁に、それぞれの能力に合わせ国として切り取り、無理のない統治をさせたのが国の始まりだった。
だから基本的に近い国同士、宗教も同じで、あまり揉めないのだろう。
アレク教の霊山はゴルドファブレンにある。
当時、癒しの能力が一番強い末の王子が、霊山の管理を任された。
国土は一番小さいが、資源も人材も豊かだ。
山の中腹には、王族しか入れない霊場もあり禁足地となっている。
そこには御神体として、神が宿る鉱石の塊が祀られているらしい。
今は国同士の関係も穏やかで、国内も安定しているから、神経質になったり、必要以上に心配しなくてよい気もするけれど…
——私の能力はちょっと便利すぎだわ
なるべく人には知られない方が良いだろうと、前世の自分は考えている。
他者は、高い能力を持つ者を利用すると。
私はそうとも限らないかな、と思っているけど、きっと前世では、その考えに至るだけの経験をしたんだろう。
実際、私の能力は利用したくなるだろう。
知らせるの相手は選ばなきゃいけない。
前世の能力は、ちょっと把握し難い能力なのよね…
私と前世の能力の違いは何だろう?
二人分あることは、伝えるべきか否か。
前世の自分の考えは基本秘密にするべきと考えているけど、私としては両親だけには伝えた方が良いと思っている。
この世界は、家の繁栄が生活に直結するし、派閥や足の引き合いがないわけではないから。
家族が平穏に暮らすためにも共有したい。
私は揉め事が嫌いだし、負の感情は疲れるので持ちたくない。
振り回されるなんて、まっぴらごめんよ。
自分の能力は平穏のために使いたいわ!