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私の能力は『以心伝心』全部丸聞こえですわ。【第1章100話完結済】  作者: 黒砂 無糖
第1章 始まりのお話

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前世の記憶

 娘の左手首に設置されている、魔道具の魔法陣が緑色になっている。


 指示されていた様に、魔法陣が黒くなるまで魔力を流していく。


「魔道具を設置してもうすぐ1年か……」


 娘が倒れてから、一向に目覚める気配はない。眠っているだけだと分かっているが、こぼれ落ちていく時間にジリジリとする。


「前回、回診に来た医官も流石に長過ぎると、もう一度調べてみると言っていたが……」


 取り立てて新しい変化は何もなかった。


「……医官は、古い文献も調べ直すと言っていたが、多分難しいだろうな」


 何も出来ない不甲斐なさに苛立ちが募る。


 妻の心が疲弊しているし、時間が経つにつれて兄弟姉妹達も心配が募り、心から笑う事が出来なくなっている。


「避けることなど、出来なかったと分かってはいるが……私が付き添っていながら、こんな事になってしまうなんてな……」


 ——あの日から自分を責めない時などない。


「誰も責めない事が、却って辛いな……」


 やりきれない想いにグッと拳を握り締め、掌に爪が食い込む痛みを感じる。



 チリリンリリン



「鈴の音?」


 何処からか鈴の音が聞こえた。辺りを見渡すが、部屋に鈴などない。


「空耳か……」


 ふと、娘に目をやると、魔法陣がスゥっと黄色く変化していった。




 ***




 長い時間、整理整頓をしていて思った。


「要らない記憶など捨てちゃえば良いのに」


 しかし、捨て方はわからない。


「汚れていたり、ビビが入って割れたりしている記憶の書籍は棚には入らないのね……」


 あちこちに散らばり、まだ置いたままだ。


 何とか出来ないかなと考えていたら、手元にリペアキットとお掃除クロスが出て来た。


「修理しろと言う事かしら?」


 どこでやろうかとキョロキョロしていたら、目の前に作業机が現れた。


 ——頭の中って便利ね?


 足元に散らばっていた記憶を手に取ると、それは流れ込んできた。



 ***



 私の前世の名前は、美茶(ミサ)美しい茶でミサ


 本当は美しい奈で美奈(ミナ)の予定だった。


 母が決めていた名前を、父親が茶と奈を見間違えたまま役所へ。何の疑問も持たず見たまま記入して出したらしい。


 母親は文句を言っている。酷い当て字でも無いし本人は気に入っていたみたい。


 ——美しい茶ってなによ


 渾名はミチャかチャチャだし、呼ばれると猫みたいよ?


 そのせいなのか、お茶好きに育った。何なら最終的に自分でカフェを始めてるし……


 幼少期は貧乏だった。考えなしの癖に行動力だけ無駄にある父が悪かったようだ。


 ——嫌だ、最悪な親じゃないの。


 思い付きで事業を起こしたり、口約束で金貸したり、保証人になって借金背負ったりと、まあ、金の管理が全く出来ない。


 母親は文句言うだけで、全く止めない。


 ——ちょっと、文句言うなら止めなさいよ


「あら、やだわ」って見なかったふりしても、物事は解決しないと思うわ。


 ——親の尻拭いでお金の大切さを学んだのね


 私も人に騙されたみたいだけど、問題解決能力が見事に上がったわね……


『騙すより騙される方が良い』と考えて、心の中でなんとか浄化していたわ。


『チクショウ!経験をありがとう』


 とか、馬鹿じゃないの?



 ***



 手元を見ると、記憶の汚れは綺麗になっていた。汚れはちょっとした不満だったのかな?


(ミサもミチャ可愛いけど、確かに間違いでつけられる事はもやっとするかもね)


 ま、親2人に対する責任感の無さに苛立っていたんだろうな。


(美茶は前向きに対処して、経験を自分の糧にしていたんだね)


『チクショウ!経験をありがとう』には、思わずクスッと笑った。


 「美茶お疲れ様。頑張ってたね」


 そう言って優しく本を磨くと、パァっと輝いて自ら箪笥に戻っていった。

 

 ——きっと色々な思いがあったんだろうな


 特に突っ込みたかったり、辛かった記憶の書籍が今ここにあるんだろう。


「修繕にどれくらいの時間かかるかな?」


 数はさほど多くはない。


「パッと見、どうやって直せば良いのか分からないほど、グチャグチャな物もあるわね」


 ……慌てずゆっくり直すしかないか。


 とりあえず次の書籍に、手を伸ばしたら、指先が少しずつ、光の粒になって崩壊していった。


 光の粒はシャボン玉みたいに、膨らんでは弾け、空間に広がっては弾けてを繰り返し、どんどん消えていく。


 ——目覚めるのかしら?


 でも、この壊れた書籍はどうなるの?


 気にはなったが、残っているのは頭だけなのでどうにもならない。


 ——きっと必要な時にまた修理出来るわ


 まぁ何とかなるかと私は意識を手放した時



 ……ト、ティーフロート!!



 私の名前を呼ばれたような気がした。



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