贈り物と後の約束
アルゼの工房は、彼女が言っていた通りに、かなり狭かった。
「散らかっていてごめんなさい」
作業机には様々な素材が並び、机の手元にあたる中央だけ、ポッカリと空間が開いている。
「工房なんて、そんな物でしょう?」
部屋の棚のあちこちに、作業中なのか、分解されたような魔道具が並べられている。
「実際、何を贈っていいのか迷っていましたから、正直なところ、シュピネル様にご相談が出来て助かりました」
アルゼは棚から、平たい箱を取り出した。
「この魔導こては、今王宮で流行っているので女性にはいいかとも思ったですが、ソフィア様は髪が短いことに思い至りまして……」
アルゼは、コードレスタイプのコテを手にしている。
「それに、普段使いの物は、お仕事柄こだわりがあるかもと思ったら、何を選べば良いのか、迷ってしまいました」
確かに、侍女であるソフィアへの贈り物はかなり難しいかもしれない。
「通信の魔導具はどうかしら?確か持っていなかったわ」
あれは、あると便利だわ。
「あ、それは盲点でした。お仕事の邪魔にならないように、ネックレスにしましょうか」
アルゼは、また別の箱をとり出してきた。
「どのデザインがお好みだと思いますか?」
様々なペンダントトップがある。
その中に、綺麗な深紅の石が台座にはめ込まれたシンプルなつくりの物があった。
「ソフィアなら、これを選ぶでしょうね……」
——私の瞳の色だから。
「いいですね。シュピネル様のお色味ですね」
アルゼは気付き微笑んだ。
「今、魔法陣を刻みます。シュピネル様には学園が始まったので、魔導メモを差し上げようかと思っていましたが……他の物が良いですか?」
魔導メモ?!嬉しい!
「魔導メモって、幾らでも記入出来る便利なやつですか?だとしたらかなり助かりますわ」
カテゴリー分類まで出来る優れ物だ。
「良かった、私が表紙のデザインをさせて頂きました。シュピネル様に気に入って頂けると良いのですが……」
アルゼは箱から、B5サイズのタブレットのような物を取り出した。
ケースはごく淡いラベンダー色で、片隅にライラックの花が可愛らしく描かれていた。
「まぁ、可愛い!でも、なぜ私がライラックが好きなことを知っていたの?」
魔眼でそこまで見抜けるのかしら?
「以前、グランディエラ様が、シュピネル様への贈り物の際、ライラックのドレスが良く似合っていたと言っていたので、それで」
そんな事まで覚えているのね……
それよりも、同郷だしもっと砕けて良いのにアルゼったら……
「アルゼ、さっきから、シュピネル様と呼ぶけど、ティトでいいわよ?同郷でしょ?」
めちゃくちゃ固いわよ?
「私とは、お立場が違いすぎて恐れ多いです」
アルゼは恐縮して断ってくる。
確かにこちらの世界なら当然だけど……
「立場ね?じゃあ命令。ティトと呼びなさい」
これならどうかしら?
「……ティト様で。これ以上は譲りません」
うーん、せっかくなら仲良くなりたいのに。
「まあ、おいおいでいいわ。アズ兄様が選んでくれた空間魔法のポーチも素敵だったわ。あの時にライラックのことを知ったのね?」
アズ兄様も、一瞬だったのに覚えていたのね
「で? 本題だけど……アルゼも魂が日本人の転生者だって事?」
魔眼があったとしても、よく分かったわね?
「その件につきましては、後日、ゆっくりお時間頂けませんか?このような場では、誰かに聞かれてもおかしくないので」
アルゼは話しながら魔法陣の準備をする。
「ティト様の能力も……あまり多用しない方が良いでしょう?」
確かに、ここでする話ではないわね。
「急な出会いに、つい声を掛けてしまいましたけど、早くお話はしたいのですが、ここで話は出来ないので……そのためにご相談です」
うーん、どうしようかしら?
「私は子供だから、度々外出は難しいのよね。後で屋敷を訪れて下さらない?商会で仲良くなって、尋ねてもらった事にするわ」
ソフィアには私から念話を飛ばせばいい。
——それなら大丈夫かしら?
「少し込み入った話をしたいのですが、ご自宅でも大丈夫でしょうか?」
アルゼは真剣に尋ねてきた。
「私の部屋で話しましょう。ソフィアは何とでもなります」
内容によっては、アズ兄様とヘルグ兄様には伝えよう。
「畏まりました。では、お礼の品もその時に持って行きますね」
——それは都合が良いわ。
「じゃあ、ソフィアに渡したい物があるし、私に相談したい事があるから、お招きした事にしましょうか」
大人が子供に相談だもの何があるかしら?
「私がアルゼの話を聞くために、部屋で2人で話すならおかしくないわよね? 何か相談するのにそれらしい悩みある?」
アルゼは手を止めて、少し目を伏せた後、
「私の……アウスヴェーク家での立場などいかがでしょう?」
——アウスヴェーク家?
この商会の総支配人よね?
「ヴィント王国のアウスヴェーク家よね?そういえば、アルゼはさっき家名を名乗っていたわね……まあ、詳しくは後から聞くわ」
ヴィント国の高位貴族だわ。
——アルゼ、名家のお嬢様じゃない。
アルゼは貴族令嬢らしくないけど、悩みに関係しているのかしら?
「ありがとうございました。詳しい話はまた夜に致しましょう。では、シュピネル様、そろそろ商談室に戻りましょうか」
アルゼが立ち上がると、退室を促した。
——この後、色々聞かれるよなぁ
私は、どう言い訳をしようかと考えながら、アルゼについて2人がいる部屋に戻った。




