記憶情報
見つけてくれてありがとうございます。
更新は不定期になります。出来る時に頑張ります
『能力診断』の儀式の最中にそれは起こった。
それは映像だけでなく、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感すべてを使って感じている。
「感じる」なんて生優しい物ではない。
絶えず感覚を殴りつけられているようだ。直接的に痛みがあるわけではないけど。
今、思考回路以外、肉体の自由は効かない。
かろうじて自由が許されている自分の頭の中で、ボクサーにボコボコにされるのはこんな感じかなぁ等と呑気に考えていた。
ふと、違和感に気づく。
(ボクサーって何…あれ?なんで知ってるの)
知らない筈の事を何故か知っていた。
情報量で押しつぶされそうになったが、ようやく情報のインストールは終わった。
でも、膨大な記憶の整理には時間がかかるようで、今、私の頭の中は引っ越し後のようだ。
ワンルームの部屋に、4LDKの荷物を入れるようなものだからかなり無理がある。
あるべき位置に情報が収まるには、だいぶ時間がかかるだろう。
(多分気絶してるだろうな。お父様、大丈夫かしら?)
***
神殿にて医官に診てもらったが、特におかしな所はないと。いずれ気づくと言われ、一旦連れて帰ったが一向に目覚める気配がない。
さすがに心配になり、上級医官に屋敷まで出向いてもらった。
娘は自室のベッドの上で、穏やかにすやすや眠っている。
医官のいる枕元の反対には、妻が娘の手を握り、黙ってずっと娘の腕をさすっている。
「肉体的には異常は見られません。ただ眠っているように見えますが、どうも深い眠りのようなので、能力に関係があるのかもしれません。このままでは食事も取れないので、一旦肉体の衰弱を阻止するために、時を止める魔法陣を起動させますね」
娘のベッドの脇で、医官が作業をしながら説明をした。
「能力に関係が?このような事はよく起こり得るのでしょうか…本当に娘は大丈夫ですか?」
妻は不安からか、いつもより早口になる。
時を止める必要がある事を受け入れられないのか、少し責めるような口調になっている。
私の方は、膝から崩れ落ち、軽く痙攣していた娘の姿が脳裏に焼き付いて離れない。
ぐっと眉間に力が入る。
「稀にあります。肉体的に未熟だったり、記憶や五感に携わる能力の場合に力が収まりきらないと起こります。
元々敏感な子供もショックで気を失うことはあります。基本的にすぐに目覚めるのですが…
ご令嬢はかなり深く眠っているので、もしかしたら器に対して力が大き過ぎたのかもしれませんね。時間を止めてあります。慌てずゆっくり待ちましょう」
わざわざ時間を止めるという事は、かなり長く眠ることになるのだろう。
妻は長時間眠ることになる娘を思い、手を両手で握り締め、自分の額に当てて祈るような姿勢をしている。言葉も出ないようだ。
——私がしっかりしなければ
「分かりました。見守る際、何か気にすべき事はありますか?」
娘に何かしてあげる事は出来るだろうか。
「時が止まっている間は何もしなくても大丈夫です。魔法陣の色が緑になったら、陣が黒くなるまで魔力を足してください。薄い黄色になってきたら二、三日で目覚めるでしょう」
医官は荷物を整理して、週に一度様子を見に来ると言うと、私と妻を残し、使用人に連れられ部屋を後にした。
***
私の目の前には、色とりどりの記憶がひらりひらりと移動している。
頭の中の整理整頓は、まだまだ時間がかかりそうで、私の目の前を雑多な記憶が飛び交い仕舞われていく。
目の前に記憶の箪笥のような物が二つある。
片方は見た事もないのに、私のものだと認識しているけど、もう一つの箪笥は私のに比べて随分大きくて、なんだか傷だらけだ。
(中、見てもよいのかな?私の中にあるんだし、これも私の物だよね?)
そっと引き出しを引くと、ある女性の記憶だった。手に取るとすっと自分とリンクするのが分かった。
——これ、前世の私の最期の記憶だわ
認めたら、箪笥から音が聞こえた気がした。
チリリン、リリン。
その瞬間、私と前の自分の意識がカチリと噛み合った。
前世の自分は魔法のない世界で、随分と苦労して生きていたようだ。私のことなのだろうが既に自分ではないので客観的に見られる。
前世の当人は気にせず当たり前に過ごしているけれど、私を通して見ると、よくもまあ色々な事があったなと、随分頑張ったなと感じる。
しかしながら何故、このような記憶が宿ったのだろうか?能力に関係しているのだろうか?
本人はやり残した事もなさそうだし、むしろすっきりしている。
なのに何で記憶がこちらにわざわざ来たのだろう?世界も常識も違うから、余計な情報は混乱を生みそうなのに。
ただ、私の能力を考えると、七歳の思考回路では少々厄介事になりそうではある。
大人の自分の思考を手に入れる事が出来たのはラッキーだと思う。
人によっては私の能力は脅威だろうし、あまり気持ちの良い物ではない。
子供のままだとかなり傷だらけになるだろう。
もしかしたら、私を守るために自分の記憶が宿ったのかもしれないな。
ところで一体どのくらいの時間が経っているのだろう?
いつまでこのままなんだろうか?
次回、ティトに出会い?
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