喧嘩するほど仲がいい?
リリお姉様は、馬車の中でそわそわもじもじしながら、あれこれ考えている。
——リリお姉様、素直になればいいのに
お姉様は王子への気持ちが、本人へ伝わってしまう事を、何とか回避したいようだ。
「そんな……困るわ?ティト、何で彼達にわかってしまうと思うの?」
お姉様は半泣きになりながら、必死に私を頼ってくる。とても可愛らしい姿だわ。
——いつか王子に自慢してみようかしら?
「そもそも、喧嘩は王子に対してだけなのでしょう?それって、既に特別ですと言っているようなものではなくて?」
嫌なら、わざわざ近寄らないかと思うのです。
「……でも、嫌いなのかもと、思わないの?」
リリお姉様、甘いです。激甘ですわ!
「そもそも本当に嫌いなら、リリお姉様は近寄ったり致しませんよね?」
リリお姉様は、真っ直ぐなお姫様だもの
「今までならば、王子と顔を合わせる回数が少なかったから、周りを誤魔化せたかもしれませんがこれからは、毎日お会いするでしょう?」
このままでは、毎日喧嘩になりますよ?
リリお姉様は、よくわかっていないのか「それが何か関係あるの?」と首を傾げている。
「リリお姉様、ちょっと考えてみて下さらないかしら?」
リリお姉様は、小さく頷いた。
「たまに喧嘩していた人が、毎日、会う度に喧嘩しているのを見かけたら、お姉様はどう思われますか?」
リリお姉様、周りの気持ちをお考え下さい!
「……確かに。何かしら、とは思うわね」
リリお姉様は、本当に素直な人だな……
「そう思われますよね?いつも文句ばかり言うのに、わざわざ共に食事したり、側にいたりしたら……その方を、どのように感じます?」
——自分で答えにたどり着いてください。
「……喧嘩するなら、わざわざ行かなければいいですわね?」
リリお姉様、それが分かっているのに……
「そうですよね?なぜその方は、文句言いながらも、相手の側にいるんだろう?と、周りは考えるかと私は思うのですが……」
リリお姉様にその考えがなかったのか、目をぱちぱちと瞬かせている。
「見ていた周りの皆さんの、考えの行き着く先は……どのようになると思われますか?」
さあ、気付くかしら?
「いやだわ!ティト、どうしましょう」
リリお姉様、気付いたようてすね?
気付くや否や、リリは真っ赤になってジタバタし始めた。
「自然にお過ごしになれば良いのです。皆と同じように仲良く。喧嘩をするから目立ってしまうのですわ。簡単な事ではないでしょうか?」
誰彼構わず噛み付いてなんかないですよね?
「今更無理だわ……だってユングとは、ずっと昔からやり合っていたし」
リリお姉様、呼び捨てが出てますわ。
「リリお姉様は、昔はユングとお呼びになっていたのですね?なぜ今は王子と?」
名前を呼んだら、王子喜ぶでしょうに
「学園に入って、周りにユングの婚約者候補の一人と言われて……沢山の候補者の一人なら、ちゃんとしないとって思ったのよ」
あ、自分に厳しくなって、ついでに相手にも厳しくなってしまったのですね?
「その……失礼かもしれませんが、それで王子に上から目線で絡んでいるのですか?」
リリお姉様は、驚愕の表情をした。
「私……上から目線……でしたの?」
さぁっと赤い顔から青い顔へと変化した。
「ハッキリ言わせて頂くのと、優しくお伝えするならどちらがよろしいですか?」
一旦、釘刺した方が早そうね?
「出来れば優しく……いえ、ハッキリ言って下さいませ!」
リリお姉様は、ギュッと目を瞑っている。
「今日のリリお姉様、まるで、クドクドと長いお説教をするお母様か、もしくは躾に厳しい、家庭教師のようでした」
本当、王子よく付き合っていますわね。
「……ティト、どうしましょう」
リリお姉様の魂は、もう限界の様ね?
——可哀想になるくらいヨレヨレだわ。
少し元気になって頂かないと困りますわ。
「リリお姉様、考えて見て下さいませ?先程お伝えさせて頂いたように、王子もリリお姉様のお説教が嫌なのでしたら、無視できますわ」
リリお姉様は、フルフルと震えながら私の話に耳を傾けている。
「彼は王子です。本当に嫌なら、ヘルグ兄様もアズ兄様も、リリお姉様を近寄らせない事くらい本来なら簡単なのではないでしょうか?」
気付くかしら?
「確かに、ユングが望めば2人は私を彼に絶対に近付けないわ。以前、無理にユングに近付こうとした令嬢が排除されるのを見たわ……」
実際に起こったのですね?
あの2人は身内には優しいけど、敵には容赦なさそうですわ。
「その様な事が……でも、リリお姉様はあんなにも怒鳴りつけていらっしゃるのに、あの二人から、排除されることはありませんわ」
ま、一旦はこのくらいかな?
「私、許されていたのね。ありがとうティト、帰宅したら色々考え直してみるわ。明日から、ユングに対するお説教は控えてみるわね?」
リリお姉様は、優しい笑顔に戻った。
普通に過ごしていたら、誰でもリリお姉様を好きになると思うのですが……
「そうだティト、私には遠慮しなくても良くってよ。私達はお友達でしょう?丁寧なのも素敵だけど寂しいわ。だからお願い」
ね?って首を傾げて気安い態度を許してくれるリリお姉様は……
——ハッキリ言って天使でした。
「わかりましたわ。今後、少し楽にお話をさせて頂きますね」
とはいえ、他国のお姫様なんだから、限度があるかと思いますよ?
「リリお姉様、アドバイスになるかはわかりませんが……たまに素直な時もあった方が、グッと来るらしいですよ?」
——シュト兄様が言っていたよ?
「グッと?」
「グッと」
2人で握り拳を作りギュッと握る頃、馬車はシュピネル邸にたどり着いた。




