痴話喧嘩と秘密の約束
ユング王子が、兄宣言なんてしたから……
「ユング王子、一体どういう事ですの?」
リリお姉様の、スイッチが入ってしまった。
ユング王子はリリお姉様に、王子は立場がどうのこうのと、ギャンギャン怒られている。
「ティト、こっちで食べよう」
アズ兄様が、そっとリリお姉様の隣から連れ出してくれた。
「あーなると、かなり時間が掛かるから、先に3人で食事をしよう」
アズ兄様に連れてこられたのは、サロンの奥にあるソファーのスペースだった。
「準備出来てるよ」
ヘルグ兄様はすでに察していたのか、3人分の食事の準備を終えていた。
「いつもあんな感じなんですか?」
流れるように連携した2人を見て、私は思わず尋ねてみた。
「まあ、そうだな」
「だいたいそうだよ」
いつもらしい。
「お二人をさし置いて、先に食事を済ませても良いのでしょうか?」
仮にも第一王子だ。
「腐っても王子だが、待っていては我々が干からびるぞ?いつもの事だから気にするな」
アズ兄様は、さっさと席についた。
——さすがに、腐っちゃダメですよ?
「そうそう、アズールの言う通りだよ。それが嫌なら、言い争いを切り上げればいいからな」
ヘルグ兄様は、お茶まで準備してくれた。
2人とも状況に慣れているのか、とてもあっさりしているわ。
「いただきます」
食事を開始しようとしたら、アズールが徐ろに魔力ペンを取り出し、ペンの頭をカチリと鳴らした。
いつの間にか、アズ兄様のペンの頭が、引っ込むボールペンみたいになっている。
「アズ兄様、魔力ペン改造されたのですか?」
私のとは違っていますわ。
「ああ、これ、スイッチで切り替え出来る空間防音を付与したんだ。小さくて見にくいけど、範囲も半径1〜3まで選べるんだ」
よく見たらスイッチの下に、範囲指定ボタンも付いていた。
「凄いな?ただのペンにしか見えない」
ヘルグ兄様も驚いている。
「3人でいる時に念話を使わずに済むならそれでいいけど、聞こえない中で、話が通じたのがバレた時、言い訳にいいかな思って作った」
——この人、なんて賢いのかしら?
「確かに内緒話にもってこいだ。念話で話していて、万が一疑われてもこのせいに出来るな」
ヘルグ兄様も感心している。
「今日、時間はあるか?帰りにあの2人には内緒で改造しに行かないか?先に作ったのは、現物見た方がいいかと思ったんだ」
アズ兄様は頭が回るというか、悪知恵が働く
——手回しが早いな
「賛成ですけど、あの2人を振り切るのは難しくないですか?」
絶対ついてくるよね?
「いや、今日はユングは王太子教育の日だから大丈夫。リリ嬢は家の迎えがあるはず」
アズ兄様が言うなら、大丈夫かな?
「いや、多分ティトは、リリ嬢の馬車で送ると言われるから一旦帰宅して。リリ嬢の馬車が帰った後、直ぐ迎えに行くから」
ヘルグ兄様の『野生の勘』が発動した。
「俺の屋敷もヘルグの屋敷も、ティトの屋敷を越えた場所にあるから、我々の馬車が通り過ぎてもおかしくないしな」
さすがだわ。バッチリな計画ね。
「いいね、行こう」
「賛成!楽しみですわ」
「一旦、防音切るね」
アズールがこちらにウインクした後、防音を解除した。
(ティト)
アズ兄様だ。
(アズ兄様、どうしましたか?)
(ヘルグも繋いでくれる?)
(わかりました、ヘルグ兄様聞こえますか?)
(ん、大丈夫だよ。どうした?)
(アズ兄様が繋げって)
(とりあえず念話で話しながら、食事を進めよう実際に喋ると、食事が進まないから)
(確かに、先に食べる意味がなくなるな)
(特に私は令嬢なので、先程から食事は全く進んでいませんでしたわ)
(だろ?だからこっちにしたんだ。折角だから、ヘルグとティトと話しながら食べたい)
(確かにそうだな、ティト、クラスはどうだ?)
(アズ兄様ありがとう。ヘルグ兄様、クラスの令嬢2人が、私を慕ってくれていました)
(慕う?誰か聞いてもいいか?)
(アズ兄様? ピュリート家のダーリエ様とカルツィート家のロベニア様ですわ)
(ああ、その2人なら問題ない。良かったな)
(ふふふ、アズ兄様何か本当のお兄様みたい)
(そうか?まあ、今はまだそれでいいよ)
(え、まだって?)
(おーい、アズール俺がいるの忘れるなよ?)
(あ、忘れてた)
(……アズ兄様、恥ずかしいです!)
念話をブチ切ったら、2人ともクスクス笑っている。
——絶対揶揄われてるわ!悔しい
「おい‥…お前達だけで何で先に食べてる」
不機嫌な王子が来た。
「ユングがリリ嬢とイチャイチャしていたから、邪魔しちゃ悪いかと思って」
アズ兄様がしれっと嘘をつく。
「え、イチャイチャ……そう見えたのか?」
王子が嬉しそうに、軽く頬を染めた。
「誰が‥…こんなポンコツ王子とイチャイチャしていたと?で、王子なら兎も角、私を置いて何でティトと先に食べるのよ?」
更に不機嫌なリリお姉様がやって来た。
(ティト、頼む助けて。リリをなんとかして)
アズ兄様だ……
もう!さっきから、アズ兄様ズルくない?




