兄と姉と妹
午前授業の終わりを報せる鐘が鳴った。
教材を片付けていると、急に廊下が騒がしくなり、女生徒達の黄色い声が聞こえてきた。
——どうやら迎えが来たゆたいね。
「ティト、迎えに来たぞ。昼食に行こう!」
バーンと扉を開け、声を張って迎えの声をかけてきたのはユング王子だった。
私は慌てて席を立ち、ダリエとロアに声を掛けて、呼んでいる王子の元に向かう。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
王子の元に急ぎ近付けば、当然アズ兄様と
ヘルグ兄様もいる。
「ティト、大丈夫だよ。ユングがせっかちで、さっさと教室を出てしまっただけだ」
アズ兄様、やれやれ感が筒抜けだわ。
「何だと?アズール、その言い分は王子に対して、随分と失礼ではないか?」
王子が、アズ兄様にプンスカ怒っている。
「ユング王子、貴方が第一王子としての風格を持ち、言動と行動に慎みを持てば、アズールは失礼な事など一切言わないと思いますよ?」
ヘルグ兄様は、王子の味方に付くつもりは全くないみたいだ。
3人は仲良く言い争っている。
「仲良しですね?」
私は首を傾げて、アズ兄様を見て尋ねた。
「仲良しですかね?」
アズ兄様は私を見て、優しくニコっとする。
「仲良しだといいですね?」
ヘルグ兄様は、ため息を吐きながら王子に声をかける。
「仲良しだろう?!」
王子はアズ兄様と、ヘルグ兄様を交互に見て焦り慌てている。
やり合っている姿が、なんだか可愛くてちょっと笑ってしまった。
「まぁいい、食堂だと人目があるから、いつも俺達の使っているサロンに行くが、ティトはそれでもいいか?」
アズ兄様が私の意見を聞いてくれた。
「……食事の時くらいは、人目が少ない方がありがたいです」
今も、実際には物凄く見られている。
「こっちだ、行こう」
人目から庇う様に、アズ兄様に背を押されながらサロンへ向かうと……
「やっと来ましたのね?」
リリお姉様が、サロンの入り口に、仁王立ちになって待ち構えていた。
「リリがサロンに出向くなんて珍しいな?普段は呼んでも来ないのに」
王子は驚き、リリお姉様に声を掛けた。
「何ですか。私がいたらご迷惑とでも?そもそも、男3人で1人の少女を、こぞって密室に連れ込むなんて双方に外聞が悪すぎます」
——確かに……迂闊だったかしら?
「側近として、考えが足りなすぎではないですか?そもそも、王子の頭の中身はピーマンななにかですか?」
でも、リリお姉様……痛烈すぎませんか?
「……ピーマン??!空っぽって事か?!」
王子は、カッとしてリリお姉様に言い返す。
「流石に王子に向かって、空っぽとは申し上げません。ピーマンだって種くらいはあります。
……ほとんどスッカスカですが」
リリお姉様、そのツッコミはかなり厳しいと思うのです。
「お三方に忠告ですわ。ただでさえ朝から目立っているのに、学園に慣れるまでの彼女の立場を少しはお考え下さいませ!」
——うぅ、リリお姉様ありがとうございます
「ティトに余計な心労を与えない様、くれぐれもご注意下さいませ。よって、今後ティトが居るなら、私も必ずサロンにお邪魔致します」
リリお姉様は、一気にまくし立てると、私をアズ兄様から奪い取り、ポカンとした王子達を無視して、さっさとサロンへ入って行った。
「リリお姉様、ありがたくはあるのですが、あのような物言いをして大丈夫なのですか?」
ソファーに座り、くつろぎ始めたリリお姉様に尋ねると
「……本来なら駄目よ?」
リリお姉様は、口元に両手の指をクロスしてばつ印を作った。
「リリは俺達と同じで、ユングとは幼馴染なんだ。だから小さな頃から言いたい放題だよ」
後から部屋に入ってきたアズ兄様が、隣に座って話しかけてきた。
「アズ兄……アズール様も、リリお姉様とは、小さな頃からの幼馴染なんですか?」
——しまった。
リリお姉様と呼ぶから釣られてしまったわ。
「あら、アズ兄って、貴方もティトに兄呼びされているの?まさか、そういうご趣味?」
キラリと目を光らせ、興味津々にアズ兄様に食い付いた。
「……どんな趣味だよ?ティトは、ヘルグの妹分で、ヘルグ兄様呼びされていて、仲良くなった流れで、俺も兄呼びになっただけだよな?」
アズ兄様は、私に聞いてきたけど……
アズールお兄様呼びしようとしたら、何かに目覚めそうになって反対しましたよね?
……とは言えなかった。
「アズール様は、そういう趣味ではございませんよ?兄様呼びをしているのは、説明して頂いた通りですわ」
——マズイわ
王子が余計なこと言わなきゃいいけど……
「公の場では呼ばない様にしていたのですが、リリお姉様と呼ぶのに釣られてしまいました」
恥ずかしいです。と、頬を染めつつ伝えると
「あら?ティトは私の妹でしょ?で、アズールとヘルグラウはティトのお兄様って事は……」
まさか、王子の兄様呼びの事もバレたかな?
「それなら、アズールとヘルグラウも私の兄になるのかしら?」
リリお姉様は、物凄く真剣な顔で言った。
——何でそうなるの?!
「それは違うだろ?」
とアズ兄様。
「流石にそれは違うよね?」
とヘルグ兄様。
「そうなのか?じゃあ、僕もティトの兄様だから、ティトの姉のリリは、僕の妹だね?」
話を聞いた王子が、ニコニコしながら話に乗っかった。
ほらぁ、リリお姉様が余計な事言うから、
王子が、自ら兄宣言しちゃったじゃない!




