貫通と自滅
リリお姉様に、詰め寄られているアズ兄様をチラッと見たら、目だけで「ごめん」と言っているように見えた。
——本当狡い。貸し1にしてやる。
まあ、巻き込まれて可哀想だし、仕方ないから助けて差し上げるわ。
「リリお姉様ごめんなさい。私が食べるのが遅い事、アズ兄様とヘルグ兄様は知っていて」
実際、私は食べるのがかなり遅い。
「待ってたら、私が食べられなくなってしまうから、2人が心配して先に食べるようにって」
2人が喧嘩しなきゃ、良かったのですが……
「でも私‥…1人は嫌だったから、兄様達にお願いしたんです。ごめんなさい」
嘘と本当を混ぜながら、私は涙目になってリリお姉様に伝えた。
「やだ、ごめんなさい!ティトを責めてるんじゃないのよ。そうよね、間に合わないしひとりで食べるのは寂しかったわよね?」
リリお姉様は慌てふためき、私を抱きしめて頭を撫でてきた。
「食事前に、揉めて悪かったわね。泣かないでティト、ごめんね?貴方達も、絡んでごめんなさい。私ったら嫌だわ」
ちゃんと謝るリリお姉様は、やっぱりいい人だと思う。
「早く一緒に食べましょう?」
私が小首を傾げ、リリお姉様に食事を促す時には、ヘルグ兄様が王子とリリお姉様の食事の準備を終えていた。
ヘルグ兄様ったら、いつの間に食べ終わったのかしら?
「準備してくださったのですね?ヘルグラウありがとうございます」
リリお姉様は丁寧にお礼を伝え、綺麗な食べ方で食事を進めた。
王子は、不貞腐れたまま黙って食べている。
「ご馳走様でした」
——アズ兄様も食べ終わったみたいね。
王子も、リリお姉様も、綺麗で流れる様な所作で、しかも素早く食べている。
アズ兄様とヘルグ兄様が慣れているのは、本当だったんだ……
待っていたら私は何も食べられなかったわ。
「ご馳走様でした」
私もかなり急ぎ、頑張って食べだけど、2人が食べ始める頃、私は半分以上は食べていたはずなのに、王子が先に食べ終えた。
それからすぐにリリお姉様も食べ終わった。
「お二人とも、食べるのがお早いのですね?」
私もようやく食べ終わり、二人の食べる速さに驚いていたら、
「僕もリリも、立場的に会食の時以外は時間に追われるから、早く食べる癖がついてるんだ」
仕事が忙しい人が早食なのと一緒ですわね?
「あら、私に負けたくなくて、早く食べられるようになったのではなくて? 初めて私より早く食べた時、貴方に自慢されましたわ」
ツンとしながら、リリお姉様は食後のお茶を飲んでいる。
「な!それをティトの前で今言うか? カッコ悪いではないか!」
王子が赤い顔をしながら、リリお姉様に文句を言った。
「カッコ良かった事など、一時でもあったのかしら?もしあるのならば、是非、私も見てみたいですわ?」
リリお姉様は、優雅にお茶を飲みながら、器用に王子を煽っている。
「あるだろう!?一時くらいは無いのか?」
王子は懇願するような気持ちなんだろう。
リリお姉様に「無いのか?本当に無いのか?」と詰め寄っている。
見ているこっちですら煩わしいので当然‥…
「煩いですわね……その態度のどこに格好良さがあるのです?」
リリお姉様は冷めた視線を向けた。
「王子の知っている『格好いい』という言葉の意味と、私の知っている『格好いい』という言葉は意味は、随分と違うようですね?」
大きなため息と共に、リリお姉様の目付きが変わった。
カラーン カラーン カラーン
第二ラウンドのゴングが鳴ったようだ。
「ティト、そろそろ行こう。休憩終わりのベルが鳴ったよ」
——ゴングでは無かったわ。
アズ兄様に耳打ちされたので、先程と同様そっとその場を離れ、サロンを後にした。
「本当にあの2人、隙あらば言い争いが始まるのですね?びっくりしました」
よくもまあ、あれだけやりあえるよね?
「基本的には1日一回だな。出会ったらやり合ってる。本来なら学年違うし、あまりお互い会う機会がないからね?」
——出会い頭とか、まるで事故ね。
「私がいる事で、回数が増えませんか?」
ちょっと責任を感じてしまうわ。
「増えるけど……王子はあれで楽しんでるしな?別にいいんじゃ無いか?」
ヘルグ兄様は「なぁ?」とアズ兄様に同意を求めた。
「本人は楽しんでるけど、周りから見える物は違うから、俺達が気をつけなければ、ちょっと誤解が生まれるかな?」
アズ兄様がこちらを見て、笑いながら言う。
「ティトは、どんな誤解だと思う?」
ヘルグ兄様も笑いながら私に聞いてきた。
予測はついているのね……
「他国の王女との不仲説ですか‥」
——マズイわよね?
「ま、それもあるけど、現状リリ嬢は王子の婚約者候補の1人なんだよね」
——あ、やっぱりそうなんだ
「今朝からのユングの行動で『ティトと王子の熱愛』か、リリ含めた三角関係辺りが噂になるかもな」
——『王子と熱愛』? それは困るわ!
「しかも、王子に暴言吐きまくるリリが、目立ち過ぎると『ティトと王子の愛』を邪魔する悪役にされかねない」
そんな!地獄絵図だわ……
「やだ、兄様達が助けて下さい。ちょっと、笑い事じゃないですわ!」
2人とも笑っているけど、そんな噂は洒落にならない。
「大丈夫だよ、俺に考えがある。ティトと王子の噂だなんて、そんな事にはさせないよ?」
アズ兄様が、優しく頭を撫でてきた。
「頼っていいですか?」
泣きそうになり、アズ兄様を見上げると、
(くっ、この顔はかなりグッとくるな……)
(……アズ兄様聞こえてます。この距離で何考えてるんですか?)
「あっ!」
アズ兄様が一気に赤い顔になった。
「……あ、自滅したな?」
ヘルグ兄様が「まだまだ甘いな」と、アズ兄様をポンポン叩いている。
「ティト……済まん」
アズ兄様は真剣に私に謝るけど、私はシュト兄が『シスコン』だから言われ慣れてるわ。
「アズ兄様、大丈夫ですよ?シュト兄が、兄という者は、小さな妹が見上げる視線が可愛くて滾るものだとよく言っていました」
背が低いから、仕方がないのよね。
「兄も頻繁に貫通して叫んでいるので、慣れているので構いませんわ?」
私は納得していたのだけれど……
アズ兄様とヘルグ兄様が、なぜだか2人揃って天を仰いでいたわ?




