本物のお姫様
いつもの三人に加えて、王子も乗っていた馬車は、学園の正面入り口に横付けした。
「到着したようですわ……」
下位貴族は、入り口を避けた場所で降りるので、正面入り口に止まるだけで、高位貴族である事が判明する。
馬車には、グランディエラ家の紋章が刻まれている為、誰が来たのかは一目瞭然だった。
「アズ兄様は、学園でモテモテですのね?」
アズ兄様が馬車から降りてくるのを、ひと目見ようと、待ち焦がれる少女が沢山いる。
「アズールの人気は相変わらず凄いな?」
呑気に言っているけど、王子様の人気も似たようなものじゃないかしら?
だって、見た目だけなら美しい王子様だもの
「2人とも、似たようなものでしょうが」
ヘルグ兄様も、私と同じ感想だわ。
でも、私からしてみたら、ヘルグ兄様も同じだと思うんだけどな……
「あの、この騒ぎの中に、私も降りるのですよね?かなり嫌なのですが……」
新年度早々、絶対に大変な事になる。
「ティトは黙ってにっこり笑っていればいい。俺がエスコートするから」
アズ兄様が、私に手を差し出してきた時
(ティト、今から意識を繋げる事出来るか?)
アズ兄様から声が届いた。
(大丈夫です。今から周りと繋ぎます。音量は少し小さくします。気になる時は教えて下さい)
私の動きが止まっていたので、王子が
「アズールが嫌なら僕がエスコートしようか」
なんて言い出したので、慌ててアズ兄様の手を掴んだ。
——王子はまずい。
「ユング王子は最後に降りて下さい。護衛の俺が1番先に降りますよ」
ヘルグ兄様がこちらを見て、ニコっとして馬車から降りた。
きっとアズ兄様と、意識が繋がったのに気付いていたんだろう。
(ヘルグは気付いていたな?)
(さすがヘルグ兄様ですね。今から繋ぐのでお願いします)
意識を広げていく。50m程で良いだろうか?
(50mくらいで良いですか?)
(そうだな、それでいい)
(いきますね)
音量は控えていたのに、繋いだ途端に声がザワザワうるさかったので、更に少し絞った。
(これは……かなりうるさいな)
(少し音を控えました。これで、強い声だけになるはずです)
(そうか、ありがとう)
「ティト、降りるぞ」
「はい」
ヘルグ兄様に続いて、アズ兄様が馬車から降りたら……
「「アズール様よ!おはようございます!」」
(((アズール様だわ!))((今日も素敵!)))
(うわー凄いですね)
(……これは煩くて敵わんな)
アズ兄様がエスコートの為に、私にスッと手を伸ばす。
(((何?誰?エスコート?誰が居るの?)))
(……怖いですわ)
(一緒だから大丈夫だ)
私は差し出された手を握って、馬車を降りて横に立つ。
「「え?誰?何でアズール様が?」」
(何よあの小さいの)
(誰よ?)
(何なの?)
(大体、皆同じ反応ですね?)
(そうだな、今のところ問題はなさそうだな)
私が降りた後、王子が馬車から降りた。
周りから見ている人達は更にどよめいた。
私達は臣下として王子に頭を下げ、王子から声が掛かるのを待った。
「ユング第一王子様よ!今日も素敵だわ」
(何で?)
(あの娘は誰なの?)
(何様よ!)
「アズール、ヘルグ、ティト行こうか」
「「「畏まりました」」」
(今日はティトがいるから、いつもうるさいけど更にうるさいなぁ)
(まあ、こうなるよな)
(……王子の声は消しましょうか?)
(……そうだな。ヘルグも消しておくか?)
(気不味いのでそうします)
(何でアズール様がエスコートをしてるの?)(あの子誰よ?)
(あの3人とどうして一緒なの?)
皆、困惑気味にこちらを見ている。
スッと1人の女生徒が、前に出て来た。
「皆様おはようございます。そちらの方は新入生ですか?」
(初めて見る顔だわ。何処のご令嬢かしら?)
アズ兄様が、挨拶しやすいように私の背を押してくれた。
「お初にお目にかかります。ティーフロート・シュピネルと申します」
私は年上の令嬢に丁寧に挨拶をした。
「あら、シュピネル家のご令嬢でしたのね?ご丁寧な挨拶痛み入ります」
(シュピネル家のご令嬢は、こんなに可愛らしかったのね)
「私はナトゥーアから留学に来ているリープリッヒ・アウスリーベンと申します。今後ともよろしくお願いしますね」
(私と仲良くしてくださるかしら?)
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
(ナトゥーアのお姫様だわ。近くに来た時何か言われるのかと思ったけど、良かった!いい人だったわ!)
私は本物のお姫様が、いい人そうで、思わずにっこりしてしまった。
(シュピネル家のご令嬢)
(あのシュピネル家)
(シュピネル家が何故?)
「おはようございます王子。朝からこの騒ぎは何です?何で揃って登校なんてしたのですか」
(ただでさえいつも衆目を集めるのに)
お姫様は雰囲気がガラリと変わると、王子に苦言を呈した。
(不味かったかな?)
(大丈夫だよ)
「リリ……おはよう。僕がどうしようと、君には関係ないだろう?」
王子は嫌そうな顔をしているけど……
「第一王子ともあろうお方が、騒ぎの中心にいる事が良いとは思えませんが?」
(こちらは貴方が心配なのよ?)
——お姫様は心配しているだけみたいだ。
「済まないリリ、今日は僕の妹分の入学だったから、嬉しくて迎えに行ったんだよ」
ヘルグ兄様が、空気を読んで話し始めた。
「僕とアズールはティトと昔から仲良しでねその関係で王子とも仲良くなったんだ。折角だからと一緒に迎えてくれたんだよ」
ヘルグ兄様が周りにも聞こえるように、上手いこと言い訳をしていた。
(妹?)
(妹?取り入っているのではなくて?)
(皆騙されてるんだわ)
(狡いわ)
(邪魔だわ)
(皆の声が怖いですね)
(……大丈夫だ)
アズ兄様が、手をギュッと握ってくれた。
「まぁ、妹分なんですね?私とも仲良くして下さいますか」
(確かに妹のようで可愛いわ!ああ、私とも仲良くしてくれないかしら?)
(お姫様、やっぱりいい人だわ!)
「本当ですか?嬉しいです。私の事はティトと呼んで下さい!」
(怖い人ばかりじゃないのね。嬉しいです)
(リリは俺達と同じ学年だよ。良かったな)
「では、私の事はリリと呼んで良くってよ」
(妹みたいだし、お姉様でもいいわね!)
「……リリお姉様?」
(呼び方はこの方がいいかしら?)
「か、可愛い!」
リリが、ガバっと抱きしめて来た。
(アズ兄様、嬉しいけど、どうすればいい?)
「リリ様、ティトが困ってるよ」
(ごめんな?いま、何とかするよ)
「あら、アズール……失礼しましたわ。余りにも可愛いくてつい」
(私とした事が!でも、可愛い過ぎですわ!)
(ナトゥーアの姫までたらし込むなんて!)
(あの子邪魔ね……)
(狡いわよ)
(邪魔してやりたい!)
「ティトを可愛がってくれるのはありがたいが、とりあえず学園の中に行かないか?」
アズ兄様が促して人混みを掻き分け、私達はやっと中に入る事が出来た。
——前途多難だわ。
皆が見てる前でリリお姉様に抱き潰され、彼達の人気がものすごくよく分かる程、嫌な声も沢山聞こえたわ……
私は学園が始まる前から、周りの騒々しさに当てられ、すでにグッタリしてしまった。




