ハイテンション王子
王子が馬車に乗り込んでこようとしている。
「ユング、勝手に馬車に乗り込んで来るな。彼女とは初対面だろう。我々が一度降りるから、ちゃんとお互い挨拶してから乗り込んでくれ」
アズ兄様に注意されてるわ……
——残念王子ね
「僕たちの仲でそんなのはいいよ。アズールどけ!席を開けよ」
アズ兄様が、王子に文句を言うが、王子はお構いなしにアズ兄様をどかし
ヘルグ兄様の横にどかっと座った。
「ユング、中途半端な所で権力を振りかざすんじゃない。彼女がびっくりしてるだろう」
追い出されたアズ兄様が、こちらを見ながらごめんねと言った。
「お!?この子が例の彼女か?はじめまして。俺は第一王子だよっ!?くぅっ!!」
——ヘルグ兄様、それ大丈夫ですか?
王子が羽交締めにされている
「だから、貴方は一応王子なんだから!自分から挨拶をするな!落ち着け!」
ヘルグ兄様が、王子の口を無理矢理塞いだ。
握手をしようと、こちらに出した腕ごと王子を取り抑えている。
「ティト、この馬鹿が暴走する前に、先に挨拶してくれるか?」
アズ兄様に促されたので、私はオロオロしながら挨拶を済ませる。
「お、お初にお目にかかります……ティーフロート・シュピネルと申します。第一王子様にお目にかかれ……」
私は、最後まで言わせてもらえなかった
「もういいぞ、硬いのはなしだ。僕もティトと呼んでいいかな?」
我が国の王子様はせっかちで、デリカシーがどこかに旅に出ているらしい……
「は、はい。こ光栄ですわ…」
——この国、大丈夫かしら?
「ティトごめんね。悪い奴ではないから、とって食われることはないよ」
ヘルグ兄様、そう言われましても……今、めちゃくちゃ王子に観察されてますわ
「ちょっと勢いがすごいだけだから、王子が言うように、俺たちと接するような軽い感じで接してくれるかな?」
アズ兄様が眉を下げ、お願いしてきた
「でも……第一王子ですよね?」
私は困惑しながら、アズ兄様を見た。
「その肩書に間違いはないよ。でも俺たちは、ユングを幼い頃から友達だと思ってる。もちろん、敬愛する主人でもあるけれどね」
アズ兄様は、ヘルグ兄様に抑え込まれたままの王子を呆れた顔で見た。
「こう見えて、他では、ちゃんと王子やってるから。ここだけ見逃してくれないか?」
アズ兄様も、王子はこれでいいらしい……
確かに、王子の変な噂を聞いたことはない。
「はい、わかりました。第一王子様これからもよろしくお願いします」
とりあえず挨拶だけは、と、深く頭を下げた
「ダメだ!違う!」
すると王子が、強い口調で叱責した
私は思わずビクッっとなり、
「え?も、申し訳ありません」
と、謝ってしまった
「ユング!こら、ダメだよ」
ヘルグ兄様が叱り、アズ兄様が呆れ返り、
「あーもう、この馬鹿王子!」
「ユング!全く、何をやってるんですか!」
2人揃って王子を責め始めた。
「ヘルグ兄様、アズ兄様、大丈夫です!」
兄様達に叱られてるに、王子は私の顔をじっとみている……
——何?どうしたら良いの?
「ごめんティト、驚いたよね?君が悪いんじゃないよ。このバカ王子、君に兄呼びをして貰いたかっただけなんだ」
——アズ兄様、それだけですか?
「ティトが嫌じゃなければ、呼んでやって。寂しがり屋の王子は、仲間はずれが嫌なんだ」
アズ兄様は、固まる私の手を握りポンポン叩きながら、王子を兄と呼んでと願ってきた。
「ユング王子ちゃんとティトに謝って。彼女は僕達の妹分なんですよ?驚かせ怯えさせてどうするんですか」
ヘルグ兄様は、まだ王子に説教中。
「そんな失礼な態度では、兄とは呼ばれませんよ。そもそも彼女は初対面です。いきなり全開って何やってるんですか」
全開って……何?!
「言われてみれば、彼女は初見だったな。お前たち2人からよく話を聞いているから、そんな気がしなかったんだ。ティト、ごめんな?」
王子はあっさり非を認めた。
——え?王子様、もしかして素直なの?
「ようやく会えたし……こいつらと同じように、僕のことも兄と呼んでくれるかい?」
王子は柔らかな笑顔で、首をかしげながら、
兄と呼べと、とても無謀なことを言う。
「この四人の場だけでも良いですか?公の場では、王家に対して失礼になります、王子に隙を作るような行動を、私は取りたくありません」
ほんとにいろいろ、全く持って困る。
——勘弁してほしいわ。
「ユングどうだい。いい子だろ?」
ヘルグ兄様が、とっても自慢げだ。なぜ?
「俺とヘルグが言っていた通りだろう?」
アズ兄様も、何の話をしてたの?
話の流れが急に変わったので、話の中心の王子を見てみたら、
「ティト、それでいいよ。むしろそれがいい。もし平然と、僕の我儘を認めるようならば、今後一切付き合うつもりはなかったよ」
——あ、私、試されていたんだわ。
「でも君は、自分の立場と言うものを理解した上で"肩書きを外した付き合い"を望む僕のことも受け入れてくれようとした」
王子様なんだから、付き合いを厳選するのは当然のことよね。
「ありがとう。謀るような事を言ってごめん。今後は一切するつもりはないから安心して?」
王子はさっきまでの笑顔とは違って、男の子らしいヤンチャな笑顔になった。
——王族は大変なんだろうな。
「いいえ、安心しました。私のほうはいつ謀ってもらっても構いませんわ。きっと立場的にそうせざるを得ない事も沢山あるのでしょう」
自由に振る舞えないのは当然だ。私の比じゃないだろうな……
「肩書を外してお付き合いくださると言うのであれば、謀り事だろうが詮索だろうが、こちらに後暗い事はございません」
——能力は隠しますけど……
「いくらでもお付き合いいたしますよ?」
私も仮面を外して、ニヤリと笑顔を向けた。
「おい、ヘルグラウ。めちゃくちゃいい子ではないか!ティト、王妃になる気はあるか?」
王子が意味がわからない求婚をしてきた。
「お断りします」
全く、何を考えてるんだこの人は……
「ユング王子振られましたね」
ヘルグ兄様は、ポンと王子の肩を叩いた。
「ユングあきらめろ」
アズ兄様は、しっしと振り払う仕草をした。
王子は2人から冷たくあしらわれている。
これが日常なのね……
「えー、ティトが迷わず僕を振ったよ?普通女の子は王子様には憧れるんじゃないの?」
王子は口を尖らせながら、不服そうにこちらを見ているので、キッパリと伝えなければ。
「憧れと現実は違います」
元より私は、王子に憧れはありません。
「まあまあ、とりあえず、ティト、アレ持ってきてるんだろう。今渡したら?」
ヘルグ兄様が、胸元を叩いて見せた。
「あ、そうですね。本当は学園できちんと挨拶をした後、手順を踏んで王子様にお届けしようと思ったんです」
空間魔法のポーチから取り出そうとしたら
王子が指摘してきた。
「俺の名前はユングな?忘れた?」
やっぱり……流してはくれなかったか
「…ユング兄様で良いですか?」
まさか本当に呼ぶ事になるとは……
「いいな。それ、うんいいな。それ」
ユング兄様が遠くを見ている。
一体どこ見てるんですかね?
「はい、ユング兄様への贈り物です。受け取っていただけますか?」
そう言って、ヘルグ兄様とアズ兄様と一緒に買った魔力のペンを渡した。
このペンは、あの後2人は結局渡さず、後日、私がネタバラシ的に渡すことにしようと言う話になった。
——それを今日は持ってきた。
「ペン?ありがとう。ん、何か違うのか?」
王子は魔力を感じ取ったのか、普通のペンでないことに気づいたらしい
「魔力のペンです。言葉に出さなくても文字に書くことで呪文が発動しますよ。イタズラに最適なんです。4人でお揃いですよ?」
——さぁ、気づくかな?
「呪文なく、魔法が発動……?」
アズ兄様とヘルグ兄様が笑いを堪え震えた。
「……?!アズール!ヘルグラウ!貴様等、僕に対して何度もこれ仕掛けたよな?」
王子の叫び声に、ずっと我慢していた2人は瞬間的に笑い崩れた。




