両手に花のお姫様
「ソフィアおかしくないかしら?」
私はスカートを摘んでくるりと回転する。
—-/今日から学園が始まる。
学生寮もあるけど、私はヘルグ兄様が迎えに来てくれるから、自宅から馬車で通学する。
「大変よくお似合いになっております。何を着ても大変可愛らしくてソフィアは鼻が高いです」
全力で褒めてくるソフィアの言葉が少しくすぐったい。
「ありがとう。そう言ってくれると、これから頑張れる気がするわ」
うまく能力を隠しながら生活できるかしら?
——少し緊張するわ。
「お嬢様、表にお迎えの馬車が見えましたよ。参りましょう」
ソフィアに連れられ、玄関前に行く。
「おはよう、可愛いなティト」
ヘルグ兄様が馬車から降り手を振っている。
「おはよう、よく似合ってるよティト」
アズ兄様は、馬車から降りて近寄ってくると私をエスコートしてくれた。
「ヘルグ兄様、おはようございます。アズ兄様も来てくれたんですか?」
2人揃って迎えに来るとは思わなかった。
制服姿の2人は先日よりも、ちょっとだけ子供っぽく感じる。
一緒にいると 目立つだろうな……
前世の記憶の、少女漫画に出てくるような見た目の2人だもの……
——2人は学園内でかなりモテるわよね
「最初が肝心だろ?仲良しの3人組として登校したほうが、一緒に登校するほど、仲良しなんだと手っ取り早く周知できるだろう?」
確かにそれはそうなのですが……
「悪目立ちしませんか?」
あなたたち2人を見て、キャーキャー言う女子たちから、何をされるか考えただけで怖いわ。
「やりすぎ位がちょうどいい。悪意を持つ奴の炙り出しができるだろう?」
アズ兄様が悪い顔をした。
「アズールの言う通りだ。はじめにある程度把握しておいた方が、後々問題が大きくならなくて済むと思うよ?」
……それは確かにそうですね。
でも1人で悪口を聞くのは嫌だなぁ。
「気になることがあったら、念話につないでくれたらいい。俺が、全部記憶するから」
アズ兄様……とても頼もしくて心強いわね。
「それならアズ兄様と私と、空間全体を一緒につないでもいいですか?」
そうすれば、私は1人で聞かなくて済む。
「空間全体?どういうことだ?」
アズ兄様は、私を馬車に乗せながら聞き返してきた。
「例えば、教室全体とかホール全体とか学校全体とか、空間を区切れば、私が感知する能力を共有することができます」
いつも検証に付き合ってくれたお父様とお母様には感謝だわ。
「1人で自分への悪口を聞くのは悲しいので、
一緒に聞いてくれませんか?」
自分だけ周りが敵!になるのは嫌ですわ。
私はアズ兄様のエスコートの手を、不安からキュッと握った。
「俺も一緒に聞いたほうがいいか?」
ヘルグ兄様は……やめておいたほうがいいのかな?
どうかな?と思い、アズ兄様を見ると、
「俺は色々都合がいいけど、ヘルグは護衛の邪魔になるからやめた方がいい。繋ぐならティトを悪意の中に一人ぼっちにはさせないよ?」
アズ兄様……手を握り返して綺麗な笑顔で素敵な事を言うのはやめてください。
——うっ、まずいわ、
緊張してドキドキしてきた。
「くっ……なんだか私、2人のナイトに守られる姫みたいですね?」
私は、赤面しないギリギリで自分を保った。
「何で苦しんでんだ?実際俺達の姫だろ?」
ヘルグ兄様……その言葉は嬉しいわ。
「中身はイタズラ好きのじゃじゃ馬姫だけど」
アズ兄様、冷静になったわ。ありがとう。
「アズ兄様、じゃじゃ馬とは失礼ですわ。私、聞き漏らしませんよ?」
——当たってるだけに悔しいわ。
咄嗟にぷくっと頬が膨れてしまった。
「いや、そこは聞き流してくれ。気にするな」
アズ兄様は笑いを堪えスッと目を逸らした。
「ハハハ、じゃあ行こうか?」
そう言って、ヘルグ兄様がアズ兄様の隣に座りると、馬車はゆっくり進み始めた。
「アズ兄様に、時間を指定されましたけど、学園に行くにはまだ早すぎませんか?何かお話し合いをするのかと思っていましたが……」
しないから、もっとゆっくりできたのでは?
「先に謝っておくねティト」
ヘルグ兄様、どうかなさったの?
「そうだな、ごめんねティト」
アズ兄様まで……
2人が気まずそうな笑顔で、こちらに謝る。
「え、何がどういうことですか。なんで2人して謝るんですか?」
何か、不都合があっただろうか?
「ティト、馬車はどこに向かってると思う?」
ヘルグ兄様は、遠くを見ながら尋ねてきた。
「学園ではないのですか?」
外を見ると、学園への道のりで合っている。
次の通りを右に曲がれば、学園の門の前に出ていくはずだ。
「あれ?左に曲がる。左は王宮しか……」
——そう、左には王宮しかない。
2人の顔を見ると、2人とも目を逸らした。
「もしかして……王子ですか?」
違ってくれと思いながら、絶対そうだという確信を持って尋ねたら
「もしかしなくても王子です」
ヘルグ兄様は、がっくりと首を項垂れる。
「お察しの通り、寂しがり屋の王子です」
アズールは温度のない、ものすごくきれいな笑顔で笑っていた。
「ヘルグ兄様、アズ兄様、それって入学早々問題しか起こりませんよね?私、針の筵状態ですよ。もしくは珍獣……」
——嫌だ。入学早々嫌すぎる
「だから最初に、チャコには全力で一般貴族からは、絶対手の届かない存在になってもらう」
ヘルグ兄様、何を言っているのかな?
「ユングとヘルグと俺は大体いつも一緒だ。簡単に周りに人を寄せ付ける事はない」
——それはそうでしょうね?
何せ、王子と側近と護衛ですもの。
「その3人が、幼少期からの付き合いで特別扱いだと認識させれば相手は諦めるだろう。やっかみは多少生まれるかもしれないが……」
それ、多少のやっかみで済みますか?
「下手に関わることで、自分たちが罪に問われる可能性を考え、早々に手を引くはずだ」
アズ兄様、確かに効率的かもしれませんが。
女の嫉妬は……そんなに簡単じゃないんです。
「それを乗り越える『馬鹿』が出てこないとも言えないけどね」
ヘルグ兄様。その通りです。
「それは……さっさと認識して、排除すればいいだろう」
アズ兄様は、あっさりと排除を選んだ
——排除って、何するつもりよ
「アズ兄様、考え方が怖いです。排除とか怖いのはやめてください」
この人、身内以外には本当に冷たい。
「じゃあ今度、認識阻害の道具でも買うか?」
ヘルグ兄様が提案をしてくれたけど……
「そんな便利なものがあったのですか?でも、今から問題が起こりそうなのに、後で買うのでは、もう遅くないですか?」
——意味ないのでは?
「認識した後は完全には隠せない。遅いな」
アズ兄様……冷た過ぎますよね?
「だとよ、あきらめるんだな」
ヘルグ兄様……諦めたくないです。
私の早まった心音とは裏腹に、馬車のスピードがだんだん遅くなる。
止まった後に、馬車の扉がカチャと開いた。
「おはよう妹よ!皆で共に学園に行こう!」
王子は、それはそれは素敵な笑顔で、元気よく挨拶をしながら馬車に乗り込んできたわ。
——もう、迷惑でしかないんですけど?!
学園生活始まりました!
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