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私の能力は『以心伝心』全部丸聞こえですわ。【第1章100話完結済】  作者: 黒砂 無糖
第1章 始まりのお話

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俺のせいかもしれない。

 俺は今、非常に居心地が悪い。


 隣にはニヤニヤした顔で、人の不幸を楽しむ気でいる王子。


 斜め前には、自分がやらかしたかも知れない少女に、会いたかったのに会えなかった過去がある心優しい騎士。


 ——これ、今、喋らなければ駄目か?


 大したことはないはずだ。だが、少女が失態を犯したことの引き金にはなっていそうだ。

 

 この2人に話すのは何か違う気もするが ……


「まあ、とりあえず話してみたら? 王子はアズールから離れてちゃんと座って下さい。お茶でも頼みましょうか?」


 ヘルグラウが、こちらに気を回してくれているのがわかる。

 

 やっぱり、話した方が早く終わるか……


 本当に、ヘルグラウ は気の回る騎士だな。


 従者に頼み、お茶を入れてもらうと、ヘルグラウは王子の後ろで「護衛中だから」と立ったままお茶を飲んでいる。


 ——とりあえずお茶は飲むんだな。


 王子は、お茶を口にすると


「アズール、話す気になったか?」


 と尋ねてきた。


 話すしかないらしいな……



「大した接触はしていないよ。俺が噴水のベンチで時間を潰していたら、急に彼女が現れて、2、3言会話しただけだ」


 あれは、会話だった……よな?


「急に話しかけられて驚いたのか、彼女は会場の反対側へ走って行ってしまった。噴水を通らず戻るにはかなり回り道するだろう? 」


 体調が悪かったなら、走ったら悪化するよな


「靴擦れしたのもそのせいかもしれない。元々体調が優れなかったなら、疲れて眠ってしまったのも頷ける」


 小さな子だったし、体力がなかったんだな


「そもそも、噴水に休憩に来たみたいだったし。俺と出会わなければ、彼女は危険な失態を犯さずに済んだのでは?と思ったんだ」


 一気に喋って、一旦お茶を飲む。



「……アズールのせいだな」


 ヘルグラウは、苦々しい顔をしている。


「アズールのせいではないか!」


 ユングには、責められた。



「だよな、俺のせいだよな……」


 不可抗力ではあるが、か弱い少女の足と心を傷つけてしまった……


 ——やりきれない気持ちだ


「でもさ、2、3言で驚かすって、どうやったら出来るんだ? お前、何したんだ?」


 ユングは不思議そうに首を捻る。


 ……そうだよな?


「そう、それ! 僕も気になってた!」


 ヘルグラウもユングに同調しているが……


 ——それは俺が知りたいよ。


「それが分からないんだ。そもそも俺、喋りかけた記憶すらないんだ……」


 あれは一体、何だったのだろう?


「喋りかけた記憶ないのに、2、3言話したのか? 何だそれ? その辺詳しく話してよ」


 ヘルグラウは興味を惹かれたのか、一歩前進してきて俺に話を促した。


「何だったか、俺が知りたいくらいだよ。俺が噴水で時間潰していたのは……まあ、いつものことだけど」


 俺が話を始めようとしたら、ユングがニヤニヤしながら茶化してきた。


「アズールが顔合わせの会場で、1人でなんかいたら女の子に囲まれて、モテちゃうもんな!」


 実際にそうだから反論は出来ない。


 モテかは知らないけど、俺は昔から単独行動すると、確実に令嬢に囲まれはする。



「王子、煩いです」


 ヘルグラウが雑な扱いでユングを諭した。


「王子に向かって煩いとは何だ?! ヘルグラウ は護衛なのに失敬だな?」


 ユング、お前は話を聞く気があるのか?


「いつものことでしょう? 王子、今はアズールが話しているから、黙って聞いて?」


 ヘルグラウは、平然とユングを諭した。


「チェッ、わかったよ」


 毎度ながらユングの負けだな……


「ヘルグラウ、ありがとう」


 ユングは不服そうだけど、扱い慣れているヘルグラウの勝利だな。




「俺がベンチにいたら、彼女が噴水にふらふら近寄って行ったんだ。その時は、こちらに気付いていなくてさ……」


 体調、明らかに悪かったんだよな。


「彼女は、噴水見ながら一人で喋っていたんだ『噴水で泳ぐ』とか言っていたから、それはないなと俺は考えていただけなんだけど……」


 俺はあの時、声を出した記憶がない。


「俺の考えに、彼女が返事を返すやり取りを少しだけしたんだ。彼女も『あら?』って言っていたから、想定外だったんだろうな」


 ユングとヘルグは、さっきまでとは違い真剣な顔で話を聞いている。


「俺は声を出してなかったはずだったけど。あの時は他の事を考えていたから、絶対とは言い切れないんだ」


 実際、どっちだったんだろう?


「うっかり口にしたのかもしれないけど、余りにも不思議だったんだ……念のため、急に声をかけたことは謝ったけど」


 その瞬間に逃げられたんだ……


 思い出してみても意味がわからない。




 話を聞いて、王子は一言


「いや、噴水で泳ぐのはないな」


 ——だよな? 俺も同じだ。


 ユングの気持ちはわかるが、違うだろ……



「噴水は、深さ的に無理だろう?」


 ヘルグラウ、深さは関係ないのでは?


 ヘルグラウの感性は相変わらず独特だが……




「……2人とも、問題はそこじゃないだろう」


 2人して「えっ? 」って、目を丸くしてこちらを見てきた。


 ——なぜ驚く?


「俺は声を出していないんだ。でも会話が出来たんだよ? 驚くなら普通こっちだろ?」


 ……2人とも馬鹿なのか?



「確かに! でも、階段下の眠り姫だしなぁ?」


 ユングとヘルグは同じ感性なのか、変な方向に納得をしている。



 ——確かに不思議な娘なのは理解できる。


 皆、噴水での彼女の発言は『ない』と感じているようだ。


 もしかしたら、彼女の頭の中の、冷静な考えと1人で会話していたのかもしれない。


 ——偶然が重なっただけだよな?



「とりあえず謝るのは良いと思うけど、アズールに責任はギリギリないと思うぞ」


 ユングは、話が終わるとグッと伸びをした。


「そうだよ。それに王子の側近から、丁寧に謝罪されたら、却って彼女を追い詰めないかな?自分の失態は忘れて欲しいだろ?」


 確かに、ヘルグラウの言う通りか。


「学園に入学したらそのうち会える。ヘルグラウも関係しているんだ。会って謝罪する機会はいくらでもあるさ」


 ユングは、休憩は終わりだとソファから立ち上がり、実務机に座りニヤリと笑い、


「僕は、アズールが謝罪する日を覗くのが今から楽しみで仕方がないよ」


 ユングは、期待に満ちた目を俺に向け、ヘルグラウそれを見て小さく笑った。



「絶対に、貴方のいない時に終わらせますよ」


 ——ユングだけには見られてたまるか。


 俺は、そう堅く心に誓った。




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