眠り姫と懐かしの人
ep2、全ての物語に始まりがある。
続きの時間軸になります。
***
馬車は、ガタゴトと揺れながら、王宮を背にして街道を走っている。
「ティト、身体は? もう大丈夫なの?」
馬車の中は、お母様と2人だ。
パーティーを抜け王宮を出る時に、能力はOFFしているので、お母様の考えは読めない。
「お母様、私はもう大丈夫です。今日は、能力をONにしたので、会場の子供の剥き出しの感情と、人の熱気に当てられて……」
あんなに疲れると思わなかったの。
「噴水で休憩しようとしたら、青年の存在に気付かず、心の声と会話してしまいました。とりあえず誤魔化して、立ち去りましたが」
——何か気付いてしまったかしら?
「まあ、大丈夫なの?」
お母様も、私の能力がバレなかったか、心配な様子だ。
「青年も、会話したかどうかあやふやな様子でしたので、大丈夫かと。その後、会場の反対側に向かってしまい、遠回りになって……」
——そう言えば、彼は誰だったのかしら?
「それで疲れて階段で眠っていたの?」
お母様は、あらまぁと頬に手を当てている。
「眠る予定ではなかったのです。足がとても痛くなってしまい、階段で休憩したら会場に戻る予定でした」
「でも座ったら、気が抜けて、思わず眠ってしまったの。令嬢として、恥ずべき失態でした。お母様、ごめんなさい」
——本当に恥ずかしいです。
「そうね、令嬢としては、有るまじき行為です。第一王子と護衛騎士が、内密に客間に運び、医官が診断する間に伝えてくれました」
第一王子様にご迷惑をおかけしたなんて……
「そのお陰で、人の目に晒されることもなく、大事にはなりませんでしたが、王子達が紳士的な行動をしたから、良かっただけですよ」
ありがたいことだけど、貴族令嬢失格ですわ
「あなたは令嬢なのよ? 軽はずみな行動は、
醜聞だけでなく、身の危険もあるということ、しっかり覚えておきなさい」
お母様、ぐうの音も出ないです。
——本当にその通りだわ。
「お母様、第一王子と護衛の方に、お礼になる物をお届けした方が良いでしょうか? どのような方でしたか?」
男性には、お礼をする際に何を差し上げたら良いのかしら?
「お礼の品は「シュピネル家から」として用意するので大丈夫よ。貴方は、素敵な便箋で彼達に、丁寧に御礼状を書きなさい」
丁寧な御礼状……
書き方を思い出さなければ。
——まずい、すっかり忘れてるわ。
お母様に知られたら、淑女教育のやり直しを一からさせられてしまう。気を付けなきゃ。
「そういえば、貴方を抱えてくれた護衛騎士、ヘルグラウ様よ。ツァオバライ商会で出会って、仲良くしていたの覚えているかしら?」
お母様は、ウキウキしながら「懐かしいわ」と、ヘルグ兄様の話をしている。
——しっかり覚えてますわ。
ヘルグ兄様に向けられた、怒りと、冷たい冷気を纏った、シュト兄様の笑顔と一緒に……
「覚えてますわ。折角仲良くして下さったのに、あの後、全然会えなくて、あの頃はガッカリしていましたもの」
そっか、ヘルグ兄様が運んでくれたんだ
「実は、シュト兄様に邪魔されていたと、最近になって知ったのですよ? シュト兄様には、ちょっとキツめに文句を言いましたわ」
全く、シスコンは厄介でしたわ……
「私が怒ったら、この世の終わりみたいになってしまったシュト兄様が、心底面倒くさくて、嫌になりましたわ」
——思い出すのも嫌ですわ
ちょっとだけ眉間に力が入り、お母様も迷惑そうな顔をしている。
「あの頃のシュヴェルトは確かに酷かったわ。あの時フェルトシュパート家から、何度も来訪の打診を頂いていたのよ」
そうだったのね。会えなくて残念だわ。
「あの子が無駄に才能を発揮して、悉く話が流れたのよ? 何だったのかしら?」
本当、なんでそんな時ほど優秀なのよ……
「普段から、冷静で策略家ではあるのだけど、ティトに対してだけは、何故かおかしな方向に向いてしまうのよね」
お母様もお兄様の行動を思い出したのか、疲れた顔をした。
「ティトに不利益や、直接的な害がないから見逃してはいるけれど……ねぇ……」
お母様は、困るわね。とため息をついた。
確かに実害は無い。妹として大切にしてくれているのも分かる。
——要するに、ただのシスコンだ
「先日、文句を言ったら、シュト兄様がやさぐれてしまって、仕事にならないと従者達に泣きつかれ仕方なく、フォローしましたわ」
シュトのは部屋の隅でジメジメしていて、今にもカビが生えそうだった。
「その際に、今後、私の付き合いに口出ししたら絶縁すると、しっかり釘も刺したので、以前よりは少しはマシになりましたよ」
ついでに、言いたいことを全部言ったから、ちょっとスッキリしましたわ。
「……シュヴェルトの事はどうでもいいわ。それより、久しぶりにお礼も兼ねて、ヘルグラウ様を、お茶にでもお招きしてはどうかしら?」
お母様は、お兄様の話はあっさり切り捨て、ヘルグ兄様を迎える計画をしていた。
「第一王子には、別でお礼の品を送るとして、ヘルグラウ様からも、ティトが謝罪していたとお伝え頂くのが、良いのではないかしら?」
お母様は、シュト兄様の話とは違い、とても嬉しそうだわ。
——ヘルグ兄様、私を覚えているかしら?
「ヘルグラウ様にとって、お招きしてもご迷惑でないなら、お会いして謝罪したいです」
会えるなら、もう一度会いたいわ。
「抱えて運んで頂いたのに、御礼状だけだと、
かつてのシュト兄の迷惑もあるし…・1申し訳なさで心苦しいです」
シュト兄様の事を絶対に謝らなければ。
「では、帰宅したら招待状を送りましょう」
謝罪のためだけど、ヘルグ兄様に久しぶりに会えるなら、とても楽しみだ。
何か、贈り物でもしようかしら?




