専属侍女
朝日が昇る時間が早くなってきた。
外はすでに明るく、ソフィアが自室のカーテンを開けると、窓から光が部屋いっぱいに差し込んだ。
(……て……しら?……ね)
眩しくて眉間に力が入ると、微睡んでいた意識がハッキリしてくる。
——眩しいわ。でも、まだ起きたくない
(お嬢様ったら、眩しいのが嫌なのはわかりますが、ダンゴムシになってますよー)
——それは、恥ずかしいわ。
……レディとしてちゃんと起きます。
(あら? 真っ直ぐに戻りましたね? やはりお嬢様は眠っていても、お人形さんのように可愛らしいですわ……早く起きてくださいませ)
「……おはよう、ソフィア」
——ソフィア近いわ。
彼女、既にベッドサイドにいましたわ。
「おはようございます、お嬢様。お加減はいかがですか? お茶をお持ちしますか? お支度なさいますか?」
(良かった。お目覚めになられた。この1年、
ずっとこのやり取りを心待ちにしていました)
「……ありがとう。先に支度をするわ」
ソフィア、ずっと心配していたのね。
***
昨晩、執務室での話を終えた後、部屋を出るとお兄様が待機していて。
「ディアが未だ興奮しているから、ティトの食事は自室に戻ったほうがいいと思いますよ」
と、お母様に提案された。
お父様とお母様にも、その方がゆっくり休めるだろうと気遣われてしまった。
「下の子達には、お父様から話をすればさすがに明日には落ち着くでしょう」
私はお母様の監視付きで、弟と妹に簡易な挨拶だけ済ませて自室に戻った。
部屋に戻ると、待機していたソフィアの給仕で簡単に食事を済ませ、ベッドに入った。
——やっと一人になれた
考えなきゃならないことは、沢山あるのに、目覚めてから、常に色々な声が聞こえて来て、私はちょっと疲れていた。
「一人になれて、ようやくホッとしたわ」
倒れる前は、当たり前だった話し声のない時間が、愛おしく感じた。
「明日には、能力の検証もしたいわね」
ベッドに横になって考えていたら、あっという間に眠りに落ちていた。
***
倒れてから意識だけだったからか、時間の概念が全くなかったわ。
「もう、1年が過ぎていたのね……」
ポロリと言葉が溢れた。するとソフィアが私の手を握り膝をついて
「お嬢様、昨日はお目覚めになられたばかりなのに、一日中忙しくされていましたので、お疲れになられたでしょう?」
ソフィアは心配そうに私の手を撫でた。
「長く眠られてご不安もおありでしょうが、ソフィアはいつだってお嬢様の味方です」
(お嬢様は人に甘えず一人で抱えてしまう。我慢しているだけかもしれない)
「ソフィア……」
(お嬢様は使用人にも優しくて……周りは、笑顔を当たり前に思っているけど、お嬢様だって嫌な時や辛い時もあるのに……)
——気づかなかったわ。
ソフィアは私のことを、かなりよく考えてくれていたのね。
「だから、何なりとソフィアにお申し付けくださいね?」
(少しでもお嬢様の役に立ちたいし、なにより甘やかしたいわ)
能力のことを思うと、ソフィアには色々協力してもらった方が良いかもしれない……
お父様とお母様に相談しよう。
「ソフィア、いつもありがとう。もし、私がソフィアを専属にしたいと言ったらどうする?」
そろそろ、私も専属の侍女を決めなければならないお年頃なのよね。
「私の専属になることをどう思う?大変だから当然断っても大丈夫よ」
お母様が探しているかもしれないけれど……
可能なら小さな頃からいて、私のために泣いてくれるソフィアがいいな。
「そんな!泣いて喜びます。許されるなら不眠不休に無給無休で、こちらからお願いします!」
(え?! そんな幸せあってもいいの? やっぱナシとか言われたら3年は引きずるわ!)
——ソフィア?
「……お嬢様からそんなこと言って頂けるなんて、これは夢でしょうか?」
(誰よりも、お嬢様をお支えできる位置に行けるなら何でもやるわ!ライバル潰したいぃ!)
「ち、ちょっとソフィア落ち着いて! 夢じゃないし、お父様とお母様に相談するから、嬉しいからって泣かないで!」
不眠不休も、無給も無休も駄目です!
ちゃんとどちらも貰ってください!
ソフィアは私のこと好きすぎるみたいだわ、コントロールしないといけないかも?
——でも嬉しいわ
「お嬢様、旦那様と奥様に、私からもアプローチした方が宜しいでしょうか?」
ソフィアは見たことがないほど、真剣な眼差しをしている。
「お給料を頂いているので、買収は出来ませんし、弱みを握ると解雇されてしまうし……」
——誰の弱みを握るつもり?
「私がお嬢様のお役に立てると立証するには、何をするのが効果的でしょうか?」
(旦那様や奥様より、更に上の立場の方の弱みを探すのが先かしら?それじゃだめ? 思考誘導の魔法を構築するのが先かしら?)
——ソフィア?!思考も発言も物騒です!
魔法の構築とか、有能な能力の無駄遣い……
——ツッコミが追いつかないわ!
「弱みも買収もしないでください!って、ちょっとソフィア何でがっかりした顔するの?」
私が反対したら、ソフィアはこの世の終わりみたいな顔をした。
「何もしなくて大丈夫よ。ソフィアがよくやってくれているのは、みんな知ってるわ」
ソフィアは元から、空気読みは天才的なの。
——能力なのかな?
それとも観察眼かしら?
「とりあえず朝食の後、お父様とお母様に気軽に聞いてみるわ。だからソフィアはお仕事しながら待ってて。使用人の買収もダメよ?」
(なぜ使用人を買収しようと考えていたことがバレたのでしょうか?顔に出てたならまだまだ未熟ですね。もっと修行しなければ……)
——ソフィア、何の修行なのかしら?
「畏まりました。良き返事が返ってくるのを心待ちにしています」
(楽しみすぎる!! 早く専属になりたいぃ!)
ソフィアは心の声は暴走しているけど、話しながら、テキパキと身支度を整えてくれた。
——副音声付きの会話は難しいわね。
間違って心の声にツッコミそうになる
ソフィアや、お父様みたいに表裏のない場合は誤魔化せるし、お兄様みたいに振り切ってくれる分には見なかったことに出来る。
——問題は老獪な狐や狸に対してよね。
つらつら考えている間に準備は整った。
「ソフィアありがとう。では食堂に参ります」
私は張り切っているソフィアを連れて、食堂に向かった。




