なんだかなぁ……
「ティト様、おはようございます」
教室に入ると、先に席に着いていたオランジュが明らかにイライラしている。
——オランジュ、周りが怖がってるわ。
「おはよう、オランジュ。顔が険しくなっているわよ」
その顔は令嬢というか、女性騎士が戦地で警戒しているみたいに見えるわ。
「……失礼いたしました」
オランジュは、下を向きため息を吐くと、気持ちを切り替えて顔を上げた。
——淑女の仮面を貼り付けたのね?
さすがオランジュだわ。
「オランジュ、朝から騒いでいましたけど、大丈夫でしたか?」
ティーゼフとのやり取りは見ていたから、理解はできるけど……
——少し、神経質じゃないかしら?
「朝から騒いでしまい申し訳ありません。なんて言うか……彼の方を見ると、どうしてもイライラしてしまって」
オランジュも、本当なら感情的にはなりたくないのか、力無く目を伏せた。
「どうしてティーゼフに対してだけ、そんなに苛立ちがあるのか聞いてもいいかしら?」
風紀委員になってから、声を荒げて怒ったことは今までにはないわよね?
「このままでは、グランディエラ家の家名に傷がついてしまうかと思って……」
(グランディエラ家の品位が下がるのは、ティト様にご迷惑がかかるのと同義よ!)
オランジュは小声で話しているけど……
——心の声が貫通してきたわ
「そうだったのね……」
気にしてくれるのはありがたいけど、このままではオランジュが不利になるわ。
「……ティーゼフ様の振る舞いは、過去の自分を見ているみたいで嫌なんです」
オランジュはポツリと言葉を溢した。
——それが本音ね?
「他の生徒にも同じ感覚なのかしら?」
ティーゼフにだけは、過剰に反応しているわよね?
——嫌い……ではないのよね?
もう少し、仲良くなれないなかしら?
「いえ。他の生徒は注意すれば嫌な顔はしますけれど、私には黙って従いますから、声を荒げたことはございませんわ」
オランジュは、キリッとした表情で私に真っ直ぐ伝えてきた。
——オランジュは圧があるからなぁ
「……風紀委員は嫌になりませんか?」
頼もしいけど……辛くないのかな?
「……生徒達から、陰で悪役令嬢と呼ばれているのは知っております。でも、私は風紀委員として正しいことをしているだけですわ」
オランジュは、ツンとして澄ました態度をしているけど……
——強がっているだけよね?
「ひとりで頑張りすぎじゃないかしら?」
他にも風紀委員はいるけど、オランジュほど頑張ってないわ。
「私のような過ちを犯してはダメです。未然に防がなければなりませんわ」
その思いは、オランジュの優しさから来ているのだろうけど……
——頑なになっているわね。
「オランジュ。もう少し力を抜きなさい」
私はわざと上級貴族らしい話し方をして、オランジュに命令した。
(ティト様が私に命令を?!)
オランジュは私の態度の急変に驚き、目を見開いて心の声を貫通してきた。
「貴方の評価が下がる方が、私は悲しいわ」
オランジュが私を信じてくれているなら、私が止めてあげなきゃダメよね?
「ティト様……はい。以後言動には気をつけますわ。ありがとうございます」
(私のためにお言葉を下さるなんて!やっぱり素晴らしい方だわ。ダリエとロアに共有しなくっちゃ)
オランジュは感動に涙ぐみながら、教室に入ってきたばかりのダリエとロアに、
視線をロックオンしていた。
***
午前の授業の後半から魔法学の授業があるため、ひとりで教室移動をしていたら……
「あれぇ?ティト様じゃん」
ティーゼフが、令嬢の壁を掻き分けてこっちに向かってきた。
ティーゼフやめて……
——周りの目が怖いわ。
ティーゼフに押しのけられてよろけた令嬢から、ガッツリ睨まれたけど……
——あなたを押し除けたのはその男よ?
「……ご機嫌よう。教室移動中ですので、失礼しますわ」
私は関わりたくないので、軽く挨拶をして足早に通り過ぎたつもりだったのに……
「え、教室移動なの? ならそこまで俺も一緒に行くよ」
そう言って、ティーゼフは横に並んで歩き出した。
「貴方ね……ティーゼフ、もう少し周りを見た方がいいわよ?」
私は、ティーゼフの空気の読めなさ具合に呆れてしまい、ため息が出てしまった。
「何それ? ティト様の説教?」
私がどう感じようが、ティーゼフはお構いなしなようね……
「分かってないようね? アズール様やヘルグラウ様も貴方を気にかけているわよ」
——何を考えているのかしら?
行動と距離が読めなさすぎるので、私はしぶしぶ能力をオンにした。
「ふーん……ねぇ、それより、今日俺と一緒にランチしようよ」
(二人とも俺を気にしてくれていたんだ……でも、今更変わったって遅いよな)
——あら?二人への想いはあるのね?
「随分と急ですわね? でも、私は約束があるから無理ですわ」
さすがに、婚約者を差し置いて他の令息とランチは無理よ。
——感性がズレてるわ。
「えー、じゃあ、明日は?」
(アズール様の婚約者なら、色々と話してみたいんだよな)
——アズ兄様と一緒ならいいかしら?
「……アズール様に聞いてみます」
アズ兄様はきっと「放っておけ」と言いそうよね……
「えー、アズール様は要らないよ」
(オランジュなら連れてきて欲しいな)
——え?
オランジュを御所望なの?
「……二人だけでは、流石に無理ですわ」
——ああ、もう。
ハッキリと口に出して言ってくれたら、オランジュにこだわる理由を聞けるのに……
「やっぱり無理かぁ。なら、お友達も一緒なら良い?」
(オランジュをぜひ連れてきて欲しいな!)
ティーゼフ貴方……
オランジュに近づきたいだけじゃない!




