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私の能力は『以心伝心』全部丸聞こえですわ。【第1章100話完結済】  作者: 黒砂 無糖
第2章 思春期のお話

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葛藤と安心



 ——可愛いよな。



 俺は話しかけてきたティトの言葉を聞きながら、ぼんやりと眺めていた。


 帰宅時間にヘルグが合流するまで、中庭のベンチでティトと二人で時間を潰していた。



 ……話が頭に入って来ない。



「……だから、ティーゼフはオランジュとお話がしたいだけみたいなの……アズ兄様? 聞いてますか?」


 ——しまった


 真剣に聞いていなかったことが、ティトにはバレていたようだ。


「……大丈夫。聞いてるよ」


 ティトが上目遣いで睨んでいるけど……


 ——可愛いだけだな


 実際に話は聞いてはいる。ただ、考えていなかっただけだ。


「じゃあ、アズ兄様はどう思いますか?」


 俺の能力『絶対記憶』はこんな時にはかなり役立つ。


 真剣に聞いていなくても、全て記憶しているから問題ないが……


「……放っておけば良いと思うよ」


 あの二人がどうなろうと……


 俺は、正直あまり興味がない。


「アズ兄様はそう言うと思いましたわ」


 ティトが俺に呆れた顔をして見せた時、


「なんだ二人とも? サロンじゃなくてずっとここにいたのか?」


 ユングの護衛から解放されたヘルグが、手を振りながら近寄って来た。


「ヘルグ兄様、丁度良いわ。ここに座って」


 ティトはヘルグを隣に座らせると、俺に話した内容と同じ話を伝えている。



 ——ティトは、他人のことばかりだな。



「……アズ兄様ったら、放っておけば良いって言うんですもの」


 ティトは俺を見てぷっと膨れた。


 ——まあ、その顔も可愛いんだけど



「アズールの言いたいことは理解出来るよ」


 ティトは話を聞くためか俺から目を離して、ヘルグの方を向いた。



 もう少し、婚約者の俺を見ていてくれてもいいと思うんだが……



「アズ兄様の気持ちがわかるのよ?でも、もう少し真面目に考えてもいいと思うのよ」


 ティトは、俺の太腿を小さな手でペシペシ叩いている。


 俺が咄嗟にその手を握ったのに、ティトは無関心だ。



 幼少期から一緒にいたせいか……


 ——男として見られてないよな?



「ティト。アズールに八つ当たりか?」


 揶揄われたティトは、ヘルグの頬をギュッと掴むと、目一杯横に引っ張っている。



 ——扱いだけなら、ヘルグよりはましか?



「もう。ヘルグ兄様なら真面目に聞いてくれると思ったのに!」



 ——いや、ヘルグの方が信頼されてるか?



「ヒィホ、ホメンっへ。ひゃへれはいはら、へをはあひへ」


 ヘルグは引っ張られたまま、ティトに謝っているようだ。



 ——何を言ってるのか分かるのが嫌だな


 古い付き合いだし、仕方がないか……


 

「二人とも相談してるんだから、ちゃんと聞いてください!」


 怒っているティトは、俺に手を握らせたままなので、その手をブンブンと振ってみた。


 ——されるがままだな


 実際、信頼されすぎても困るよな……



「アズ兄様、聞いてますか?」


 ティトの手で遊んでいたら、じっとりした目を向けられてしまった。


「ん? ああ、聞いてるよ」


 ティトは、目を細めて俺を見ている。


 ——ティトがまだ疑ってる。


「オランジュとティーゼフの話だろ? 構う方も騒ぐ方も、どっちもどっちだから、俺としてはどうでもいいんだよ」


 どうあれ、俺に迷惑が飛んでくるならやめてほしいとは思っている。



「それは……そうなんだけど……」


 ティトも納得はしているのだろう。さっきまでの勢いはなくしてしまった。



「なあティト、なんでそんなに二人のことが気になるんだ?」


 ヘルグはティトに真っ直ぐな質問をした。


「なんでかしら?」


 ティトは首を傾げて、質問してきたヘルグを見上げている。


「知るか。俺に聞くなよ」



 ——まただ。



 ティトは、いつだって最初は俺じゃなくヘルグを頼るんだ。


「あーなんだ……どうせティトのことだ。オランジュが心配なのと、ティーゼフはアズールの従弟だから気にしたんだろ?」


 ヘルグはいつだって、本人以上にティトのことをよく理解しているから……



 ——俺より、頼りたくなるんだよな。



「うーん、言われてみたらそうなのかも?」


 まさか……俺の従弟だから気にしたのか?


 ティトは首を捻り、まだ唸っている。



「ティト? わからないのか?」


 ——自分のことだよな?



「ティト、自分のことだろう?」


 フォローしたはずのヘルグも、さすがに突っ込んでいる。



「確かに心配もしてるけど……多分理由としては、どちらも騒ぎが大きくなるとアズ兄様の迷惑になるのが嫌だから……かしら?」


 ティトは考え込むあまり、さらに首を捻っていく。


「俺の、せいか?」


 俺のために、ティトは悩んでいたのか?


「アズ兄様のせいだけじゃないわ。でも、アズ兄様は何かあっても、ひとりでなんでも抱えちゃいそうだから心配なだけよ」


 ティトはそう言って、繋がれた俺の手を握りしめた。


 ——ティト……優しいな


「あー、アズールはその癖があるよな」


 ティトだけじゃなくヘルグまで……



 ——心配……してくれていたのか?



「二人ともありがとう。何かあったら速攻で、確実に潰すから大丈夫だ」



 ——しっかりしなければダメだな。



 俺の大切な人に、これ以上心配をかけるわけにはいかない。



「アズ兄様? それ、全く大丈夫じゃないわ」


 潰すのはダメよ! と、ティトは俺に掴み掛かり揺さぶっている。


「……物騒なことになる前に教えてくれよ」


 ヘルグは、揺れる俺を見て苦笑いしてる。


「まあ、ことが大きくなる前に、とりあえず一度ティーゼフに話を聞いてみるよ。馬車を待たせているし、そろそろ帰ろうか」


 俺はティトの頭を撫で、ヘルグに笑いかけ、三人で迎えの馬車に向かった。



 ——ティトもヘルグも変わらない。



 いつの間にか……


 ——俺の心が狭くなっていただけだ。

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