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私の能力は『以心伝心』全部丸聞こえですわ。【第1章100話完結済】  作者: 黒砂 無糖
第2章 思春期のお話

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真面目に不真面目


「城に遊びに行くことになるなんて……」


 帰りの馬車の中、アズ兄様とヘルグ兄様の前で、私は盛大にため息をついた。


「ティトは城に行くのが嫌なのか?」


 隣に座っているアズ兄様が、心配して私の顔を覗き込んだ。


「淑女として、準備が面倒なんですよ」


 ドレスもだけど、手土産にお礼状もつけなければならないわ……


「側近として行くし、特別気にしなくても大丈夫じゃないか?」


 ヘルグ兄様は、アズ兄様に「なあ?」と同意を求めている。


「え? いいのかしら?」


 でも、お母様は許してくれないわ……


「自由で構わないよ。ティトが正装するなら、パートナーの俺もしなきゃダメだろ?」


 婚約者のアズ兄様が大丈夫だと言うなら、私も平気なのかしら?


「……確かに?」


 それなら、お母様も納得よね?


「ティトは城に憧れてないんだな? 普通、令嬢は城の訪問に憧れるだろ?」


 ヘルグ兄様は、私が普通じゃないと言いたいのかしら?


「だって……」


 私が、言葉に詰まっていたら、


「ああ、ごめんな。ティトの場合、色々聞こえてきそうだよな?」


 ヘルグ兄様は、私の言いたいことを理解したみたいね。


「……当日は三人で向かおう」


 アズ兄様も、分かってくれたようだわ。


「でも、お城に招待されて喜ばないなんて、本当に令嬢らしくないですよね……」


 普通なら、喜ぶわよね?


「ま、それがティトのいいところでもあるんだから気にするな」


 ヘルグ兄様にフォローされ、アズ兄様も私の頭を撫でて慰めてくれた。



 ——私、やっぱり甘やかされてるわ。



「あ、そうだ。アズ兄様、ティーゼフのことなんですが……」


 一応相談しておこう。


「あいつが何かしたのか?」


 アズ兄様は、ティーゼフがやらかすのが前提なんですね?


「した……のかな?」


 どちらかと言うと、未然に防ぎたいのよ。


「ティーゼフ? 久しぶりに名前を聞いたな」


 ヘルグ兄様が「懐かしいな」と笑った。


「あのバカ、編入してきたからヘルグも気をつけろよ」


 アズ兄様、バカはさすがに失礼では?


「あはは、二人は相変わらずだな?」


 ヘルグ兄様、アズ兄様の忠告を笑い飛ばしているわ……


「ヘルグ兄様もお知り合いだったの?」


 今まで、聞いたことなかったわ。


「まあ、アズールとは幼馴染だからな。で? ティーゼフが何かしたのか?」


 そっか、二人は私に会う前からずっと一緒だったわね?


「実は、今朝の話なんですが……」


 私は、アズ兄様とヘルグ兄様に、今日の出来事を伝えることにした。


「……フルオリート嬢は、ティーゼフを覚えてなかったのか?」


 ヘルグ兄様に尋ねられたけど……


「お知り合いでしたの?」


 ……そんな話は聞いていないわ。


「昔、彼女の親が城に店の許可を取りに来た時、彼女は迷子になって、ティーゼフが見つけて、俺の所まで連れてきたんだ……」


 アズ兄様は迷惑そうな顔をしているわ。



 もしかして……



「ご想像通り、その時に、フルオリート嬢はアズールに一目惚れしたんだよ」



 ——やっぱりね。



 ヘルグ兄様は、ニヤニヤと笑いながら話を続けている。


「アズールは一言も喋らなかったのに、彼女は一方的にずーっと話しかけたのを、ティーゼフは真横で見ていたんだけどね」


 それなのに、覚えていなかったの?


「オランジュは、ティーゼフのことを全く覚えていないようでしたわ」


 昔のオランジュなら仕方がないか……


「フルオリート嬢は、あの日、アズールしか見てなかったからな」



 ——でしょうね。



「ヘルグ、余計なことはいい」


 アズ兄様は、不機嫌そうにしている。


「アズ兄様、本当に苦手だったのね?」


 最近は、平気そうだけど……



「今でもティト以外は苦手だ」



 アズ兄様は、ブスッとしながら私の手を握っている。


「アズールはティトのおかげで、最低限の対応くらいはできるようになったよな?」


 ヘルグ兄様は、その姿に呆れている。


「お前最近、俺にも厳しすぎないか?」


 アズ兄様は、向かいに座るヘルグ兄様の脛をコツコツと蹴っている。


「イテッ、コラ蹴るな。これでも褒めてるんだぞ? まあ、ティーゼフからしたら、衝撃的だったんだろうな」


 ヘルグ兄様は、器用にアズ兄様の足を足で弾きながら避けている。


「……そうね。オランジュは淑女教育をやり直してから、簡単に感情を表に出すことはなくなりましたし」



 ——今では立派な淑女ですわ。



「昔を知ってるなら、見違えただろうな」


 アズ兄様も、それには同意のようね?


「今じゃしっかり者で姉御肌、パッと見、悪役令嬢な力強い女性へと成長したからな」



 ヘルグ兄様……


 ——悪役令嬢は褒めてないと思うわ。



「だからでしょうか? ティーゼフがオランジュに興味を持ったみたいで、無駄に絡んでいるのよ」


 このままストーカーになったら困るわ。


「……アイツならやりそうだな」


 アズ兄様は、想像がついてしまうのか、頭を抱えている。


「彼女が声を荒げるなんて、今じゃ考えられないから、ティーゼフの驚きは余程だったんじゃないかな?」


 ヘルグ兄様は、ティーゼフの気持ちが理解できるのかしら?


「ティーゼフのやつ……一度本気で締めるべきかもしれないな」


 アズ兄様、そこまでしなくても……


「今は、まだ大丈夫だと思うわ」


 お互い、再び知り合ったばかりだもの。


「だが、このまま野放しにすると、グランディエラ家の品位が下がる」


 アズ兄様は渋い顔をしている。


「それは……そうね」


 彼もグランディエラ家を名乗るのよね……


「今のフルオリート嬢からしたら、ティーゼフは天敵だろうな」


 ヘルグ兄様は、想像しているのか含み笑いをしている。


「……アイツは自由だからな」


 アズ兄様はティーゼフを鼻で笑った。


「自由とも違うかも。ティーゼフは真面目に不真面目だよ?」



 ——真面目に不真面目?



「何それ?」


 真面目なのか不真面目なのかどっち?


「んー、なんていうか、全力で不真面目をやってるんだ。あいつ、元は真面目だよ」



 ——ティーゼフが真面目?


 ヘルグ兄様の目は、節穴ですか?

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