色々面倒くさいわ。
「オランジュ様は、歳下はお嫌いですか?」
ダリエとロアは、オランジュの話を聞きながら、キラキラした目を向けている。
「嫌いも何も……ダリエ、ロアもそんな目で見ないでくださいませ」
オランジュは二人から顔を背け、助けを求めるように私に目を向けた。
「グランディエラ様、いえ、ここはあえてティーゼフ様と呼ばせて頂きますわ」
ダリエは、オランジュを逃すまいと彼女の手を握り、視線の内側に入り込んだ。
ティーゼフはアズ兄様と同じ家名だから、確かにややこしいわ。
「私とロアは話を聞く前から、ティーゼフ様がオランジュ様を気に入ったのではと、思っていたのです」
ダリエとロアは、目を合わせてお互いに頷き合っているけど……
——女の勘ってやつかしら?
「それは……ありえませんわ」
オランジュは、顔を青くしながらフルフルと首を振っている。
オランジュ、なんだか顔色が悪いわ……
「でも、彼はわざわざ教室までついてきたのでしょう?」
ティーゼフが付き纏ったから、オランジュは怒鳴りつけたのよね?
——ティーゼフが怖かったのかしら?
彼はこのまま、オランジュのストーカーにでもなるつもりかしら?
「……揶揄われているだけですわ」
オランジュは困っているみたいね……
なんとかしてあげなくちゃダメかな?
「そうかしら? ティト様はティーゼフ様のお気持ちについてどう思われますか?」
ロア、それは、私に聞かないで……
——わかるわけないじゃない!
「私もティーゼフには、先程初めてお会いしたばかりだから、話を聞いただけではよくわかりませんわ」
実際、ティーゼフは、アズ兄様にコンプレックスがあるみたいだし、気持ち的には……
——多分、今は興味本位でしょうね。
でも、わざわざこの場で彼のコンプレックスを彼女達に口にすることじゃないわよね。
——それより、今はストーカー行為よ。
「オランジュ様はティーゼフのことが嫌いなのでしょうか? それなら、今後近づかないようにお伝えしますが……」
変な噂が立つ前に、オランジュの立場を守ってあげなければね。
「嫌い、ではないですが、彼の方、デリカシーがなさすぎて……」
——あら、嫌いではないのね?
なら、一旦様子見でいいかしら?
「それは……否定できませんわね」
ティーゼフはデリカシーだけでなく、貴族として大切なことを、どこか遠くに置いてきたみたいな人だから、
関わるのは面倒くさいし……
——今のオランジュと、真反対な性格ね。
悶々とした気持ちで答えが出ないまま、私は後半の授業を受けることになった。
***
「ユング王子、学園春期祭の資料はこちらに置いてもよろしいですか?」
私は授業後に、学園内にある王子の執務室で、今は側近としてお手伝いをしている。
「ああ、そこの箱に分けて入れてくれ」
王子が示した箱には、剣術、魔術、祭り、と箱が分けられている。
「ティトは四年生になりましたし、今年から本格的に行事に参加するのですよね?」
リリお姉様も、王子の手伝いをしている。
「はい。今までは見ていただけでしたから、参加できるのが楽しみですわ」
準備は大変そうだけど、色々な実行委員がやれるのよね。
——何をしようかしら?
楽しみでワクワクしていたら、
「……ティトは、実行委員は出来ないよ」
ヘルグ兄様から、悲しい知らせを受け取ってしまった。
「……え? なぜでしょうか?」
お祭りなんて……準備が一番楽しいのに。
——ショックだわ。
「春期祭の準備期間、授業がない時は、ユングの側近として動くからだよ」
アズ兄様は振り返りながら、知らなかったのか? と、首を傾げた。
「あ、忘れてました」
そうだった……
——私、王子の側近だったわ。
「ティト? 今その仕事をしているんだが?」
王子が、顔をひくつかせている。
「ユング王子、大変失礼致しました。アズ兄様、困った子を見るような目で私を見ないでくださいませ……」
ヘルグ兄様と、リリお姉様は声を殺して笑ってるし……
だって、いつものメンバーだから。
——つい、忘れちゃうのよ。
今年、ここにいるみんなが卒業するなら……
「来年なら、実行委員は出来ますか?」
私だって、準備に参加したいわ。
王子が学園にいないなら、参加出来るかもしれないと、確認してみたけど……
「ティト、来年はインターンだよね?」
アズ兄様によって、わずかな希望まで打ち砕かれてしまったわ。
今まで学園祭は、見てるだけだったから、ぜひ参加したかったんだけどな……
「因みに六年生は、イベントに参加するか、研究室に顔を出すだけだし、授業すらほぼないから。無理だよ」
ヘルグ兄様……最後の希望を折りに来ないでください。
——全部、側近になったせいだわ。
私がキッと王子を睨むと、王子だけでなくリリお姉様まで慌てて下を向いた。
自分達のせいだと分かってるみたいだし、まあ、仕方がないか……
「……アズ兄様と、ヘルグ兄様は毎日学園に来ますよね?」
王子は、私のジトッとした眼差しに恐る恐る顔を上げ、
「アズールは優秀ゆえに参加する研究が多いし、ヘルグラウも後輩指導に先生から駆り出されているから学園に来ているだけだ」
本当なら僕の側にいて欲しいのに……と、王子はボヤきながら再び顔を伏せた。
——知らなかったわ。
アズ兄様とヘルグ兄様に関することで、私が知らないことも結構あるんだな……
二人を見たら、アズ兄様もヘルグ兄様も私と目が合うと、自慢げにニヤッと笑った。
——二年後までに、私も追いつかなきゃ。
「そう言えばリリお姉様、妃教育の進行具合はいかがですか?」
リリお姉様は、インターンは行わず婚約が決まってからずっと妃教育よね?
……リリお姉様こそ、学園生活を堪能してないのかもしれない。
「ユング王子が、ご協力してくださるから順調に進んでいますわ」
リリお姉様は、可愛らしくユング王子に微笑みかけると、王子も優しい笑顔を向けた。
——相変わらず、仲睦まじい二人だわ。
私は、手元の資料を振り分け終わると、王子の確認済みの資料をまとめ始めた。
「そうだ! ティト、今度遊びに来ないか?」
急に顔を上げたユング王子が、気軽に誘って来たけれど……
——城に行くなら正装よね?
王子に面倒くさいとか、思っちゃダメよね?




