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私の能力は『以心伝心』全部丸聞こえですわ。【第1章100話完結済】  作者: 黒砂 無糖
第2章 思春期のお話

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風紀委員と問題児


 オランジュが話し始めると同時に、先生が来てしまい、残念ながら話は中断した。



「ティト様、小休憩の時にまた聞いてくださいませ」


 オランジュの話が非常に気になったけど、私達は侍従専攻の授業に集中した。



 授業は『お茶会での侍従のあり方』だった。


 グループ内で侍従役を交代しながら、実演後にディスカッションするのだけれど……



「ティト様は、何をやっても完璧ですわ」


 ダリエは手放しで褒めてくるし……


「……本当に幸せな時間でしたわよね」


 ロアはうっとりしているし……


「ティト様にお茶を淹れて頂くなんて……」


 オランジュは打ちひしがれてるわ……



 ——これ、役に立つのかしら?



 教えられた通りに出来てはいるはずだけど、このグループレッスンじゃ、私、ちっとも成長出来そうにないわ……



 ——今度、アズ兄様達に見てもらおう



 実際にお支えする相手に見てもらうのが早いだろうな、と考えていたら、小休憩の時間になった。




 ***




「オランジュ、聞かせてくださいませ」


 待ちかねていた休憩時間になったので、オランジュに話の続きをせがんでしまった。



「……はい。今朝の始業式、私は風紀委員として式典会場に向かっておりました」


 ——オランジュ、なんだか不本意そうね?


 彼女の表情は、複雑そうだった。


「新入生の中に、彼はいたのですが、なんて言うか……」


 彼女は話し始めると同時に、眉根をキュッと寄せた。


「制服を……かなりだらしなく着用していたので、私は注意をいたしました」



 ——ティーゼフ?!



 彼、本当にアズ兄様の従弟なのかしら?



「思い返してみても、どうしてこんなことになったのかよくわからないのです……」


 オランジュは、朝の出来事を思い出しながら私達に話してくれた。




 ***




 ——嫌だわ、みっともない。



 シャツがスラックスから出てますわ……ボタンも外してるし、ネクタイの意味がありませんわね?



「そこの貴方、お待ちなさい。その制服の着こなしはなんですの?」


 風紀委員として、問題児を見逃すなんてことは出来ませんわ。



「あ?なんか文句あんの?」


 彼は振り返るなり、私を不満げに見た。



 ——まあ、睨みつけてきましたわ。



 ご自身の今置かれている立場が、わかっていないようですわね?



「私は風紀委員です。今すぐに制服を正しく着用なさってください」


 校則違反以前に、人として問題ですわ。


「えー、堅苦しいの嫌いなんだよ」


 目の前の男子生徒は、ガシガシと頭をかきながら文句を言ってきた。


 着衣の乱れは、心の乱れだと言うのに……もしかして、知らないのかしら?


「学園内です。定めに従ってくださいませ」


 無知ならば、教えて差し上げなければ。


 ——私は、風紀委員なのですから。


 キリッと気持ちを整えて、目の前の男子生徒を睨みつけると、


「んだよ、ピリピリしちゃって、せっかく可愛い顔してるのに。冷たいなぁ」


 彼は、ヘラヘラと笑いながら私が冷たいと悪態をついてきた。


 ——言われ慣れてますわ。


 私は風紀委員になって以来、陰で生徒たちから『悪役令嬢』と呼ばれていますもの。


「なんと言われても構いませんわ。制服ひとつまともに着用出来ない貴方に、優しくする必要も感じませんから」


 元から勝気な性格で、見た目も派手だし。


 ——私、真顔が怖いのよ。


 何て言われても、生徒達には私と同じ過ちを起こさせてはいけないのよ。


「ハイハイ、風紀委員のオネーサン、名前は? 教えてくれたらちゃんと着るよ」


 私の睨みを無視して、男子生徒は私の名前を交換条件で尋ねてきた。



 ……とりあえず、服を正しく着てくれるならなんだっていいわ。



「……オランジュ・フルオリートですわ。早く着衣を整えてください」


 私が素直に名前を名乗ると、男子生徒が驚いたような表情をした。


「……オランジュ?」


 男子生徒は、窺うように名を呼んできた。


「勝手に名前を呼ばないでくださいませ」


 ——何よ。私を知っているの?


 それよりも、貴方に名を呼ぶことなど、私は許していないわ。


「オランジュって、アズール様を追っかけ回していた奴じゃん」


 嫌だわ。過去を掘り返すだなんて……


「……昔の話です」


 ——なんてデリカシーのない人かしら?


「俺さ、そのアズール様の従弟だよ。ティーゼフブラウ・グランディエラ」


 男子生徒は、ニヤリと笑うと自己紹介をしてきた。


 ——この方がティーゼフブラウ様? 


 よりによって……グランディエラ家の分家の方だったの?


「……!」


 だったら、尚のこと紳士としての振る舞いをして頂きたいですわ!


「オランジュ、アズール様は諦めたの?」


 彼が目の前で着衣を整え始めたので、私は慌てて目を背けていたら……


 ——もう、余計なことを聞いてきたわ


「諦めるも何も、かつての私はあまりにも無知で、グランディエラ様にご迷惑をおかけしただけですわ」


 ——私の罪は、消えないですわ。


 だからこそ、今は淑女として正しい行動を選んでいるのよ。


「ふーん、オネーサンなんかいいね」


 従弟だからでしょうか?


 フッと笑った彼の眼差しはどことなく……



 ——アズール様に似てるのね?



 かつて恋焦がれた相手に、少しだけ似ているからでしょうか……



「……変な呼び方しないでくださいませ」


 私は、彼の笑顔に思わずドキッとしてしまった。


「じゃあ、オランジュだな。俺のことはティーゼフでいいよ」


 初対面の異性なのに、家名で呼び合わないなんて……


 ——彼、距離感がおかしくないかしら?


「どちらもお断りですわ。なんで私が貴方の名を呼ばなければならないのです」


 私は周りから、余計な誤解や詮索をされたくないですわ。


「え? グランディエラだと呼び難いだろ?」


 彼は、意味ありげにニヤッと笑った。


「あっ……」


 ……そうでした。従弟でしたわ。


 言われてみれば……グランディエラ様とは、口にし難いですわ。



「あはは、じゃあ俺、そろそろ会場に行くわ。オランジュ、またね」


 着衣を正しく纏ったティーゼフ様は、手を振りながら颯爽と去っていきました。



 ——名前呼びは、許していませんわ!


「お待ちなさい! 勝手に名前を……」


 追いかけようと思いましたが、始業式が始まってしまうため、私は諦めて来賓の待機室に向かいましたわ。



 ***



「たったそれだけだったのですが……始業式の後、教室まで着いてきて、許してないのに、名前で呼んできたので、つい……」


 それで、オランジュは廊下で、大声を出してしまったのね……


「ティーゼフには私もさっき会ったわ。彼は外国で生活していたから、ちょっと感覚が違うのかも知れないわね」


 悪い人ではないだろうけど……



 ——彼、掴みどころがないのよね。



「そうなのですか? 私には、過去の過ち……グランディエラ様の件を、揶揄っているようにしか思えませんわ」


 オランジュは、ウンザリした顔をした。


 ——確かに……そうかも知れないわ。


 アズ兄様に関係したからこそ、ティーゼフはオランジュに絡んだんだろうな……

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