なんか……違うんだよなぁ
「じゃあ、ティト、また後で迎えにくるよ」
アズ兄様は、私の頭をポンと撫でてから自分の教室へ戻って行った。
「はい、よろしくお願いします」
教室から私の背中に向けられる視線には、未だに慣れないわ……
私が振り返ると、いつも見ていたはずの人達は、さっさと目を逸らすのよ。
そんなことより……
——アズ兄様の従弟、変わった人だったな。
「えっと、次は侍従専攻の授業だから……」
教室には戻ってきたけど、今からダリエとロアと教室を移動しなきゃいけないのに、二人の姿が見当たらない。
——先に行こうかしら?
ちょっと急がないと、私の歩く速さじゃ、待っていたら遅れてしまうかもしれないわ。
そう考えて、入り口を振り返ると、
「ティト様!申し訳ございません。大変お待たせしてしまいましたわ!」
ロアが息を切らしながら、教室に飛び込んできた。
「ロア、どうかしたのですか?」
普段なら、ダリエと教室にいるはずなのに、今、外からきたわよね?
「今日はちょっと、外で……ダリエと一緒にオランジュ様の話を聞いていたので、少し遅れてしまいました」
ロアは、上がっていた息を整えると、
「ティト様、教室を移動しましょうか」
と、私の横に並んだ。
「ロア、あなたまさか、お話の最中に抜け出して、私を迎えにきてくださったの?」
——移動教室のためにわざわざ?
「話はダリエが聞いておりますから、情報面ならご安心ください。私よりも、彼女の方が聞き上手ですから」
ロア……私、どんな気持ちで聞けばいい?
「私は、ダリエとロアに情報収集を頼んだ覚えはないのですが……」
——いつの間に、そんなことになったの?
私は歩きながら、なんでそんなことをしているのか、ロアに尋ねてみた。
「ティト様、どんな情報でも、社交界を渡り歩くのに持っていて損はありませんわ」
それはそうなんだけど……
「淑女が表立って情報を集める行為は、あまり上品ではありませんから、そのような瑣末事は私達にお任せくださいね」
いや、それは……
「それは、ダリエとロアも、一緒のことではありませんの?」
あまり美しい行為ではないわよね?
「ご心配ありがとうございます。私とダリエは、決してティト様の価値が下がるような、下品な行為は致しませんわ」
——違う。そうじゃないわ。
「私のことは、気にしなくていいのよ?」
二人が損をするようなことは嫌なのよ。
「ティト様……私とダリエは、もしかして必要ありませんか?」
ロアは立ち止まると、プルプル震えながら私を見つめている。
「そんなことないわ! 二人がいてくれて私は心強いのよ。ただ、お友達を利用するような関係は望んでないんだけど」
私の言葉に、ロアはパァっと笑顔になり、
「なんてお優しい……ティト様、私達は利用されたなんて思いませんわ。ただ、ティト様のお役に立ちたいだけです」
——うーん、困ったわ。
完全な好意で動いてくれてるからこそ、複雑な気持ちになるんだけどな……
「……ありがとう。でも、決して無理はなさらないでね?」
——ダメだわ
これ以上は、否定出来ないわ……
***
「ダリエは……まだきていませんね?」
侍従専攻の授業はグループレッスンなので、いつも三人で四人掛けのテーブル席を利用している。
「ティト様、ダリエはすぐに来るでしょうから、先に座りましょう」
ロアと一緒にいつもの席に着席して、授業の準備をしていたら、
「ティト様、今日はオランジュもご一緒の席についてもよろしいでしょうか?」
ダリエが、オランジュと一緒に私の元まで近づいてきた。
「構いませんわ。よろしくお願いします」
——珍しいわね?
いつもは、別のグループにいるのに……
「シュピネル様、お許し頂きありがとうございます。精一杯頑張りますわ」
——オランジュ、目が輝いてますわ
「ティト様、オランジュとは、お話すればするほど、私とロアと同等の感性の持ち主だと知れて驚きましたわ」
ダリエが嬉しそうに微笑みながらオランジュを見ている。
「ダリエ……私はお二人ほどティト様に近くはありませんわ」
あら? 二人とも敬称がないわ
——かなり仲良くなったのかしら?
「オランジュ様、私とも仲良くしてくださいませ。今から授業もご一緒しますし、私のことはロアと呼んでくださいませね」
すかさず、ロアは自分のことも敬称を外すように求めている。
「まあ!良いのですか?でしたら、ぜひ私のこともオランジュと呼んでくださいませ」
オランジュとロアも仲良くなれそうね。
——ねえ、私は?
「オランジュ、私のことも、ティトと呼んでいいのよ?」
そろそろ、仲良くなれないかしら?
「そんな、シュピネル様を名前呼びなんて滅相もございません!」
——ダメかぁ
がっかりだわ。と、しゅんとしていたら……
「……オランジュ、ティト様のご希望を叶えることが出来ないなら、今後、お仲間にはなれませんことよ?」
ダリエの後押しはありがたいけど……
——やっぱり何か違うわ。
「そうですわ。ティト様を悲しませるなんて、決してあってはなりません。お支えしたいなら拘りはお捨てください」
ロア?何を言っているのかしら?
「私としたことが……失礼致しました。お二人のご助言に感謝致しますわ。恐れ多いですが、ティト様と呼ばせて頂きますわ」
オランジュ……私達は友達よね?
——思っていたのと違うんだよなぁ
満足そうなダリエとロアを見ながら、私は微妙な気持ちになってしまった。
「ティト様、ご報告なのですが、オランジュのお相手は一学年下の、ティーゼフブラウ・グランディエラ様でした」
——はえ?ティーゼフ?
悶々としていたら、ダリエから聞き覚えのある名前が聞こえてきた。
「オランジュ様は、彼から何かとちょっかいをかけられているようですわ」
ティーゼフ、何してるの……
「ちょっかい……ですか?」
——アズ兄様に怒られるわよ?
「その……ティト様に、ご相談したくて」
オランジュは困ったような笑顔で、私たちに、ティーゼフとの関係を語り始めた。




