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私の能力は『以心伝心』全部丸聞こえですわ。【第1章100話完結済】  作者: 黒砂 無糖
第2章 思春期のお話

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「軽薄」な後輩

「アズール、ティト、今日の授業後、会議室でまた会おう」


 ランチ後、名残惜しそうなユング王子は、リリお姉様とヘルグ兄様に押し出されるようにサロンを出た。


「……ユング王子は、面白いですね」


 ユング王子はサロンから一歩出ると、雰囲気がガラリと変わり、颯爽と完璧な王子としての立ち居振る舞いで去っていく。


「ユングは……俺たちといる時くらいしか気が抜けないから。我慢してやって」


 アズ兄様は、ユング王子をフォローして、私の手を取った。


「……アズ兄様?」


 アズ兄様は、なぜか私の手をじっと見てぼーっとしている。


「あ、いや、行こうか?」


 私に話しかけられて、はっとしたアズ兄様は、何事もなかったかのように教室に向かって歩き始めた。


 ——なんだか変よね?


 私は周りに防音結界を張り、様子がおかしなアズ兄様に声をかけてみる。


「アズ兄様、先程から様子がおかしいですわ。何か気になることでも?」


 久しぶりの学園だし、疲れたのかしら?


「……おかしいかな?だとしたら、少し考えすぎなだけだよ」


 アズ兄様は、口角を無理に上げて大丈夫だと、私の手をぎゅっと握った。


「私に隠し事はなしですよ?あんまりおかしかったら、本心を聞いちゃいますからね?」


 こんな脅しみたいなことは、したくはないけれど、アズ兄様は一人で抱え込みそうだから心配だ。


「今は勝手に聞くのはやめて?ティトが心配するようなことじゃない。本当に気にしないで」


 ——やっぱりおかしい。


 いつものアズ兄様なら、私になら聞かれても構わないと笑って言うのに……


 でも、もう子供じゃないし、側近として聞かれたくないことくらいあるわよね?


「無理には聞きませんよ。でも、私に出来ることならいつでも相談に乗りますからね?」


 私がアズ兄様を手伝えるとしたら、能力を秘密に使うことくらいだわ。



 天気がいいから、廊下の突き当たりにある中庭を横切ろうとしたら、


「あ、アズール様だ。へぇ、その子が噂の婚約者様?」


 中庭のベンチで、足を広げてだらしなく座っていた青年が、アズ兄様を見て足早に近寄ってきた。



 ——何この人?!


 アズ兄様にそんな話し方をするなんて……



 私は軽薄な態度に驚き、恐る恐るアズ兄様を見たら、



「お前……そうか、今年からだったな。お前の不利益は俺には関係ないが、周りの目は気にした方がいいぞ」


 氷点下の眼差しかと思えば、呆れたような、ダメな子を見るような目をしていた。


「あー、もう、アズール様は相変わらず固いなぁ。そんなんじゃ、婚約者に愛想つかされちゃいますよ?」


 青年は忠告を無視するだけでなく、へらへらと笑いながらアズ兄様に忠告をした。


「ティーゼフ、黙れ。それより、彼女にちゃんと挨拶をしろ」


 ティーゼフ?どこかで聞いたような……?


 アズ兄様に叱られたティーゼフは、姿勢を正すと、


「シュピネル様、お初にお目にかかります。アズール様の従弟のティーゼフブラウ・グランディエラと申します」


 さっきとは打って変わって紳士的に挨拶をしてきたと思ったのに……


「以後お見知りおきを」


 と言いながら、ニヤっと笑った。


 アズールの従弟と名乗ったティーゼフは、深海の青のような瞳で、わたしを興味深そうに見ている。


 ——アズ兄様にどことなく似ているわ。


「初めまして。ティーフロート・シュピネルと申します。えっと、ティーゼフ様とお呼びすればいいのかしら?」


 アズ兄様との関係性が、いまいちよく分からないので、アズ兄様に確認してみた。


「ティーゼフは、ティトの一個下だし、こいつは格下だから敬称はつけなくていいよ」


 アズ兄様にしては、随分と雑な扱いね?


 私が、ティーゼフとの距離感を掴みあぐねていたら、


「俺のことは呼び捨てでいいですよ。今まで親の仕事で他国に留学していて、今年帰って来たばかりなんです」


 ティーゼフは空気を読んだのか、わざわざ自ら説明してくれた。


 だから彼を見たことがなかったのね……


「学園のことはよくわかんないから、これからよろしく!ティト先輩」


 ティーゼフはガッと私の手を掴むと、ブンブンと握手してきた。


「おい、勝手に触るな」


 アズ兄様は、ティーゼフの手を振り払い、私の手を取ると洗浄魔法をかけた。


「えー、アズール様、俺の扱い酷すぎない? ティト先輩、本当にこんな堅物が婚約者でいいんですか?」


 ティーゼフは言いたい放題言ってしまう性格なのだろう。


 ——ど、どう対応するのが正解かしら?


 前世ならまだしも、今世ではこのタイプに会ったことがないので、言葉に詰まっていたら、


「ティーゼフ?これ以上彼女の前で失礼な態度をとるなら、俺の考えを改めなければならなくなるぞ。それでもいいんだな?」


 アズ兄様が、なぜか優しい物言いでティーゼフに向かってにっこり笑うと、


「おっと、俺はそろそろ教室に戻らなきゃ! アズール様、ティト先輩またね!」


 ティーゼフは、おどけた様子で走り去っていった。


 ふと横を見ると、アズ兄様は……


 明らかに機嫌が悪い。


 ——冷笑って言葉がぴったりね?


「アズ兄様?大丈夫ですか?」


 さすがにこの顔のままじゃ、皆が怖がってしまうと思ったので、アズ兄様の手を握り、


「アズ兄様は堅物なんかじゃないですよね? いたずらが大好きですし」


 と、私的には面白いところもあると褒めたつもりだったんだけど、


「ティト、全くフォローになってないし、空しくなるから無理しなくていいよ」


 と言って、眉根を下げた。


「あら?褒めたのにおかしいですわ」


 ——まあ、冷笑ではなくなったからいいか


「余計な時間を使ったな。さあ、俺達も教室に向かおう」


 アズ兄様は、苦笑いをしながら私の頭をポンポンと叩いた。


「……婚約者として、不満はありませんよ?」


 アズ兄様は疲れていたはずだし、余計な心配をしないように、ティーゼフの言葉は否定しておこう。


「……ティーゼフは俺を越えられないからって、俺とは逆に軽薄になっていったんだ。ある意味俺のせいなのかもな」


 ——それは……彼の責任では?


 アズ兄様にしてみれば、彼も悩みの種のひとつなのだろう。


「……バカだから、気をつけて」


 アズ兄様は大きなため息を吐くと、ペットセラピーのように私の頭を撫でていた。

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