マスコットガール
「ティト、手を」
先に馬車から降りたアズ兄様が、私に向かって手を差し出している。
「……アズ兄様のバカ」
私が赤面したり、文句を言ったりしている間に、馬車は学園の正面入口にたどり着いてしまったわ。
言い足りない文句を飲み込んだけど、口からちょっとこぼれだした。
「ティト、ほら、さっさと降りて」
さっきの話がなんだか恥ずかしくて、アズ兄様の手を握るのを躊躇していたら、ヘルグ兄様が後ろから急かしてくる。
「……ヘルグ兄様の意地悪」
私は、仮にも上位の貴族令嬢なので、こちらを見ている人にバレないように、淑女らしい微笑みのまま、文句を言った。
3人並んで、貴族らしい紳士淑女の振る舞いで学園内に進んでいくと、
「まぁ、グランディエラ様だわ! 今日も麗しくて素敵ねぇ」
「あら、フェルトシュパート様の方が、逞しくて素敵だわ」
「ほら、ティト様よ、今日もお人形のように可愛らしいわぁ」
それぞれが正式に婚約を済ませたからか、私達を取り巻く人達から届く声の、意味合いが変わったように思う。
(……なんで私だけ、マスコットみたいな扱いなのかしら……)
ちょっと気になったので、私は二人に念話で話しかけた。
(それはティトがちっ……可愛いからだよ)
(アズ兄様、何が言いたいのかしら?)
(ティトは、ちっちゃいからなぁ)
(ヘルグ兄様、もう少しマシな言い方がありますわよね?)
私達は、念話で言い争いをしながら、顔だけはにこやかに、教室へと向かう。
(全くもう! アズ兄様、虚しいから誤魔化さないでください。あと、ヘルグ兄様は、もう少し遠慮して!)
(ティト、可愛い眉間に皺が……)
(……誰のせいですか。アズ兄様に可愛いって言われても、もう誤魔化されません!)
私は、怒りつつ眉間に力が入らないように意識しながら、出来るだけ綺麗に微笑んだ。
(ティト、可愛いから大丈夫だ。だけど、ちっちゃいのは認めろ)
(ヘルグ兄様! 十分知っているので、何度もちっちゃいと言わなくて結構です!)
折角顔が安定したのに、ヘルグ兄様のせいで眉間にギュッと力を入れてしまった。
「じゃあ、ティト、また後でね」
(お昼に迎えに来るよ)
ヘルグ兄様は騎士科に向かい、アズ兄様はいつものように私を教室まで送ってくれた。
「アズール様、教室まで送っていただき、ありがとうございました」
(わかりました。お待ちしてます)
私はアズ兄様から鞄を受け取り、感謝と色々な気持ちを込めて、微笑みを浮かべた。
去り際に、アズ兄様が笑いながら私の頬をムニっと軽く摘んだ瞬間
「「「きゃー!!」」」
教室内のご令嬢が一斉に騒ぎ出した。
令嬢達の角度からは、アズ兄様が私の頬を撫でたように見えたのだろう……
——アズ兄様、また余計な事を
アズ兄様がスキンシップ過多なのは、今に始まったことじゃない。
やれやれ、と思って席に着いたら、
「ティト様、おはようございます」
「ティト様、今日も仲睦まじいですわね」
ダリエと、ロアが教室に入ってきた。
二人は、いつも通りに、私を挟んだ席に荷物を置いた。
「ダリエ、ロア、話を聞いてくださいませ。アズール様もヘルグ兄様も、私のことをちっちゃいと言うのです。酷いですよね?」
私の悔しさは、令嬢である二人になら分かって貰えるはずだと相談した。
「まあ、ティト様のことを?」
「ちっちゃいと言われたのですか?」
私は、二人が話を聞いてくれそうなのが嬉しくて、馬車を降りた時のことを話した。
「うーん、私も小さい方なので、ティト様が嫌がる気持ちもわかりますが、ティト様は特別可愛らしいので、仕方がないかと」
ロアは、私がマスコット扱いなのは仕方がないと言った。
「ティト様、つかぬことをお尋ねしますが、フリーディア様と、身長はどちらが……」
ダリエは、妹のディアとどちらが大きいか聞きたいのだろう。
「……去年、ディアには抜かれましたわ」
そう、私、姉のはずなのに、2個下の妹に背を抜かれてしまったの……
ダリエとロアが、私にかける言葉を慎重に選んでいるのがわかる。
「ダリエ、ロア、気になさらないで。小さいことくらい分かってますわ。ただ、マスコット扱いなのがなぜなのかしらって」
分かっているけど、わかりたくないのです。
「あの、多分ですけれど……」
ダリエが恐る恐る手を上げた。
「何か気付いたのかしら? 教えて下さる?」
ロアも、思うことがあるのかしら? ダリエのことを食い入るように見ているわ。
「グランディエラ様と、フェルトシュパート様は、最終学年で16歳ですわ」
「去年インターンも無事に終わって、今年卒業ですよね?」
なぜダリエもロアも、誰もが知っている当たり前のことを言うのかしら?
「それ、私が皆様からマスコット扱いされることと、何か関係があるのでしょうか?」
私がマスコットなのは、兄様達のせい?
「お二人は、ここ2年でかなり背が高くなりましたでしょう?」
そう、ディアの言う通り、今二人の身長はアズ兄様が187cm、ヘルグ兄様に至っては193cmあるらしい。
「その、ティト様も随分と成長なさりましたけれど、お二人と比べると……」
ロアは遠慮がちに私に伝えているけれど、
「二人とも、よく分かったわ。私があの二人に囲まれると、小ささがより強調されてしまうのね……」
どうやら私は、周りからちびっ子扱いをされているようだ。
「で、でもお可愛らしいことに変わりはありませんわ」
「そ、そうです。ティト様は、やはり妖精のようで素晴らしいですわ」
二人は、しゅんとした私をなんとかフォローしようと必死だ。
「ありがとうございます。でも、あの二人と立ち話をすると、首が痛いので、もう少し背が高くなりたいですわ」
私の身長は13歳になった時で、止まってしまったのかそんなに伸びてない。
アズ兄様の胸下くらいなので、ヘルグ兄様からしたら視界にすら入らないらしい。
——大体、あの二人が大きすぎるのよ
思い出してムッとしたのに、ダリエとロアが子供を見守る母のような、穏やかで優しい目を向けてきたので、
私は、慌てて淑女の微笑みを浮かべた。




