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私の能力は『以心伝心』全部丸聞こえですわ。【第1章100話完結済】  作者: 黒砂 無糖
第2章 思春期のお話

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マスコットガール


「ティト、手を」


 先に馬車から降りたアズ兄様が、私に向かって手を差し出している。


「……アズ兄様のバカ」


 私が赤面したり、文句を言ったりしている間に、馬車は学園の正面入口にたどり着いてしまったわ。


 言い足りない文句を飲み込んだけど、口からちょっとこぼれだした。


「ティト、ほら、さっさと降りて」


 さっきの話がなんだか恥ずかしくて、アズ兄様の手を握るのを躊躇していたら、ヘルグ兄様が後ろから急かしてくる。


「……ヘルグ兄様の意地悪」


 私は、仮にも上位の貴族令嬢なので、こちらを見ている人にバレないように、淑女らしい微笑みのまま、文句を言った。


 3人並んで、貴族らしい紳士淑女の振る舞いで学園内に進んでいくと、



「まぁ、グランディエラ様だわ! 今日も麗しくて素敵ねぇ」


「あら、フェルトシュパート様の方が、逞しくて素敵だわ」


「ほら、ティト様よ、今日もお人形のように可愛らしいわぁ」



 それぞれが正式に婚約を済ませたからか、私達を取り巻く人達から届く声の、意味合いが変わったように思う。



(……なんで私だけ、マスコットみたいな扱いなのかしら……)


 ちょっと気になったので、私は二人に念話で話しかけた。



(それはティトがちっ……可愛いからだよ)


(アズ兄様、何が言いたいのかしら?)


(ティトは、ちっちゃいからなぁ)


(ヘルグ兄様、もう少しマシな言い方がありますわよね?)



 私達は、念話で言い争いをしながら、顔だけはにこやかに、教室へと向かう。



(全くもう! アズ兄様、虚しいから誤魔化さないでください。あと、ヘルグ兄様は、もう少し遠慮して!)


(ティト、可愛い眉間に皺が……)


(……誰のせいですか。アズ兄様に可愛いって言われても、もう誤魔化されません!)


 私は、怒りつつ眉間に力が入らないように意識しながら、出来るだけ綺麗に微笑んだ。



(ティト、可愛いから大丈夫だ。だけど、ちっちゃいのは認めろ)


(ヘルグ兄様! 十分知っているので、何度もちっちゃいと言わなくて結構です!)


 折角顔が安定したのに、ヘルグ兄様のせいで眉間にギュッと力を入れてしまった。



「じゃあ、ティト、また後でね」

(お昼に迎えに来るよ)


 ヘルグ兄様は騎士科に向かい、アズ兄様はいつものように私を教室まで送ってくれた。


「アズール様、教室まで送っていただき、ありがとうございました」

(わかりました。お待ちしてます)


 私はアズ兄様から鞄を受け取り、感謝と色々な気持ちを込めて、微笑みを浮かべた。


 去り際に、アズ兄様が笑いながら私の頬をムニっと軽く摘んだ瞬間



「「「きゃー!!」」」



 教室内のご令嬢が一斉に騒ぎ出した。


 令嬢達の角度からは、アズ兄様が私の頬を撫でたように見えたのだろう……


 ——アズ兄様、また余計な事を


 アズ兄様がスキンシップ過多なのは、今に始まったことじゃない。


 やれやれ、と思って席に着いたら、



「ティト様、おはようございます」

「ティト様、今日も仲睦まじいですわね」


 ダリエと、ロアが教室に入ってきた。


 二人は、いつも通りに、私を挟んだ席に荷物を置いた。


「ダリエ、ロア、話を聞いてくださいませ。アズール様もヘルグ兄様も、私のことをちっちゃいと言うのです。酷いですよね?」


 私の悔しさは、令嬢である二人になら分かって貰えるはずだと相談した。


「まあ、ティト様のことを?」

「ちっちゃいと言われたのですか?」


 私は、二人が話を聞いてくれそうなのが嬉しくて、馬車を降りた時のことを話した。


「うーん、私も小さい方なので、ティト様が嫌がる気持ちもわかりますが、ティト様は特別可愛らしいので、仕方がないかと」


 ロアは、私がマスコット扱いなのは仕方がないと言った。


「ティト様、つかぬことをお尋ねしますが、フリーディア様と、身長はどちらが……」


 ダリエは、妹のディアとどちらが大きいか聞きたいのだろう。


「……去年、ディアには抜かれましたわ」


 そう、私、姉のはずなのに、2個下の妹に背を抜かれてしまったの……


 ダリエとロアが、私にかける言葉を慎重に選んでいるのがわかる。


「ダリエ、ロア、気になさらないで。小さいことくらい分かってますわ。ただ、マスコット扱いなのがなぜなのかしらって」


 分かっているけど、わかりたくないのです。


「あの、多分ですけれど……」


 ダリエが恐る恐る手を上げた。


「何か気付いたのかしら? 教えて下さる?」


 ロアも、思うことがあるのかしら? ダリエのことを食い入るように見ているわ。


「グランディエラ様と、フェルトシュパート様は、最終学年で16歳ですわ」

「去年インターンも無事に終わって、今年卒業ですよね?」


 なぜダリエもロアも、誰もが知っている当たり前のことを言うのかしら?


「それ、私が皆様からマスコット扱いされることと、何か関係があるのでしょうか?」


 私がマスコットなのは、兄様達のせい?


「お二人は、ここ2年でかなり背が高くなりましたでしょう?」


 そう、ディアの言う通り、今二人の身長はアズ兄様が187cm、ヘルグ兄様に至っては193cmあるらしい。


「その、ティト様も随分と成長なさりましたけれど、お二人と比べると……」


 ロアは遠慮がちに私に伝えているけれど、


「二人とも、よく分かったわ。私があの二人に囲まれると、小ささがより強調されてしまうのね……」


 どうやら私は、周りからちびっ子扱いをされているようだ。


「で、でもお可愛らしいことに変わりはありませんわ」 

「そ、そうです。ティト様は、やはり妖精のようで素晴らしいですわ」


 二人は、しゅんとした私をなんとかフォローしようと必死だ。


「ありがとうございます。でも、あの二人と立ち話をすると、首が痛いので、もう少し背が高くなりたいですわ」


 私の身長は13歳になった時で、止まってしまったのかそんなに伸びてない。


 アズ兄様の胸下くらいなので、ヘルグ兄様からしたら視界にすら入らないらしい。


 ——大体、あの二人が大きすぎるのよ


 思い出してムッとしたのに、ダリエとロアが子供を見守る母のような、穏やかで優しい目を向けてきたので、


 私は、慌てて淑女の微笑みを浮かべた。

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