16.センター試験
1月中旬。
私はセンター試験に向けて最後の仕上げをしていた。
仕上げといっても、センター試験過去問をさらっと解いて感覚を養って、あとは甘くて暖かいココアを片手に古文や英単語の単語帳、世界史の要点本をさらっと見ているだけだ。
ここまで来たらあがいて体力や気力を消耗するよりも、ゆったりと余裕に構えているほうがいい。
そういうふうに櫻子は言っていた。
さすがに試験前日なので早く寝るために、学校で居残りもせず、家にまっすぐ帰ってきた。
寝る前に携帯を確認すると、櫻子からのメッセージがあった。
『変に緊張させたり夜更かしさせたりもいけないからこれだけね。返信もしないで。……応援してるわ。』
櫻子の甘く優しい声色と笑みが思い浮かぶ。
私はアラームが設定されているかを確認すると携帯をそっと置き、寝て明日に備えた。
センター試験。当日。
指定された試験会場に向かう。
試験会場の入口には私達受験生と赤染先生をはじめ私達光北高校3年生を指導する先生達が集まっている。
櫻子は……いる。
私に少しだけ笑いかけると、他の子たちの所に行ってしまった。
そりゃあこんな大勢の中でなら、少しでも不自然な動きは出来ないよね。
でも。
私にはどんどん活力……っていうのかな、あたたかいような力が湧いてくる。
櫻子がここにいてくれるから。
今ここにいる私と櫻子はただの生徒と先生として振舞うけれど。
櫻子は、外からは見えないように応援してくれているんだ。
私は早めに来た方らしく、後から後からどんどん同期が来る。
美登が遅刻しないかちょっと心配ではある……と思ったら、美登はあやめと一緒にバッチリ参上してきた。
珍しく、とても珍しく、美登が眠そうにしていない!
「おはよう!」
「おはよう琴葉。」
「今日は調子よさそうだね。」
と私が美登に言うやいなや、
「今回ばかりは徹夜禁止だからね! ってもう2週間前からエナドリは没収してたの。早めに没収しておいて良かったよ。エナドリないと集中出来ないとか宣うんだから!」
と、あやめがふんすふんすと鼻息も荒く、美登が答える前に割り込んでくる。
「コーヒーも駄目って徹底ぶりだよ。んでさらに1週間前から毎朝モーニングコールで起こされて。おかげでもう朝眠たくないよ。夜眠たいけど。」
あやめに圧されて発言のタイミングを見失ったであろう美登はようやく話に入ってきた。
……ちょっと待てあやめ。
前々からあやめは美登の世話をよく焼いてたけど。
……モーニングコール?
いくらあやめでも美登に尽くし過ぎでは?
「え。あやめ、美登にそこまでしてたの!?」
あやめの語気がさらに強くなっていく。
「1年半一緒にいてよーくわかったの。この子には私が付いていないとダメ、ってね。」
……もうそれは親友を通り越しかけてない?
なんかこう、さらに親密な段階に片足踏み込んでない?
ぶっちゃけ。今とても私は困惑している。
「美登。そんなにあやめと仲良くなってたの。文化祭の時はそこまでだったかな?」
美登に話しているのにあやめが先に反応して、
「もうなんか美登をほっとけなくなっちゃったというか、もうお世話するのが楽しくなってきたというか……。」
つづいて美登も、
「あやめって優しいんだよね。あやめのおかげで私、上手くやれるようになってきたと思う。」
確かに美登は真面目だけど、計画性はなさすぎだからねえ……。
それをあやめが助けてくれたんなら、それは素敵なことだよね。
「そっかー。美登、よかったね。」
困惑が少しずつ、美登とあやめへの微笑ましさへと変わっていく。
ほんわかしてきたところで、
「さぁ皆さん。そろそろ気持ちを切り替えましょうねー。」
と、ほっとするような声が響く。
我らが担任、赤染先生だ。
「今までよく頑張りました。さあ、その成果を見せる時です。不安なんてこのオバサンに投げていきなさいな!」
本当に赤染先生は、肝っ玉母ちゃんみたいだ。
「みんなー! 私も応援してるわ! あなた達ならやれるはず! 普段通りよ! 自分を信じて!」
赤染先生に続いて櫻子……藤枝先生もエールを飛ばす。
私個人ではなく、ここにいるほぼ全員に向けた声援。
他のクラスの先生たちもそれぞれ激励を贈る。
「準備ができましたので、随時入ってくださーい。」
センター試験の係員の声だ。
「行ってきます!」
クラス担任・赤染先生の暖かさ。
古文の担任・藤枝先生の優しさ。
そして。
恋人・櫻子の愛情。
そんな素敵なものを背に、私は試験会場へと向かった。





