15. 大晦日の夜
※櫻子視点です。
私と琴葉はそれぞれの家で年越しを迎えようとしている。
私は実家に帰っている。
実家では、父、母、そして実家で暮らしている弟が私を迎えてくれた。
シワや白髪が増えながらも、私と同じ教員という仕事に就きながらも、帰ってくるとなんやかんや世話を焼いてくれる両親を見ていると、孫の顔を見せるという親孝行は出来なくなりそうなことを申し訳なく思うことはある。
それは、弟に託そう。
その分、弟に子どもが出来たら琴葉と一緒にめいっぱい世話を焼いたり手助けはしようと思っている。
次世代を育てるという意味では、十分に私はその役割を仕事として果たしてはいる、とは思っているけれど。
私の家族……父、母、そして弟はみんな教員。
最近になってようやく働き方改革が教員の世界にも出てきている。
しかし、他の業種の話を聞く限りでは、まだまだ教員の世界はブラックだ。
そんな教員同士の夫婦のもとに生まれた私達姉弟は正直なところ、親からはあまり構ってもらえなかった。
物心ついたころには、家でずっと本を読んでいたり、学校に行くようになったら学校の図書室や市の図書館に籠って本を読んでいたりした。
両親が忙しい部活の顧問になった時期は、祖父母の家に姉弟揃って預けられているなんてことも当たり前だった。
弟はどうやら、結婚を考えている彼女がいるらしい。
一昔前と違って、今は共働きが当たり前。
家族全員が同じ働き方であるがゆえに、苦労も、そして仕事から得られる喜びや誇り、やりがいも共感はできる。
弟は、いつかは子どもが欲しいと言ってはいる。
だが弟はまだ先生2年目のほぼ新人だ。
そしてまだまだ遊びたい時期でもあるだろう。
父と母は、私には結婚や子どもの期待をあまりしなくなっている。
弟のほうが期待に応えそうだというのもありそう。
だがそれに加えて、私が3年前に彼氏……男性の恋人と別れている、ということも大きいだろう。
思えば、両親の圧がトーンダウンしたのと、元彼と別れた時期はほぼ同じだ。
元彼は悪い人ではなかった。
ただ。
私自身が納得できなかったのだ。
彼は誠実な人ではあった。
私は元々、少女の頃から異性にはほとんど興味なんてなかった。
最初は、周りの異性に魅力が無いから、と思っていた。
恋にうつつを抜かす周りを見ながら、魅力的な異性が現れれば私も恋をするのだろうか、と思っていた。
そのまま私は成人し、大学を卒業し、教員となった。
そして何年かして当時の同僚に誘われて行った合同コンパ……すなわち合コンで出会ったのが彼だった。
彼は私を気に入ったようで、交際を申し込まれた。
……彼はいい人ではあった。
だけど。
私の中の違和感は、どうしても消すことができなかった。
結局、彼とは時々一緒に食事をしたり、映画を見たりする……一度だけ、キスはしたかしら。
しかし、それ以上の関係に進むことはなかった。
……いいえ、今思えば。
私自身がそれを拒んでいたのでしょう。
彼は優しかったから、私がその気になるまで待とうとしてくれた。
……でも。
そうなる前に、私が違和感に耐え切れなくなった。
優しい彼は、一年ほどの交際で別れてくれた。
それから私は、誰とも恋人として交際することはなかった。
恋愛なんて物語の中だけの絵空事……とまでは言い過ぎね、周りは当たり前のようにしているけれど私には遠いもの。
そんな認識になった。
そして……今の職場、光北高校へと異動し琴葉と出会った。
最初は、琴葉はたくさんの生徒の中の一人でしかなかった。
だけど琴葉は私のいる図書室に何度も通ってきて、私もすぐ親しみを覚えた。
そして私は、いつの間にか琴葉に惹かれていた。
先生として許されないと分かっていても、琴葉と結ばれたいと願ってしまった。
あの時の彼にすら抱けなかった想いは、琴葉が抱かせてくれた。
琴葉は私の特別になっていたのだ。
そして琴葉は私に告白をしてくれて、私は琴葉と結ばれた。
この間のクリスマスで、琴葉とお付き合いをはじめて1年が過ぎた。
1年間で私は確信が出来た。
あの違和感の正体は、彼が私の特別ではなかったということだ。
あの優しい彼とは味わうことのなかった独占欲も、甘いキスも、初めて琴葉が教えてくれた。
ふふ。
貴女より12年も長く生きているのに、誰かに対してこんな気持ちを抱くことは、実は琴葉が初めてなのよ。
先生ぶってるけれど、本当はわからないことだらけなのよ。
「櫻子。楓斗。年越し蕎麦を食べるよ。」
私と弟を母が呼んでいる。
いつの日か、弟とそのお嫁さんとお子さんがここを賑やかし、私と琴葉が力になれる日が来るのかしら。
その前にもっと近い未来の希望があるわよね。
ええ、来年には、琴葉と年越し蕎麦を食べて、2人で新年を迎えましょうね。
この先ずっと、そうしていられますように。





