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禁忌魔法とその代償


アイさんは領主と対峙している……


戦闘力を分析すると、分が悪いんじゃないかなぁ?

レッドさんの不意打ちを一蹴したってことは、領主はそれなりの実力者なんだろうし。

たぶん、まともに戦っても勝ち目がないからこそアイさんは機を窺ってたんじゃないの?


「ふん、洗脳が解けたのか…… 惚けた人形のままでいれば良いものを」

「私はこの屋敷に来て、ずっと邪魔者がいなくなる瞬間を待っていたのだ…… 1対1にさえなれれば、お前を倒す事など充分に可能なのだからな」


アイさんは、何やらカードを取り出して呪文を詠唱し始めている。

おそらく領主の方が格上で、それでもアイさんには1対1なら倒せる方法があるようだ。

アイス・ミラストの名前の如く、凍てつく空気が迸っていっていく。


やっぱりアイさんは氷の魔法使いだったんだね! 凄まじい魔力が渦巻いているよ。

でも、その氷の魔法で領主を本当に倒せるの?

普通に戦っても勝てない格上を倒せる、その切り札とは……


「アイス・クロック──時間凍結魔法ッ!!」


──『時間凍結魔法』ッ!??

えっ、嘘でしょ……? そんなの、前世の未来技術ですら不可能な超常現象だ。

私のステッキが持つ、星の記憶にすら時間の凍結なんてメモリーは存在しない。

そんな万物を超えた超常魔法なんて、人の身で扱えるわけが……


「あれは、禁忌魔法ですよッ!!何の代償も無しに扱えるものではありませんッ!!」

「氷系の最終奥義は時間の凍結だと聞いた事がある…… しかし、それを生身の人間が扱うのは不可能のはず」

「なぁ…… もしかしてあのメイドさん、ここで死ぬつもりなんじゃねえの?」


呪文が完成し、領主の体周り全てが止まってしまう。

動かない表現、閉じない瞼、微動だにしない服、そして周りの空気……

全ての時が止まった空間が、そこにはあった。


「メア、今すぐその呪文を解除してっ!!」


珍しく、普段温厚なお母さんが必死な大声を上げながら叫んでいる。

なにかマズい事態に陥っている…… こんな現象、あまりに異常すぎる!

私はステッキを取り出し、術式への魔力の介入を試みた。


アイさんは止まった領主に対して、鉄の針芯を全箇所に投げ付けている。

見事だ…… 格上の宿敵に対して、命を引き換えに引導を渡そうとしている。

この人は、そこまでしてこの領主を倒したかったのか。

理由を、ちゃんと聞いておけば良かったのかもしれない……


倒れゆくアイさん、やり遂げた表情をしながら瞼を閉じてゆく。

でもこれまでだ、これ以上は黙ってみているわけにもいかない。

私は術式に強引に割り込み、力技で無理やりにそれを解除させた。


「アイさんっ、しっかりして!!」


私はすかさずヒールを掛けて、アイさんを介抱した。

いくらパーフェクト・ヒールが万能とはいえ、今回ばかりは効くかどうか分からない。

おそらくアレは、『命の容量』そのものを犠牲にして発動させた禁断の魔法……


「魂の濃度が減っているわ…… でもメアのおかげで、なんとかなりそうよ。私の生命力を一時的に貸しておけば大丈夫なはず」


お母さんは、人の持つ“魂の色”までも見ることが出来る、のか……

もしかしたら、私の魂の、その色までも……。

いや今はそれよりも、一時的に生命力を貸すってどういう事だろう?

でもここは、お母さんに任せてみるしかない。


「クックッ…… やはり王妃殿は凄いな。未だに王家が探し続けている理由がよく分かるというもの」


声の聞こえてきた方を振り向く。

後ろでは光が眩いで揺らいでいる……


光が消えると、そこには全身を串刺しにされて時間が動き出したはずの領主が、何事もなく立っていた。

そんな…… アイさんが命懸けで仕留めようとしてたのに。

よく見ると領主の首輪に掛かっていた宝石が、1つだけ砕け散っていた。


「あれは『リザレクション』の魔力が込められた宝石……」

「くそっ、金に物を言わせてとんでもない物を身に付けてやがんな!」

「卑怯者めっ! あれじゃオレが負けたのも当然じゃないか!」


いや、レッドさんが負けたのはリザレクションの宝石とやらとは関係ないと思うけど?

あと、レッドさんにだけは流石に卑怯者だと言われたくはないと思うよ。


倒れてるアイさんを見ると、少しだけ動いているのが分かる。

どうやらお母さんのおかげで一命だけは繋ぎ止めているようだ。

本当ならここで尽きるはずだった命、助かっただけマシと思うしかない。


「メア、心配しなくていいわよ? “エリクサー”があれば、完全に回復するはずだから。メアなら、きっとその内それも見付けてこれるはずよ」


エリクサーは神秘の秘薬で、高難易度ダンジョンの深層でたまに見付かったりする代物だ。

それは市場に出回る事は稀で、出たとしてもとんでもない金額で取引されているんだとか。

その秘薬があれば、一時的に貸した生命力とやらもお母さんに戻して、アイさんも復活できるのだろうか。


「ふん、そんな小娘一人にエリクサーなどと大袈裟なものだ。まあ“時間を止める”という魔法には私も少々驚いたがね……」


領主はアイさんを見ながら、侮蔑の視線を向けてくる。

しかしその魔法にだけは、それなりの評価と賞賛をしているようだ。

時間を止めるなんて、私にさえ出来ない。


ここはファンタジーが主体の魔法が行き渡っている世界。

どうやら私の力を持ってしてでも再現できないような魔法が存在するようだ。

実際に、私が時間凍結魔法なんて喰らえば負ける可能性だってある。

魔法少女としての力があれば何でも出来るかと思っていたけど、ちょっと気を引き締めた方がいいのかもしれない。


「さて、ようやく少し落ち着いて話が出来そうだな?」


領主が振り向き、私たちに向かって対面してくる……

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