アルティメットババ抜き
今回はみんなでワイワイとゲームをするだけのお話です……
晩ご飯をみんなで楽しく食べて、ワイワイと騒ぐ。
それからみんなが順番にお風呂に入っていく。
あとはお布団を敷いて、明日に備えて寝るだけとなった所で、、
「では今から、スーパーババ抜きアルティメット大会を開催します!」
「「わあああいっ!!」」
ドンパチと拍手が沸き起こる中、混沌的なババ抜き大会が教会の聖堂の中で開催されようとしていた……
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☆スーパーババ抜きアルティメットルール☆
・通常のババ抜きは順番通りに決められた相手の手札を引いて行くが、スーパーババ抜きでは手札を抜く相手を各自任意で選べる。
・通常のババ抜きは手持ちのペアがあれば場に捨てる事が前提だが、スーパーババ抜きでは必ずしも捨てる必要はない。ペア同士で一気に4枚上がりするのもアリ。
・勝った人は負けた人に、1つお願い事が出来る。1位の人は2位以下全員に、2位の人は3位以下全員に。上位者絶対制度、下位敗北者は複数の命令を聞かなくちゃいけない。
このアルティメットルールの肝は、勝たせたくない相手がいれば周りがその人の手札を一切抜かない事によって、その人の手札が一向に減っていかない状態に陥らせられることにある。
手札が少なくなってきた人は誰からも引かれなくなるので、自力でペアを揃えて減らしていくしかない。
しかしペアを揃えるよりも失敗して違う数字を引き、再び手札を増やしてしまう可能性の方が高いため、中々ゴールには辿り着けない。
またその手札の少なさを誤魔化すために、わざとペアを残して自分の手札がまだまだ多いと周りに錯覚させる事もテクニックになる。
残り5枚だと思ってた相手から手札を引き、残り4枚になった途端にいきなり2ペアで上がられてしまう事もある。
しかしこのテクニックは当然、せっかく揃えてたペアを相手に取られてペアを崩されてしまうリスクも付きまとう。
「ではみなさん、良いですか? ババ抜きを開始しますよ~!」
カードがシャッフルされて各手前に配られていく。
参加メンバーは、メア、ミアちゃん、アンジェリカ王妃、ギルマスのお爺ちゃん、マリーさん、ホークさん、レッドさん。
それぞれが内なる欲望を渦巻かせながらゲームに挑もうとしていた。
(ふぇぇ…… メアちゃんともっと仲良くなりたいよぉ……)
(メアちゃんとお風呂で洗いっこ! お風呂で洗いっこ!)
(ほっほっ、この子とは一度手合わせをお願いしたいのぅ)
(教会を飛翔させるためにはドラゴンの翼と魔核が必要だな……)
(俺の待遇、最近酷くね? 待遇改善を要求するぞっ!!)
そしてゲームは今、始まったばかり……
**
配られた7~8枚のカードを見て、各々が考える。
(誰も場にペアを出さない…… 全員がペアを隠し持ってると見た方がいいな)
(初手、まさかの場にペア出ずの開始か…… こりゃ長期戦になりそうだな)
(うげっ、ジョーカーだ…… さっさと誰か引いてくれねえかな?)
目線と目線が行き交い、それぞれが牽制し合う。
そんな中、小さな愛嬌のある幼い声が場に響いた。
5才の純真無垢な女の子、幼女のミアちゃんだ。
「ふぇぇ…… ペアが出来てるよ、やったぁ!」
満面の笑みで手札からペアを場に捨ててくるミアちゃん。
その顔には打算や計略など窺えない、純粋な眩しさがあった。
その様子に場の全員が思わずほっこりしてしまう。
(やっぱり幼い子は純粋で可愛いわね……)
(まあこの子なら先に上がってもらっても別にいいかな?)
「あっ、私もペアが出来てるよ。えへへっ!」
続いてペアを場に捨ててきたのは、メアだった。
その行為に、思わず全員が思考を巡らせる。
(メアちゃんは頭が良い…… なのに、なんでペアを捨てたんだろ?)
(ふむ、所詮は5才児だと言うことか…… 普段はあんなにしっかりしているのにな)
先程のミアちゃんの行動で絆されていた面子は、そのメアの行動も5才児なんだと思わせるような選択に映っていた。
だけどそこはメア、その行動には打算も計略もたっぷりと詰まっている。
(ふふ、これで私はペアを隠し持ってないと皆には映ったはず。全員の警戒心を一段階下げる事に成功したよっ!)
そう、あえてペアを出し、自分はペアを持ってないと周りの警戒心を緩める事がメアの狙いだった。
しかもその手持ちは、配られた時点で既に2ペア出来ており、そして場に出したのは1ペアだけ。
この幼女、どこまでも策士である。
「最初に7枚だった人が、まず8枚の人の手札を引いていって! 後は誰の手札を引こうが、引く人の自由よ!」
アルティメットルールでは、相手を選んでカードを引ける。
嫌いな相手のカードは引かないし、また勝っても構わない相手のカードは引いてしまう。
逆に、“お願い事”をしたい相手には、勝ってもらっては困る。よってカードを引いて手札を減らすのを助けたりはしない。
このルール上、みんながカードを引く相手は必然的に決まってくる。
先程の行動でも、警戒心を完全に削がれてしまった相手。
「ふぇぇ…… なんでかみんな、私のカードを引いていくよぉ」
最初にペアを出して数が減らせたと喜んでいたミアちゃんは、その後も皆から次々にカードを引かれていて驚いていた。
あっという間に残り1枚になり、後は自力でペアを引いて揃えるだけになる。
(まあこの子なら仮に上がられても別に構わないな)
(自力で揃えられる確率は3/49…… まあ難しいだろうけどな)
(やっぱりペアを残して相手に引かせる方が無難だよね、このルールって)
そして運命の一手、ミアちゃんが引いたそのカードはっ!!
「ふぇぇ…… 別のカードを引いちゃったよぅ」
涙目になりながら引いたカードを見詰めるミアちゃん。
せっかく残り1枚にまで減らせたのに、また2枚に増えてしまった手札。
このアルティメットルール、ゴールまでの道筋は果てしなく遠い。
(まあそう簡単に上がれたりはしないよな)
(ペア残しで3枚から2枚に誰かに引いてもらった方がまだ簡単なんだよな)
(やはり自力でゴールするのは難しい、か……)
ゲームは続いていく。
再び誰かがミアちゃんのカードを1枚引き、残り1枚になる。
だけど最後の1枚だけは誰も引かず、その1枚の壁がゴールを阻んでいる。
涙目になるミアちゃん、3/49の壁は厚い。
「はい、ミアちゃん。そのカードもらっちゃうね!」
そこで救いの手を出したのは、メアだった。
残り1枚だったカードを引かれて、この時点でミアちゃんの1位ゴールが確定する。
ぱぁぁ!と表情を綻ばせて、満面の笑顔になるミアちゃん。
「ふぇぇ…… ありがとう、メアちゃん! 大好きっ!」
そして1位の特権だとばかりにメアに抱き付いてくるミアちゃん。
どうやらメア以外には眼中に無いらしい。
(えええ~!? 残り1枚の人の手札を取っちゃうのっ!?)
(やはりメアちゃんは天使。見た目だけでなく中身までも天使ねっ!)
(まあアリっちゃアリな方法か、どうせミアちゃんの1位ゴールは確定してたし)
そう、このミアちゃんの1位ゴールは既に時間の問題でしかなかった。
ならば、どうせ1位ゴールされるならばゴールされた時の“お願い”が緩くなるよう、その印象を良くしておく。
それもまた戦略の内の一つ、メアはここまで計算詰みで、あえてミアちゃんの最後のカードを取ったのだった。
「えへへ~。メアちゃん、ぎゅ~♪」
しかしミアちゃんの場合、印象を良くするも何も、最初から勝った時にはメアに思いっきり抱き付く気満々であった。
あんまり効果が無かった作戦ではあるが、メアはその事に気付いていない。
今もこの状態を、作戦通りの結果だと思い込んでいる。
(よし、ミアちゃんの印象は上々ね。どうせ勝たれるのならこれがベスト!)
メアの知謀と策略は続く。
**
1位ゴールが出た事、手札が回りに回った事、牽制が牽制を生み出し続けた事。
ここらでゲームは動き出した。
「ペアだ、この2枚を出すぜ」
「ペアね、この2枚を捨てるわ」
いくらペアを隠し持つ理由があっても、2ペア、ましてや3ペアなどは流石に要らない。
それに、ペアを捨てていかないとゲームは動かない、いつまでも牽制し続けてもしょうがない。
このアルティメットルール、泥沼に陥りがちではあるが、それでもゴールはいずれやってくる。
(カードを引く相手は、偶数持ちの奴…… 引いた瞬間にゴールなんてされるリスクが無い)
(あいつは執拗に同じ奴からカードを引いてるな、さては自分のペアを引かれたか)
(撹乱させるためには俺も同じ奴からカードを引いておくか)
それぞれがそれぞれの相手を分析していき、場を引っ掻き回していく。
そんな中、第2のミアちゃんポジションとして選ばれている者がいた。
メアのお母さん、アンジェリカ王妃である。
「うーん、なかなかカードが揃ってくれないわね……」
いつもニコニコとしていて微笑んでいるアンジェリカ王妃は、実は誰よりもポーカーフェイスで表情が読めなかった。
しかし、この場において“別に勝たれても良い相手”としては共通の認識だった。
下手に残り3枚や5枚の相手からカードを引くよりも、ある意味ずっと安全牌である。
「メア、またカード貰ってもいい?」
「うん。どうぞ、お母さん!」
そして親子だからか、メアのカードをよく引いている。
メアに“お願い事”をしたい面子はその様子にハラハラドキドキだ。
いっそのこと、先に上がってもらって場を退場してもらった方がいいまである。
後ろから2人のカードの様子を見ていたミアちゃんは、その中身に絶句していた。
「えっ、これって…… 何で??」
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・
ゲームは進み、何枚かのペアが捨てられて全体数が減ってきた頃。
メアに勝ってほしくない面々と、メアのカードをよく引くアンジェリカ王妃。
その一進一退の攻防が繰り広げられていた。
そんな中、ついにオールペアを揃えた者が現れる。
「よしっ、やった! 2ペアで上がりだよっ!」
4枚のカードを場に出し、上がり宣言をするメア。
ペアを隠し持っていない風を装おっていたというのに、蓋を開けてみれば隠し持っていた幼女。
やられた、と項垂れる面々の落ち込みよう。
しかしその落ち込み様も、次の者の出した一手で騒然となった。
「あら、ようやく上がったの? じゃあ、私もこれで上がりね!」
それは残り2枚で待機していた、メアのお母さん。
なんとメアが上がると同時に、自分もその2枚を場に出して上がり宣言をしてきたのだ。
当然、場に出してきた2枚は同じ数字のペアである。
「えっ、どういう事…… お母さん、いつでも上がれる状態だったって事??」
ルール上、ペアを揃えても必ずしも場に出す必要はない。
それは言い換えれば、ペアで上がれる状態であっても必ずしも上がる必要は無いってことでもある。
たとえば、ゲームに残って誰かをサポートしたい場合などには……
「ふぇぇ…… メアちゃんのお母さん、何度も上がれる状態だったのに、一向に上がろうとしなかったよぉ」
ミアちゃんのその言葉で、明かされる衝撃の事実。
微笑みながら「なかなかペアが揃わないわねぇ……」などと言いながら、実は何度もペアが揃っていたという。
なんという策士。そしてポーカーフェイス、ここに極まれり!
「やられた…… まさかメアちゃんのサポートのために、わざとゲームに残っていたなんて」
「真っ先に上がらせるべきだったのは、王妃様の方だったか」
「残り1枚を引くその覚悟が、俺らには無かったんだよな……」
ゲームの大局は決した。
1位はミアちゃん、2位はメア、3位はメアのお母さん。
だが、策士賞とポーカーフェイス賞を与えるのならば、優勝はメアのお母さんだろう。
残りの面々は、もはや消化試合と化したそのゲームに淡々と手札を動かしていた。
ペアを残すのも面倒くさくなってきたのか、その決着は早いものだった。
尚、最下位のドンケツはレッドであった。手札のジョーカーが最初から最後まであったらしい……
「まっ、そういう事で。明日の切り込み隊長はレッドさんに決定だね!」
「鉄砲玉は任せたぞ、ビリで最下位だったレッド君!」
「何かあればレッドさんごと範囲魔法で吹き飛ばすからね!」
「作戦としては悪くないのぅ、突入した屋敷の中では何があるのか分からんからのぅ……」
「うわああっ! どうしてこうなったぁ~!!」
作戦決行前夜、こうして賑やかな夜は更けてゆく……




