それはとある賞金首ハンターの後悔と懺悔
俺は賞金首ハンターのゴドー。
今まで仕留めてきた賞金首の数は数知れず。
そしてついた二つ名が“首狩りの野獣”……って、誰が野獣だコラッ!
今日はとある町でウマイ話があるというのでわざわざ遠くからやって来た。
そこには信じられない額のWANTED──“賞金首”。
そして見るからに弱そうなその内容があった。
しかも領主が公認しているという正規のもの。
まあ、ここの領主に関しては悪い噂しか聞かないのだが……
・ 高貴なる御婦人 金貨1000枚(生け捕りオンリー)
・ 悪魔幼女5才児 金貨500枚
・ 火の女魔法使い 金貨100枚
・ スマート武闘家 金貨80枚
・ 普通の平凡戦士 金貨20枚
そう、噂通り、いやそれ以上のこの額である。しかもトップ2の内容がただの婦人と5才の幼女だと言うではないか!
まだ3番以下の火の女魔法使いやら4番の武闘家やらは手強そうだが、2番の幼女に至ってはまるで理解が出来ない。
1番の婦人と2番の幼女を揃って捕まえば金貨1500枚という、破格中の破格な賞金が一気に舞い込んでくるのである。
これは賞金首ハンターでなくとも、身柄を抑えに行こうする者が続出するのではないか?
まあここの領主の事だから恐らくロクでもない理由で捕らえようとしてるのは分かるが、それでも額が額である。
理由なんて聞かなければ知らないのと同じ、ただ賞金首に従って捕らえようとした、それだけで充分。
下手に深入りしようとも思っていない。
俺は早速町の中で目的の賞金首の情報を集める事にした。
尚、5番の平凡な戦士とやらはどうでもいい。
こいつは無視しよう。
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「ああ、幼女? あー、あの子か、あの子ねぇ…… 関わらない方がいいんじゃないの?」
「あんた、5才の女の子に何しようと企んでんの? 最低ッ、その頭ハゲさせてしまえばいいんだわ!」
「あの女の子は天使じゃぞ…… 手を出してはイカン! 罰が当たるぞぇ?」
広場や酒場で集めた情報は、どうにも話がマチマチであった。
5才児だから手を出してはいけないだの、あの子は天使だから敬えだの。
こいつら、あの幼女が賞金首で金貨500枚になってることを知らないのか?
もちろん、俺にだって良心はある。だけど所詮は赤の他人だ。
母親とセットで捕まえれば金貨1500枚…… この魅力には逆らえまい。
しかも良い噂を聞かないとはいえ、一応は領主からの正当な依頼だ、断じて無意味な誘拐等ではない!
相手はただの幼女、獲物としては美味すぎる……
俺はその欲望のまま、幼女が居るとされる場所を目指して向かっていった。
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荒れる大地、立ち昇る砂埃、乾いた空気……
街道沿いの道中で、ついに俺は標的であるターゲットを見付けていた。
何やらハゲの集団に御輿椅子で担がれている5才児の女の子。
「んん~? なんだコイツは~??」
「おおい、幼女様のお通りだぞ! 道を空けろ、貴様ッ!」
「なんだか生意気そうな奴が居ますねぇ、どうしましょう?」
……なるほど、只の5才児では無いと踏んでいたが、こういう事だったか。
恐らくコイツらハゲ集団は幼女に雇われた護衛、そして幼女に何かあればこのハゲ集団が相手をするという算段か。
金貨500枚などという破格の賞金額に、何事かと警戒してみれば何てことはない、ただの護衛で固めた素人軍団だ。
「おい、俺の名は“首狩りの野獣”こと、賞金首ハンターのゴドーだ。お前の母親は何処にいる?」
俺は名乗りを上げて、御輿椅子に座っている幼女に向かって言葉を投げ掛ける。
この幼女一人だけでも金貨500枚だが、どうせなら母親とセットで捕らえてしまいたい所だ。
質問を問われた幼女は、俺の言葉に眉を顰めて答え返してくる。
「私のお母さんは、私達の住み家に帰っている…… あなたの目的は、私のお母さんなの?」
椅子の上でふんぞり返った幼女が、私を睨んでくる。
ふむ、まるで5才児とは思えぬようなハッキリとした受け答えには関心するが、それだけだ。
このハゲ軍団をけしかけた所で、この“首狩りの野獣”の剣の前では無力だ。
数の暴力で優位に立っているつもりだろうが、その威勢が何時までも続くかな?
「もしそうだと言ったら、どうする?」
あえて幼女を挑発してみる。これで相手の出方を窺ってみるのも面白い。
このハゲたちはまるで兵士を思わせるような訓練と統率を思わせる。
だけど、それがどうした? こんな程度の奴らを蹴散らして金貨500枚ならボロ儲けもいいところだ。
「このヤロー、幼女様に向かって何て口の聞き方ッ!」
「コイツはおれらが始末しますぜ、少々お待ちをッ!」
「てめえ、タダで帰れると思うなよ? 覚悟しやがれッ!」
「──待ちなさいッ!!」
……てっきり、このままハゲ軍団との乱闘に突入するのかと思ったら、座ってた幼女がそれを制してきた。
そして御輿のように担ぎ上げられた椅子から立ち上がり、こちらを真っ直ぐに見据えてくる。
それは5才児とは思えぬような堂々とした振る舞いだった。
「この目の前のゴミ野郎は、私が直々にぶちのめすわッ! お母さんを拐う? 誘拐する? よくもそんなふざけた事を私の前で言えたわねッ!!」
幼女は怒りの形相で私を睨んで来た。確かに、自分の母親を拐うとこの子の目の前で宣言したようなものだ。
この子が怒り狂うのは当然のことであり、今更ながら少しの罪悪感に蝕まれてしまう。
しかし、なぜだ? 一体、5才児に何が出来る? どうして直々に俺に向かってくるなどと宣言してきた??
「うおおおおっ、幼女様が直々に戦いに為されるぞ!」
「おい、てめえ! 生きて産まれた事を存分に後悔しやがれッ!」
「ははっ、お前もう終わりだよ、幼女様の機嫌を損ねてしまったんだからなぁッ!」
目の前にいるハゲの集団がこちらに向かって一斉にゲラゲラと笑い飛ばしてくる。
なんだ、これは? お前らは、この幼女を止めないのか? 5才児だぞ?
──何かが、おかしい。一体、どうなってやがる……?
そもそもコイツらは、本当に金で雇われた護衛なのか?
「ねえ、オジさん? 覚悟は良いかしら? 今から、愚かな貴方には、この世の地獄を見せてあげるわ……」
椅子から降りて、目の前に対峙してきた幼女が構えてくる。
どう見ても幼女、ただの5才児、戸惑いや躊躇いが生まれる。
こんな年端もいかない5才児を、俺は金貨500枚の為とはいえ、捕らえようとしていたのか……
しかし、何故だかさっきから嫌な汗が体から止まらないでいる。
言い知れぬ得体の分からない不安が身体中を駆け巡っている。
この、5才児の幼女は──こいつは、只者では無いッ!!
「斬烈剣・グランドカタストロフィッ!!」
気が付けば、相手が幼女だという事も忘れて俺は最大の奥義を放っていた。
今まで数多の賞金首を仕留めて来た技、大地をも斬り裂く必殺の一撃。
幼女の生死は問われていない、だけど……
それ以上に、殺らなければ殺られる気がした!
「へぇ~、オジさんって結構強いんだね…… こんなに強い人、私初めて見たかも?」
モクモクと立ち昇る砂煙の中、大技を放った向こう側から素っ頓狂な声が聞こえてくる……。
さっきから嫌な汗が止まらない、初めて味合う、かつてない恐怖という感情。
──“悪魔幼女”という賞金首の名付けに、今更ながらそれを思い起こしていく。
「でもまあ、ビームライフルとかに比べたら、ちょっと遅すぎるかな?」
砂埃が晴れたその先には、身体どころか衣服に傷一つすら付いていない幼女の姿があった。
その姿を見た時、俺は直感的に圧倒的なレベル差を感じ取り、この目の前の存在にはどう足掻いても勝てない事を悟ってしまった。
恐怖でまるで身動きが取れない…… ダメだ、これは相手が悪すぎるッ!!
「折角だから、オジさんには変身シーンを拝ませてあげるね? これから行われる惨劇の、序章として」
幼女が何やらステッキを空間から取り出し、眩しい光を放っていく。
あのステッキはヤバい、あれだけでも世界を歪み兼ねない程の力を持っている。
そして今から行われようとしている“変身”とは……
嫌な予感しか駆け巡らず、悲鳴で竦み上がる身体に鞭を打って必死に逃走を試みた。
もし逃げられるチャンスがあるとすれば、それは今この瞬間しかないッ!
自分はこれまでも修羅場や死線を何度も潜り抜けてきたつもりだ、勝てなくとも生き残る術ぐらいは知っているッ!!
後ろで眩しい光が収まり終わろうとしてる間に、必死に身を駆け出していく。
あの子は、俺が母親を拐おうとしていた事を怒っていた……
普通に考えて、そんなの、あの子にしてみれば俺を許すはずが無いっ!
どうして自分は、何故あの時そんな事をしようとなんて思ってしまったのか……
「あはは、なんだか必死に逃げちゃって…… 後悔は済んだのかしら? ねえ、愚かで、哀れなオジさん?」
振り返ると、そこには翼を生やした天使のような──いや、天使そのものがいた。
青と白のドレスを纏い、空中から見下ろすように風に揺られながら滞空している。
一瞬のスキを突いて、逃走を試みた自分を嘲笑うかのように空から見詰められている。
──終わった。哀れで必死な逃走も、天空から監視されてしまったならまるで意味が無い。
これから始まるのは自分が犯した罪に対する粛清と断罪。
自業自得と分かっていながらも、後悔が押し寄せて泣き崩れてしまいそうだ。
太陽の光が眩しく照らし、空はどこまでも青く果てしない。
それにしても、この幼女は…… なんて美しい姿なのか。
この子の賞金首が金貨500枚? 馬鹿を言え、そんなのあまりにも安すぎる……
もし、そうだな、自分がこの子に値を付けるとすれば。
──まあ、『金貨10000枚』ってところじゃないのか……?
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この日、有名な賞金首ハンター“首狩りの野獣”ことゴドーは姿を消した。
そしてハゲ集団の中に新たなメンバーが1名加わり、猛威を奮うことになる。
その新メンバーのハゲは幼女を熱烈に信仰し、後に「幼女教」と呼ばれる一大宗教を立ち上げるのだった。




